日本土壌微生物学会2006年度仙台大会を終えて

2006年6月10日−12日に日本土壌微生物学会第52回仙台大会が東北大学で開催された。出前授業、サテライトミーティング、市民のためのシンポジウム、大会シンポジウム、一般 講演(口頭発表、ポスーター発表)、エクスカーションと多くの企画があり、主催者側としては大変緊張し忙しいものでした。しかし、終えての感想を一言でいうと自画自賛ですが「参加者が得をする刺激的な大会」であったと思います。

大会前日には、土壌微生物学会サテライトミーティングとして「植物根圏の微生物・微小動物の機能と相互作用 」を島野智之氏(宮教大)、境雅夫氏(鹿児島大)、南澤がオーガナイザーとなって開催しました。会場が狭く50名で溢れてしまいましたが、植物根圏という場を中心に土壌の原生生物を中心に12名が話題提供しました。今まで土壌動物の重要性は指摘されていましたが、同定法や食物連鎖、相互作用など面 白い世界があることが感じられたミーティングでした。今回のオーガナイザーを中心に仙台市で第2弾を本年の冬に企画する予定にしています。  

名古屋大会から始まった出前授業は、「土の微生物のふしぎなちから 〜植物を助け、環境をきれいにする働き者〜」と題して、やはり大会前日の9日に仙台市立鶴が丘小学校 6年生約50名を対象に行われ、講師の片山葉子氏をはじめ雨宮会長、学会事務局、大会事務局もデモンストレーションのお手伝いし大変好評でした。  

翌日の6月10日の午前には、市民のための公開シンポジウム「大地の微生物:大いなる未知」が開催され、講師として染谷孝氏(佐賀大)「土の微生物の働きを探る」と服部勉氏(東北大)「ひと粒の土に微生物多様性を探る」が市民に分かりやすく話をして頂きました。参加者は一般 市民が34名、東北大学生13名の合計47名で、一般市民以外に教育関係者や自営業の方も参加され、アンケート結果 からも参加者は微生物の面白さや不思議を堪能されたようです。  

10日の午後には大会シンポジジウム「微生物多様性の中の機能ネットワークを探る」が開催され、5人の講師に話題提供をしていただきました。名古屋大会では、多様性が高いことは果 たして、安定なのか生産性を保証するものであるかなど種々の角度から土壌微生物の多様性の持つ意味や土壌機能との関係について議論されましたが、本シンポジウムでは土壌生態系のホメオシスタシスや機能を維持している主要な相互作用因子やそれを支えている鍵微生物についてどのように研究を進めることが必要か、個別 アプローチ (bottom-up)及び網羅的アプローチ(top-down)の両面から考えようとしました。中心的な話題は、土壌微生物学会誌「土と微生物」Vol. 60, No.2 (9月号)に掲載されています。水田土壌の機能と難培養性メタン生成古細菌の分離、微生物の密度因子、(メタ)ゲノム解析などで、微生物コミュニテイーとしての土壌環境の物質循環機能とはなにか?今まで培養できなかった機能微生物を分離するとはどのようなことか? 環境ゲノム解析で何が分かるか? など大変考えさせられた大会シンポで、参加者からは刺激的だったという感想が多数寄せられています。 次回の千葉大会では、土壌微生物を使った技術などの応用を中心とした大会シンポが企画されるとのことです。50周年記念大会のアンケートからはじまった「微生物多様性」をさらに色々な角度から深めていけると良いと思います。  

12日には、「福島の農業と微生物の力を考える旅」というエクスカーションが福島農業総合センター、東北農業研究センターのご尽力でとり行われ、トマトの根染色法、有機栽培農家、ビール園、新設の福島農業総合センターを見学でき実地見聞としても心身リフレッシュとしても大変有意義なエクスカーションでありました。

世の中いろいろな学会がありますが、今回ほど大会に参加して元気がでてくる学会が大切だと感じたことはありません。これはそもそも学会の原点なのですが。学術面 も含めて色々な点で魅力を出して若者を引きつけることが必要だと思います。ただ、土壌微生物学会の特色である企業の方の参加や現場の発表が減ってきていると指摘されています。これは、学術面 での魅力の出し方と矛盾することではなく、むしろ逆に現場の問題を解決する中で学術面 も駆使し深まるという中で統合できるのではないかと感じています。  直前に植物病理学会や菌学会が重なりましたので、例年より事前登録者が少なく大会事務局では参加者が少ないことを懸念していました。しかし蓋を開けてみたら、サテライトミーテイング50名、大会参加162名、懇親会97名、エクスカーション40名と多くの参加者を得て成功里に終了することができました。この場をお借りして土壌微生物学会員やその他関係者のご協力に感謝致します。

大会期間中に微生物の宣教師を自称する 宮道慎二先生が5年かかりで編集された「微生物の世界」の大変美しい微生物の写 真をポスターで掲示されていました。こんな本が昔からあれば、微生物に見せられた人は確実に増えていたのではないかと思えるほど素晴らしいものです。皆さんも一読?されてはいかがでしょうか。(文責KM)

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