太陽紫外線 (UVB)、およびUVB量の増加がイネの
生育、収量、玄米の質に及ぼす影響


紫外線UVB量の増加が、植物 (農作物) の生育・収量に及ぼす影響を的確に把握るためは、常に環境(温度、湿度、可視光量、紫外線量など)が変化している自然環境を利用した野外環境試験、さらには、自然環境により近い環境を人工的に作り出し、未来環境を任意に設定できる屋内型環境調節実験室を利用した解析が重要です。私たちは、実験圃場(図1、宮城県大崎市鹿島台町)や4台の大型環境調節実験室 (図2、バイオクライトロン、テレバイオクライトロン) を利用して、UVB増加が植物の生育に及ぼす紫外線環境試験を行っています。
現在、UVB抵抗性の異なるイネ品種や、イネ以外の植物(キュウリ、インゲン、ナス、アラビドプシスなど)、さらには(6-4)光産物を特異的に修復する(6-4)光産物−光回復酵素の活性が欠損している Tos17 変異体などを材料に、(6-4)光産物の生成とUVB耐性機構に関する研究を展開しています。1993年以降10年以上にわたり、UVB量(現在のUVB量より30〜40%増加した環境を想定)の増加がイネの生育・収量に及ぼす影響について、実験圃場を利用して解析を行っています。これまでに我々は、(1)UVB量の増加は、イネの生育を阻害し、収量を低下させる、(2)収量の低下は日照不足および低温によって増大することを見出してきました(Kumagai et al. 2001, Agri. Ecosys. Environ.)。さらに(3)日射量不足や低温とは無関係に UVB付加照射は玄米の粒厚を薄くし、完全米を低下させると同時に、玄米中のタンパク質含量を増加させることなどを見出してきました(Hidema et al. 2005, J. Radia. Res.)。

(図1 実験圃場)



(図2 環境調節実験室)


米は、米食民族にとって重要なエネルギー源であると同時に主要なタンパク質源でもあります。一方で、玄米中のタンパク質含量の増加は食味を低下させることが知られています。現在私たちは、 UVBの変化がイネの生育・収量、さらには米の食味に悪影響を及ぼす玄米中のタンパク質の組成変化、含量に及ぼす影響に関しても解析を行っています。

またこれまでに、このようなUVBによる阻害効果は、UVBによって誘発されるDNA損傷 (シクロブタン型ピリミジン二量体)を修復するCPD光回復酵素の活性を高めることで、軽減させることが可能であることを、実験室内での研究を通して明らかにしてきました (Hidema et al. 2007, Plant J.)。CPD光回復酵素の活性は、イネの品種間で大きく異なっています。そこで、CPD光回復酵素活性の異なるイネ品種(活性の高い日本型イネコシヒカリと活性の低いインド型品種カサラスを交配して、さらには戻し交配を行うことで、コシヒカリの染色体がベースとなり、CPD光回復酵素遺伝子が座位する第10染色体の一部領域がカサラスの染色体置き換わった系統 (部分置換系統*1:富山県農業技術センター・蛯谷武志氏より供与)を作製し、これらを材料に現在は、太陽光に含まれる紫外線UVBがイネの生育・収量に(環境影響評価試験)を、宮城、福島(JA伊達みらい 協力)、鹿児島(鹿児島大学 共同研究)にて実施しています(図3)。

*1本部分置換系統は、親株のコシヒカリと比較してCPD光回復酵素活性が低下しているため、コシヒカリよりもUVBに高い感受性を示します。
 (図3 宮城)

(図3 福島)

 (図3 鹿児島)



 
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