文部科学省科学研究費補助金「新学術領域研究」
生殖過程は「異なるゲノムが出会う」場面である。このことは、自殖により子孫を増やす植物にも当てはまる。自殖性植物では、DNAの塩基配列はオスとメスとで同一であるはずだが、オス由来とメス由来のゲノムの機能は異なっていることが知られている。特に受精後の胚発生を助ける胚乳組織において顕著であり、オス由来のゲノムは胚乳を大きくする一方で、メス由来のゲノムは胚乳を小さくするといった、相反する機能を持つ。近年の研究成果により、オス側とメス側の生殖細胞ではエピジェネティックな情報が異なるよう制御されることが明らかとなってきており、我々は、この分子機構の一端を明らかにしてきた(Ikeda et al., Dev. Cell 2011; Kinoshita et al., Semim. in Cell Dev. Biol. 2008)。
こうした胚乳における、「ゲノム・遺伝子相関」は種間交雑や倍数体間交雑を行うことでより顕著に現れ、オス・メスそれぞれのゲノム機能のバランスが著しく崩れた場合は生殖隔離機構としても機能しうる (Kinoshita GGS 2007)。本研究では、イネ属種間交雑や倍数性交雑の系を用いて、ゲノム機能のバランスを決める分子機構の実体を明らかにする。すでに先行した解析から、エピジェネティック制御を担うポリコーム複合体構成因子が候補として浮かび上がっており(Ishikawa et al., Plant J 2011; Kawabe et al., Current Biol. 2009)、この検証実験を行う。また、ポリコーム複合体の標的となる、転写因子群の遺伝子重複と機能の多様化に関してもシロイヌナズナ近縁種を用いて解析し、胚乳におけるエピジェネティックな調和と軋轢の実体を明らかにする。