東北大学大学院生命科学研究科 植物分子育種分野 渡辺研究室

展開ゼミ2019レポートへのコメント from (株)トーホク・新倉様より(2/13)(渡辺 正夫)

2020年2月13日 (木)

 遺伝の渡辺でございます。最初のオリエンテーションの時に、本講義のまとめとして、種子などを提供頂いた、(株)トーホクの方から、コメントを頂くということをお話ししました。渡辺の講義を閉じるという最終コメントがuploadできてないのですが、忙しい中、(株)トーホクの新倉様からコメントを頂きました。それぞれの皆さんの栽培状況については、ラボスタッフのオガタくん、渡辺が個別、全体をまとめてしていましたが、品種改良をしていると言うことは、立派な農家が作るレベルの野菜を普段見ているというプロです。その方から、コメントを頂きましたので、以下に掲載しておきます。試験が忙しいのも一段落したでしょうか。また、今年は100年に一度と言うくらいの暖冬です。そんなことを考えながら、読んでみてください。渡辺の最終コメントはこの週末にuploadしますので。


わたなべしるす

****************************************
以下、頂いた記事の内容


 皆さん初めまして.この度種子を提供させて頂きました(株)トーホクの新倉と申します.
本社は栃木県宇都宮市にあり,創業72年と種苗メーカーの中では歴史の新しい方です.100種以上の野菜や花種子の育種・生産・販売を一貫して行っています.北海道から沖縄まで全国各地に営業所があり,大根,カブ,漬け菜類,ウリ類など全国の地方品種も豊富に取り扱っています.
(下写真左 家庭菜園用絵袋種子陳列棚,右 プロ向けの大容量種子袋)

20200213184401-515dcc60f14c1fae5c066feb4cd0074c9bdb1180.jpg 私は育種部に所属し,同じく宇都宮市内にある育種農場(下写真右)で仕事をしており,入社以来28年,大根と玉葱の品種改良に携わっております.下写真左は大根収穫後,これから選抜作業に入る時のものです.

20200213184436-3ff0be171381c488d187b7b0c1655e3a9df0644f.jpg また育種分場が沖縄県石垣市にあり,そこでは暑さへの耐性選抜やキュウリやスイカなどのいわゆる果菜類の世代を早めることに用いています.下写真左は石垣島分場で暑さに耐えられず淘汰された大根の数々で,こうならないものを選抜します.右は石垣島分場です.

20200213184512-5d44b5801c7c0d18a8939ee77210852b0f293f98.jpg さて皆さんのレポートを拝見しました.10月の種子播きでしたので,収穫まで時間のかかるキャベツ,ブロッコリー,カブ,二十日大根は,播種適期を過ぎており厳しかったと思います.これらはまず葉や根などの'体'を作ってから,その光合成産物や水分を収穫する部分に送り込んで大きくなるので,ある程度の時間が必要です.それに対し,体つくりそのものが収穫物となる,ちょい辛ミックス,浅漬けミックス,貝割れ大根などは作りやすかったのではと思います.

 しかしそれでも多くの方に見受けられたのが,ひょろひょろな軟弱生長です.胚軸が折れてしまった人もいました.これは少ないスペースに多く播種してしまったこと,水のやり過ぎ,日照不足などが考えられます.三つ子の魂百まで,と申しますように多くの野菜が播種から3週間~1カ月程度までが手のかかる赤ん坊のようで目が離せません.逆にここをうまく管理してやれば,その後は虫や風の対策など必要最低限の管理でうまく育つはずです.ではどうすれば良いでしょうか?①播種適期を守る,②適度な播種間隔(株間のスペース)を取る,③混みすぎたら間引く,④冬期になれば毎日の水やりの必要は無い,⑤光が満遍なく当たるようにする,などです.そんな中でも,播種間隔が適正だった方や間引きにより適正なスペースを確保されて頑丈に育てた方も見受けられました.また土寄せや,串を立てて株を倒れないようにした方やコンテナの向きを変えることを試みた方もいました.作物は野性植物と違い,ヒトの手入れが無いと生きて行かれません,まさにこれらが手入れを実践された好例と言えるでしょう.さらには肥料や食味の比較など対照区を設定した実験の必要性を示された方も見受けられました.往々にして対照区を設定しないまま全てを変えてしまいがちですが,このことはすべての学問に共通する心構えではないでしょうか.

 昔からの言い伝えで,作物の出来は「タネ半分,畑半分」で左右されると申します.
タネ半分は我々の責任で何とかしなければなりません.一方で,畑半分についても,何とかその播種適期,栽培方法をうまくお伝えしながら成功して頂きたく思っています.プロが栽培するとこのようになる,ということをトーホクHP「ビギナーズマニュアル」http://tohokuseed.co.jp/beginners/に載せてあり,そこでは種子播き~収穫までの写真がカブやレタスなど各野菜で掲載しております.実際にどのくらいの株間で栽培しているのかをご覧ください.とりわけキャベツの項では,連続写真により,規則正しく葉を展開していく様から,いわゆるキャベツになるまでの連続写真は必見です.
 
 一方で皆さんあまり気にされないことかもしれないことに話を移します.我々種苗メーカーは種子が商品です.それは工業製品と異なり,自然と共存しながら生み出さなければなりません.ここで種子袋の裏側に注目してください(下写真左).

20200213184539-3645d7823424b580eb8873e4d19e653571b2480d.jpg そこには,品種特性や栽培の要点,栽培例の他に,どこで採種されたか(生産地),発芽率が書かれています(上写真右).弊社の販売種子採種のほとんどが海外に移っていますが,各国に生産部が渡り,採種技術などを共有しながら少しでも発芽の良い種子を獲るため奮闘しております.また発芽率は国際種子検査協会(International Seed Testing Association)によりその評価方法が規定されています.しかしその方法は種子の発芽しやすい環境条件になっており,実際には暑さ,寒さ,乾燥,過湿の時にも安定して発芽する種子である必要があります.また記載される発芽率についての決まりは無く,各メーカーでの基準値が示されます.例えば多くの場合大根では85%以上と記載されています.しかし実際に85%では農家からのクレームが来ます.そこで我々は種子へのストレス試験を行い,裏袋に記載されている以上の性質を持った種子を詰めるようにしております.採種に関わる裏話はトーホクHP「世界の作場から」http://tohokuseed.co.jp/farm/に示しております.また収穫した種子はそのままでは売れず,数々の工程・検査を経て販売に至ります.採種後販売までの過程は「話のタネ」http://tohokuseed.co.jp/topic/に掲載しています.併せてご覧頂ければと思います.

 最後に,これからスーパーやホームセンターで弊社の種子袋陳列棚を見られたら,立ち止まり,種子袋の裏側までご覧下さり,想いを馳せ,さらにはご購入まで頂けたら幸甚です.

ここまで。
****************************************