高等植物のCPDによる生育阻害機構の解明
   -分子・細胞・個体レベルでの包括的解析-


これまでに我々は、イネCPD光回復酵素形質転換体を作製し、酵素活性と生育レベルでのUVB障害との関係を調べた結果、@酵素活性を著しく低下させたアンチセンス形質転換体では、UVB付加条件下では著しい生育障害を受ける、A野生株と比較して5〜50倍酵素活性を高めた形質転換体はどれも、生育障害が軽減され、抵抗性が増すことを見出し、UVBによって誘発されたDNA損傷(CPD)自身が、直接的または間接的にイネの生育障害を引き起こし、CPD光回復酵素活性を増加させることでUVB障害を軽減することができることを報告しました(Hidema et al. 2007,Plant J.)。

これらの結果は、「DNA損傷はDNAの複製や転写を阻害し、突然変異や細胞死を引き起こす」ため、UVB誘発DNA損傷がイネの生育障害の主要因になっているという事実は、一見理にかなっています。しかしながら、実際イネなど植物が生育している場面、植物個体の形態を考えた場合、太陽光を十分に浴びることができる葉や茎などの細胞では、ほとんど複製・転写は行われていません。



植物では、@複製は、鞘葉(外皮)で厚く覆われた内部の分げつ原基や成長点周辺の細胞、A光合成関連タンパク質遺伝子などの転写は、出葉直後の展開中の細胞(イネの葉は垂直方向へ展開する)のみで盛んに行われています。このような細胞は、光がほとんど到達しないか、形態的に光が透過し難い細胞です。したがって、「DNA損傷による直接的な複製や転写の阻害の結果として生育が阻害された」という考え方は、植物個体の構造上、空間的・時間的な応用面から大きな隔たりがあり、両者の関連づけは一筋縄ではいかないと思われます。


そこで、この問題を打開するために、「UVBによるイネの生育障害機構の全容解明」を目的に、現在、

@ UVBに曝されて生育している場面における、CPDの空間的・時間的な動態解析、

A DNA損傷の誘発による分子、細胞、個体レベルでの変化・応答の網羅的な解析、

B UVB生育障害を導くCPD以外の要因の探索


に関する解析を進めています。また同時に、細胞分裂が活発であり、組織形態がシンプルなモデル生物であるウキクサを用いた解析も進めています。



 
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