ムスカリ(Muscari armeniacum cv. Blue Pearl)

 

ムスカリ(ヒヤシンス科)
Muscari armeniacum (Hyacinthaceae)

 ムスカリはヨーロッパ、地中海沿岸、小アジア、コーカサスなどを原産地とし、約40種類が分布しています。なかに強い香りをもつものがあり、ジャコウを意味するギリシア語のモスコスが名前の由来となりました。草丈は10cmから30cmほどで、花期は3月〜5月です。写真のように、花は直径5mmほどの鐘型でブドウの房のようにたくさん花をつけます。
 双子葉植物の花はがく片、花弁、雄蕊、心皮の4つの器官 から構成され、これらの器官のアイデンティティーはA・B・C3つのクラスの遺伝子群の働きによって決定されています(ABC モデル)。 一方、チューリップのようなユリ科植物の花は双子葉植物の花と同様に4つの whorl から構成されますが、がくと花弁の区別がない同花被花です。van Tunen ら(1993)はこの同花被花の花器官形成を説明するモデルとして、クラスB遺伝子が雄蕊と内側の花被だけでなく外側の花被でも働くために同花被花の形態をとるという改変ABC モデルを提唱しました。さらに私たちはチューリップの園芸品種やアガパンサスから、双子葉植物の雄蕊と花弁の器官決定に関与するクラスB遺伝子を単離し、発現解析を行った結果、これらのクラスB遺伝子の発現は改変ABC モデルを支持することを明らかにしました(Kanno et al. 2003, Nakamura et al. 2005)。しかしながら、同花被花の食用アスパラガスから単離されたクラスB遺伝子は、内花被片と雄ずいでのみ発現が見られ、改変ABCモデルを支持しませんでした(Park et al. 2003, 2004)。そこで食用アスパラガスに比較的近縁で、同花被花のムスカリからクラスB遺伝子の一つであるMaDEFを単離して発現解析を行った結果、MaDEFが雄蕊および外側と内側の花被で発現していたことから、ムスカリの花においても改変ABC モデルが支持されました(Nakada et al. 2006)。

Park et al. (2003) Plant Mol. Biol. 51:867-875.
Kanno et al. (2003) Plant Mol. Biol. 52:831-841.
Park et al. (2004) Plant Cell Physiol. 45: 325-332.
Nakamura et al. (2005) Plant Mol. Biol. 58:435-445.
Nakada et al. (2006) Plant Science 170:143-150.

2006.2.16.