植物における量子ビーム誘発突然変異の
分子機構解明に関する研究


-イオンビームにより植物に誘発されるDNA損傷と変異スペクトラム、
   およびクロマチン構造の比較による量子ビーム誘発突然変異機構の解明-



  

植物は、地球上のすべての生物の生存に必須な食糧や酸素を供給しており、不可欠な存在です。地球温暖化や食糧問題など、様々な地球環境問題の解決のためには、有用な植物品種を開発・育種することが重要です。新たな植物品種の育種には、一つは遺伝子組換え技術を利用する方法が考えられますが、生物多様性の保全を目的としたカルタヘナ法との関連から、研究目的以外の産業品種育種への利用は難しいのが現状です。そこで、化学変異剤処理、ガンマ線照射、軟エックス線照射などによる突然変異誘発法により、新たな植物品種を育種する方法が一般に利用されています。しかしながら、その突然変異誘発はランダムかつ偶発的であるため、目的の変異体を得るためには多大な労力を費やす必要がある点が問題です。

この問題の解決には、イオンビーム(様々な原子のイオンをビーム化したもの)が有効であると期待されています。イオンビームは、LET(直線的エネルギー付与)値がガンマ線やエックス線よりも数十倍以上大きく、局所的にエネルギーを付与するため、高い突然変異誘発率を有しています。イオンビームを用いた育種(イオンビーム育種)は、日本独自のバイオ技術として世界から注目されており、従来の変異原では獲得できなかった変異体を数多く選抜することに成功している技術です。私たちも、イネにイオンビームを照射することにより、UVB超耐性、感受性イネ突然変異体の選抜に成功しています [現在進行中の研究テーマ(2)参照]。

イオンビームの照射により、植物細胞のDNAには、塩基損傷、一本鎖切断、二本鎖切断などの様々な損傷が生じます。それらの損傷は、複数のDNA損傷修復機構(除去修復、相同組換え修復、非相同末端結合など)により修復されます。その修復過程において不正確な修復がなされると、DNAには塩基置換、転座、欠失などの様々な変異が生じます。しかしながら、このようなイオンビームによる特徴的な突然変異の誘発は、染色体上のどのような部位・箇所に、どのようなDNA損傷を得的に誘発し?またそれらDNA損傷がどのような修復系によって修復され、結果として修復エラーが引き起こされているか?さらにどのような修復エラーが、表現系の変化を引き起こしているか?といった突然変異誘発機構に関して、未解明な点が多く存在します(図6)。これらの点を明らかにすることは、突然変異を制御し、目的の遺伝子への変異を高頻度で誘発する技術の開発につながるため、効率的な新品種の育種につながると考えられます。

(図6)

そこで私たちは、イオンビーム照射によって植物DNAに生成する様々なDNA損傷を定量し、結果として生じた突然変異の種類と量(変異スペクトラム)と比較解析することで、突然変異誘発機構を明らかにすることを目的とし、研究を進めています。また、イオンビームによって生じるDNA損傷の生成部位・生成頻度や機能するDNA損傷修復機構は、DNAを取り巻くタンパク質の状態(クロマチン構造)によって変化すると考えられます。そこで、変異が誘発された際のクロマチン構造を解析し、損傷と変異が誘発された部位と比較することで、突然変異頻度の上昇による効率的な変異の導入、ならびに目的遺伝子の意図的変異を目指した研究を行っています。


 
ホームページ制作 フリー素材 無料WEB素材
Copyright (C) FreeTmpl001 All Rights Reserved.