研究内容のトップへ

@植物の生体防御反応におけるポリアミンの役割の解明




  タバコ葉にタバコモザイクウイルス(TMV)を接種すると感染細胞でウイルスの増殖がおこり、やがて感染葉から他の部位に広がり、上葉に特有のモザイク症状が出現すると共に,植物は十分な成長ができなくなり萎縮してしまう。ところが抵抗性の遺伝子(N遺伝子)をもったタバコ葉では、感染細胞が積極的に死ぬために、ウイルスが最初に感染が起こった部位に封じ込まれてしまい、感染が植物全体に広がらない 。このような現象は過敏感反応(HR)と呼ばれ、カビ・細菌などの感染に対しても広く認められるものであり、植物が獲得した病害抵抗性のメカニズムとして極めて重要であると考えられている。さらにHRに伴い、植物体では病原体を攻撃できる感染特異的タンパク質(PRタンパク質)群の誘導や抗菌性物質の蓄積がおこると共に、病原体の二次感染に備えて周りの細胞にも抵抗性を誘導する。現在、これらの防御応答に関与しているシグナル分子として、サリチル酸、ジャスモン酸、エチレン等がよく知られている。
  TMVに感染したタバコ葉の細胞間隙には、健全なタバコ葉と比較すると、20倍以上ものスペルミンが蓄積しており、健全なタバコ葉をスペルミン処理するとPRタンパク質群の誘導が起こり、TMV感染したタバコ葉をスペルミンで処理するとウイルスに対する抵抗性が促進されることがYamakawa et al.(1998)により示された。そこで我々は、ウイルス抵抗性を引き起こすスペルミンの機能に着目し研究を行った。その結果、スペルミンは、上流のシグナルを下流に伝えるうえで重要な役割を果たしているタンパク質のリン酸化に関与していることを明らかとした。スペルミンによって活性化されるプロテインキナーゼはSIPK(salicylic acid-induced protein kinase)とWIPK(wound-induced protein kinase)と呼ばれる二つのMAPキナーゼであり、これらのMAPキナーゼは細胞死を含む、病原体に対する様々な防御応答に関与していることが示唆されている。これらのMAPキナーゼはスペルミン特異的に活性化され、スペルミンの前駆体であるスペルミジンやプトレシンでは活性化を受けない。さらに、スペルミンはカルシウムと活性酸素種依存的にミトコンドリアを刺激し、ミトコンドリアの機能低下を介してこれらのMAPキナーゼが活性化されることが示唆された (Takahashi et al. 2003; 高橋芳弘ら 2004)。
 現在までの様々な知見から、病原体に感染した植物では、ポリアミン合成系が促進され、蓄積したプトレシンやスペルミジンは病原体の移動を妨げる役割の一部を担うと共に、最終産物であるスペルミンまで合成され、このスペルミンがシグナル伝達系を介して、病原体に対する防御反応に関与している可能性が示唆される。しかし,耐病性におけるポリアミン類の役割についてはまだまだ不明な点が多く、今後の更なる進展が期待される。
 シロイヌナズナを材料として、キュウリモザイクウイルス(CMV)に対する過敏感反応時に誘導される遺伝子としてNHL10遺伝子を同定した。この遺伝子の機能についても解析を行っている(Zheng et al. 2004)。