東北大学大学院生命科学研究科 植物分子育種分野 渡辺研究室

11.福島帰省記、もしくは旅行記(農:佐々木美園)

2020年12月29日 (火)

こんにちは、農学部の佐々木美園です。今回の冒頭の写真は一旦キビちゃんの写真をお休みして、地元の名山「安達太良山」の写真を選んでみました。高村光太郎の「智恵子抄」に出てくるあの安達太良山です。最近は「東京に空がない」という智恵子の言葉が、仙台で過ごすようになってより身に染みて感じるようになりました。私にとっての空はやはり、田んぼの真ん中に安達太良山がそびえるこの空のようです。

さて、そんな私の地元に作物がやってきました!私にとっては帰省で、彼らにとっては旅行ですね。それでは、福島での作物の様子をお伝えしたいと思います。



〜目次〜


1.ビニールハウスへの移動
2.途中経過
3.まとめ



1.ビニールハウスへの移動

20201229102303-05cb65d56f0bdcda2286d9d12ae3b2a4ac2ad619.jpg20201229102328-087a9f47491f01b6594addd11a83c3cac014a6a1.jpg

12月24日 8:25 仙台の気温4℃ 福島の気温0℃ 白菜77日目 ホウレンソウ44日目

この日、上の写真の白菜とホウレンソウを車で福島へと移動させました。移動時間は2時間ほどで、ゴミ袋に入れて移動させました。仙台で育てていた間は、白菜は葉の縁がヘロヘロになっていて触ると破れそうなほどでした。ホウレンソウもなかなか大きくならず、子葉に張りが無く、地面に付いていた状態です。なかなかに頼りない様子ですが、ビニールハウスで育てることでここからどう変わっていくかよく観察してきたいと思います。

20201229102410-3be9e9e120ede671f20175ffc7883d0a4b823089.jpg

 そして今回お世話になる実家のビニールハウスが上の写真のものです。気温が一桁台の時、外気との気温の差は大体+4℃前後で、気温が10℃を超えると20℃付近まで上昇します。日当たりも良く、雪が積もることも無いためアパートのベランダよりはよっぽど好条件だと思われます。ただ、20℃付近まで気温が上がりすぎてしまうと、植物がバテてると教わったので、気温が上がりそうなときは扉を開けるなど温度管理だけは気をつけて行きたいと思います。

 ちなみに、持ち帰った作物を祖父に評価してもらったところ水をやりすぎていたことが判明しました。自分なりに水は極力控えていたのですが、やはり多すぎたらしく、そのせいで葉の縁が凍害でなよなよになっていると教えてもらいました。祖父曰く、水は鉢に直接かけるのでは無く、受け皿に注ぎ、作物が吸いたいだけ吸えるようにしておいた方が良いとのことです。葉の様子と、土を少し指で触っただけでここまで分かるプロはやはり違うなと感じました。


2.途中経過

20201229102452-19848f0e3ebe1bd5c1e35d875d24995e43140d0f.jpg20201229102503-c94aa067be5f5fb0d50b14799c031cb061980631.jpg

12月29日 8:38 ハウス内9℃ 気温5℃ 81日目

ハウスで育ててから4日目の白菜の写真が上のものになります。仙台にいた頃に比べて葉に張りが出てきました。残念ながら凍ってしまい柔らかくなってしまった縁の部分は、元に戻りませんでしたが、それ以上進行することは無かったためそこは良しとしたいと思います。また、結球の全長のようなものも見え始めました。横からの写真を見ると、徐々に葉が立ち上がってきているのが分かります。まだ葉の枚数が少ないため完璧な結球とまでは行かないでしょうが、これから少しでも葉を増やし、白菜らしい形状になるよう工夫していきたいと思います。

20201229102531-927a4071941bb344462ebf007dfba1b0d2d93482.jpg20201229102545-a4d8945e624b53c7cfde5f647b6cd1a7200821f2.jpg

12月29日 同上 48日目

一方ホウレンソウの写真が上のものです。ホウレンソウの方は、仙台にいたときに比べ大分元気になってきました。まず、子葉に張りが出始め、きちんと葉を支えられるようになってきています。また本葉の方も縦の長さが大きくなり、厚みも出てきました。さらに、一向に出てこなかった新しい葉も出始め、ようやく成長が目に見えるようになってきました。やはり、仙台は寒すぎて成長がストップしていたのでしょう。ある程度、気温が高い福島で育てられるだけ育てて、少しでも可食部を増やしたいところです。


3.まとめ

 福島のビニールハウスに持ってきた作物たちは、久しぶりの生長を見せてくれました。やはり、温度が植物の生長には密接に関わっているのだな、と実感した次第です。また、本だけで無く、熟練者の知識に学ぶことが時として問題解決の糸口になることも判明したため、こちらに滞在する内に学べるだけ学び、仙台でよりよい栽培方法を編み出せるようにしたいと思います。(1,624字)

コメント

佐々木さんこんにちは

 あの安達太良山ですか! 「あの光るのが阿武隈川」の樹下の二人で有名な...... 国語の教科書には樹下の二人か、レモン哀歌のどちらかが載っていたものでした。

 しかしまあ、仙台の空...... 比較の問題と言ってしまえばそれまでなのですが仙台はずいぶんのどかで清明かなあ、と。もちろん福島はそれ以上ですが。私は昨年まで年に5回くらいは福島市に行っています。公会堂や音楽堂へ行き、そこから小川沿いを通って福島駅方面へ散歩コースです。福島は夏暑いと言われますが、閉塞感がなくてあまり暑いとは感じませんでしたね。

 さて植物は二時間の旅路を経てビニールハウスです。帰りもお気をつけて。

 仙台と外気温は違うようですが、これはたまたまなのでしょう。そしてビニールハウス内は報告にあるように温度が上がってますね。この温度上昇は外気温がどうとかいうことではなく、「日射」で決まるものです。そのため、暖かい日、つまり日射の多い日は余計温度が上がるというわけです。もちろん、朝方は外気温とそんなに変わらないでしょう。

 これで植物にとっても一息付けて、成長しだすと思います。日中の温度で光合成ができるでしょう。ビニールハウスもそうだし、さすがに雨の少ない福島、アパートのベランダよりずっといいですね。そして20℃とのことですが、この程度ならあまり気にしなくて構いません。さすがに30℃なら良くないとは思いますが。一般的なビニールハウスはそういう塩梅を考え、フィッティングされていると思います。

 そして今回の報告の目玉は「祖父の教え」ですね。水やりの加減などを教えてもらって下さい。

 しかしまあ葉の様子と土を触って分かるのはプロです。正直、こういうことには我々の側は全くかないません。見ず知らずの外国へ行って農業しろと言われれば、学問から成り立っている大学人が有利だとは思いますが、通常の実践では本当にかなわないですね。

 そしてせっかく農学部なので佐々木さんに言いますが、そういった農業のプロの言うことには「学問的真実」が隠されていることが多いのです。大学では「エビデンス」に立脚した「美しいスキーム」を重視します。実践的な「経験則やノウハウ」はとかく軽視されがちです。しかしながら、そういった根拠は薄いが確固とした経験則こそ重要です。ちょっと言い方が難しいですね。要は根拠がよく分からないから眉唾ではなく、まだ根拠が未知なだけ、ということがあるのです。

 植物栄養学では窒素、リンなどといった元素を供給するのが大事、というかそれが研究の本道でした。水耕栽培などはその成果ですね。しかし、現在では土壌微生物との共同作業という側面が分かってきていますし、驚くべきことに植物側と微生物側で分子レベルの選別と結合がされていることも明らかにされつつあります。それどころか低分子RNAといった情報物質を通しての協調すらあるかもしれません。経験則である、ボカシ作りや、堆肥量や相性というのは実は素晴らしく科学的な物事なのです。

 今回のことでいえば、水を鉢の底面から与えることがノウハウの一環ですね。たぶん冬季間の限定かもしれませんが、それも重要なノウハウです。鉢植えの花(シクラメンなど)ではよくそういうスタイルを取ります。ただし、一ヵ月に一回は大量に鉢土の上面から水を与え、鉢土表面に貯まってしまった塩類を洗い流さなければ塩害が生じます。

 そこから一歩話を進めます。実は、植物にとって「常に一定の湿り気がある」方がいいのか、「間欠的に湿り気がある」方がいいのか、実はそんなことにすら学問的な答えはないのです。こんな原始的なことにさえも。植物体にとってどうか、土壌物理学的にどうか、微生物的にどうか、まだ全然不明です。研究手法は進歩していて、昔では知り得なかった全遺伝子発現同時解析とか、微生物の相関判定とかできるようになってますが手つかずです。農家は経験則でうまい塩梅にしていますが、恐るべし、ですね。

 さて途中経過は写真であまり分からないのですが、結球へ向かっているなら面白いです。ホウレンソウもどれだけ可食部が多くなれるのか。仙台へ帰ってこられた時の低温の落差が心配なことろではありますが、楽しみです。

 ではまた報告お待ちします。

 ラボスタッフ・オガタ

20201229150250-4579ec18141378801a3df5299bf559eb8d6d01ba.JPG