東北大学大学院生命科学研究科 植物分子育種分野 渡辺研究室

展開ゼミ2020レポートへのコメント from (株)渡辺採種場・加治様より(2/22)(渡辺 正夫)

2021年2月22日 (月)

 遺伝の渡辺でございます。最初のオリエンテーションの時に、本講義のまとめとして、種子などを提供頂いた、(株)渡辺採種場の方から、コメントを頂くということをお話ししました。お忙しい中、(株)渡辺採種場の加治様からコメントを頂きました。それぞれの皆さんの栽培状況については、ラボスタッフのオガタくん、渡辺が個別、全体をまとめてしていましたが、品種改良をしていると言うことは、立派な農家が作るレベルの野菜を普段見ているというプロです。その方から、コメントを頂きましたので、以下に掲載しておきます。試験期間も終わり、ちょうど、春休みでしょうか。2.13の地震の影響は大丈夫だったでしょうか。コロナ禍も収まらない仲で、落ち着かないと思いますが、今までのラボスタッフ・オガタくん、渡辺とは角度が違うコメントだと思います。是非、読んでみてください。


わたなべしるす

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以下、頂いた記事の内容

 2020年度後期の展開ゼミに参加された皆様、お疲れ様でした。

20210222181745-cc37c1503531e223ebd3f87efa4699c64edcc15a.jpg 今回、種子提供を担当しました渡辺採種場研究部の加治です。現在は特任研究員という形で非常勤の嘱託ですが、現役の頃は前年度の展開ゼミにコメントを寄せていらしたトーホク新倉さんと一緒で大根の育種を担当していました。氏には大根サミット等、いろいろな場面でご一緒させていただきおおいに感謝しており、また、育種・採種に関するご研究については非常に尊敬しております。

20210222154620-58cb007bc1d12de074138e5b9ecc8221074489d9.jpg さて、渡辺採種場について簡単にご紹介いたします。渡辺採種場は地元宮城県にある種苗メーカー(ご存知でしたか?)です。本社所在地は県北の小牛田(現在は町村合併により美里町となっていますが、私は「こごた」という難読地名に愛着を持っていますのであえてこう表現します。)です。私の所属する研究部は本社と同じ敷地内にありアブラナ科野菜と南瓜の育種を行っています。また、さらに県の北部に足を伸ばすと栗原市瀬峰に瀬峰研究農場があり、ナス科、ネギ属他の育種と弊社で開発した品種の展示を行っています。来年、弊社は創業100周年を迎えます。そのため、研究部、農場のブリーダー達はそれに向けての記念品種を多く発表できるよう尻をたたかれてきました。

 私自身は現行品種の育成とは直接関わりを持たず、次の世代につなげられるような育種素材開発を目論みながら、主としてアブラナ科野菜をいたずらしています。画像は北海道留寿都の大根バーティシリウム黒点病の発生する圃場で採集したWild radishで、バーティシリウム抵抗性の導入素材にできるとほくそ笑んだのですが、やはり世の中そんなに甘くなく、交雑の難しさと乏しい根の肥大性により頓挫してしまいました。その他の物に関しても、残された時間が少ないため、うまく進められるか心許ない状況ではあります。

20210222154800-4d86c3844e89600d5501f0aaf6395eb900cb94e1.jpg 会社紹介に戻ります。弊社のブランド名である「松島交配」、その名前は松島湾に点在する島々で白菜の採種を始めたことに由来します。全盛期には湾内ほとんどの島がアブラナ科野菜の花で黄色一色に覆われました。菜の花まつりも開かれ、訪問客にいたずらされないかと心配したものです。現在では採種農家の後継者がいなくなり、賑わっていた菜の花まつりもなくなりました。画像はまだ黄色鮮やかな採種圃が点在しながらも残っていた頃のものです。皆さんは種子袋の裏面の採種地が広く国境を越えているのをお気づきだと思います。海外採種は一般に広大な採種圃面積を要望されるため少量採種が必要なものについては不向きです。少量採種その他、柔軟に対応していただける国内採種農家の後継者不足による採種圃の減少は弊社だけではなく大きな問題となっています。

 紹介等長くなってしまいましたが、渡辺教授にお願いされました「コメント」に入ります。

 もともと、6月に渡辺研究室を訪問した際にこのゼミのことを伺い、種子提供依頼をいただいたのですが、おおいに不安がありました。ここ東北では栽培期間が短い野菜品目であっても9月中旬頃までには播種を終えなければなりません。植物の生育できる限界の低温時期が早くやってくるのですね。そのため、できるだけ成果が得られるように品目の選定に努めたつもりですが、第二学期が10月に始まり、ゼミに参加なさる皆さんのほとんどが野菜栽培の初心者となれば、新学期開始以降での種まきではかなりむずかしいかな、と。

20210222154912-0bceb89a3a6a99d6dce714c3f9f65c1cbe0771fa.jpg                     赤房大根

 とは言え、受講された方が少なかったこともあるでしょうが、前年度までのような徒長栽培(?)が少なかったのは成功と言っていいのではと思います。かいわれ大根は一部想定外の結果に見舞われましたが、ベビーリーフとともにそこそこの結果を得られましたね。普通栽培の野菜についてはやはりといいますか、おそらく品種の持つ本来の味にはほどい形での収穫となり、予想通りでした。

 しかしながら、今回、皆さんが自らの手で野菜を栽培することを経験していただいたことは、たとえ少人数だとしても、私達にとっては非常にありがたいことです。普段何気なく食していた野菜がどれくらいの栽培期間を要すもので、どのようなステージで収穫されたものなのか、推し量れるようになれたでしょうし、野菜の持つ味に対してより興味が持てるようになったのではないでしょうか。私達、品種開発にあたっているブリーダーたちが食べていただいている消費者に望むものはまさにそういうことなのですから。

 野菜たちは栽培する条件によって様々な形を見せてもくれました。水分をはじめとして、温度、光など、あらゆる環境に対して敏感に反応してくれる"生き物"でしたね。今回、例年にない年末年始の寒波到来による凍害で収穫にいたらなかったものもありました。農を業いとする者たちはそういうときでも笑っていたりします。悲惨で本来はあってはならないことなのでしょうが、自然と共に生き、幾多の失敗を乗り越えて糧にしてきたからでしょう。

20210222154954-98d9cb2d7d2c7be38133d007ebd73eef1ac10aa7.jpg                     CR雪あかり

 スーパーや八百屋で販売されている値段・価格についても触れている方もありました。昔は野菜価格の変動幅が大きく、年によっては○○御殿など(○○には野菜名が入る)と呼ばれる豪邸が建つくらい高騰したこともありました。現在はそういうことは滅多になく、どちらかといえば安値安定となっている状況です。会社紹介の時にも触れた農業後継者不足の一要因ともなっています。輸送技術や情報技術の発達に加えて育種技術や栽培技術の向上によってもたらされたことです。それら、技術の発達向上はまた、野菜の季節感喪失も導きつつあります。季節感は薄れてきたとはいえ、それぞれの野菜に旬はあります。旬のものはやはり美味しいのです。野菜を味わうことで季節が感じられるような皆さんになることを期待し、また、ゼミで色々経験しながら感じたことが農業に対する新たな優しい視点へとつながっていくことを望みます。

20210222155052-32a1cea36e72ed8b0c28dc2abdc1a71077d4bfae.jpg                   大根トンネル栽培

 最後に、渡辺研究室の渡辺先生はじめスタッフの皆さんありがとうございました。そして、展開ゼミで野菜栽培を経験していただきました学生の皆さんお疲れ様でした。また、報告等愉しく拝読させていただきました、ありがとうございました。渡辺採種場は宮城県内にあって、仙台から少し足を伸ばせば訪問いただけます。瀬峰研究農場の展示圃場では春栽培の野菜が6月ころ、秋栽培のものは10月下旬から11月中旬にかけて見頃になります。是非訪ねてみてください。もちろん、時期を問わず大丈夫です。また、本社研究部の訪問も大歓迎です。

20210222155119-56f8c39c4bae039a79173bea5ed27d9423e38030.jpg                    瀬峰研究農場 白菜

 追伸
 かいわれ大根が黒く腐敗してしまったという報告がありました。一般にかいわれ用販売種子は検査済みの種子を出荷していますが、今回お送りしたものは研究部のハウスで試験採種した試交F1品種で未検査でした。採種ハウス内では病害の発生は見られなかったため、そのまま提供させていただきました。しかしながら、一部に保菌種子が存在し、播種密度が高かったことが引き金になり発病し、伝搬したということも考えられます。もし、種子に原因があるならば本当に申し訳ございませんでした。