平成28年度文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究

平成28年度文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究

植物新種誕生原理植物新種誕生原理

Nagoya University Live Imaging Center

計画研究班

生殖をモデルとした植物ホルモン機能拡張

植物ホルモンジベレリン(GA)は、核内受容体 GID1 により受容され植物の成長を促す。最近の我々の研究により、シダ植物の造精器誘導がこの GID1-GA 受容システムを介することが明らかにされ(Science 2014)、現在では GA は生殖ホルモンとして誕生し雄性器官の発達に重要な役割を担うと考えられている。さらに、我々はシダと被子植物 GID1 の構造を比較し、植物進化の過程で、GID1 が GA に対する結合や特異性を高めると同時に(鍵穴分子の進化)、リガンドである GA も各種派生分子を産出し(鍵分子の進化)、両者が共進化したとするモデルを提案した (Nature 2008).さらに植物はその進化過程で、時期・器官特異的 GA 不活化機構を出現させたが、我々は最近、生殖器官にこの GA 不活化機構を無力化する新型 GA を見出し、生殖過程において GA 産生と不活化をめぐる evolutionary arms race (進化的軍拡競走)を想定している。
以上の研究背景に基づき、我々はシダから被子植物までの様々な進化段階における GID1 とGA について構造と活性の相関を調べ、両分子の共進化の分子機構を解析する。また、GID1 による GA 受容は、核内転写因子 DELLA タンパク質(以下、DELLA と記述)の構造を変化させ分解を引き起こし、結果として花粉管伸長を始めとする一連の生殖過程を導くが、GA 受容がもたらす DELLA 分解の構造的理解には至っていない。申請者は、これまでターゲットタンパク質、最先端・次世代研究開発支援プログラムなどの研究費を受け、イネ GID1 の X 線結晶構造解析を世界に先駆けて成功させた。本研究ではこれら資産を活用しつつ、構造解析における最新のブレークスルーテクノロジーを利用し、DELLA の結晶化と X 線結晶構造解析を行うことにより、 GA が関わる生殖過程の更なる理解を進める。また、以上の研究から得られた研究成果は、論文やホームページ、高校生への出前授業などで、広く社会に発信していく。

メンバ―リスト
  • 上口 美弥子(田中美弥子)名古屋大学 生物機能開発利用研究センター
  • 松岡 信名古屋大学 生物機能開発利用研究センター
  • 澤崎 達也愛媛大学 プロテオサイエンスセンター
  • 永江 峰幸名古屋大学 シンクロトロン光研究センター