平成28年度文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究

平成28年度文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究

植物新種誕生原理植物新種誕生原理

Nagoya University Live Imaging Center

公募研究班

祖先的シロイヌナズナ系統から探る自殖と新種誕生の原理

植物の新種誕生過程では,環境に適応した新しい遺伝子セットを維持するために,他殖から自殖への生殖様式の移行を伴う例が多く知られている.そのため,特に他殖性植物から新種を生み出し安定して維持するには,自殖性への転換が重要なステップである.自殖性への転換過程については,これまで特にモデル植物シロイヌナズナを用いた研究が進んできた.しかしながら,既知のシロイヌナズナ系統のほとんどが数万年前程度を共通祖先とする一方,近縁他殖種との分化は約500万年前と進化上の長いミッシング・リンクがあり,シロイヌナズナの新種誕生と自殖の進化の初期過程の詳細は依然明らかではなかった.最近の国際共同研究から,もっとも祖先的かつ極めて遺伝的多様性の高いシロイヌナズナ集団がアフリカ・地中海地域より発見された(Durvasula et al. 2017 PNAS).本研究では,アフリカ・地中海地域の祖先的シロイヌナズナを用いて新種誕生と自殖の進化の初期過程を解明することを目的に,具体的に以下の3つの問題に取り組む.(1)自家不和合性の鍵と鍵穴システムのゲノム解析から,自殖能力進化の初期過程を解明する.(2)ゲノムワイド関連解析から,花サイズなど自殖に関わる花形質の遺伝変異を同定する.(3)1, 2の結果を踏まえた進化シミュレーション解析から,新種誕生と自殖の進化を再現する.この結果を踏まえ,新しい遺伝子セットをもつ新種が安定して維持されるにはどのような進化過程を経る必要があるのか,新種誕生にみられる一般性を考察する.本課題は,祖先的シロイヌナズナという独自性の高い材料を用いて,分子集団遺伝学・ゲノムインフォマティクス・進化生態学的シミュレーションの統合的アプローチから植物生殖の理解に挑むものである.ゲノムデータに基づくシミュレーションによる進化の再現は,他の新種誕生現象を進化的視点からモデル化し,一般的な法則性を議論するためにも有効なアプローチになる.

メンバ―リスト
  • 土松 隆志千葉大学 大学院理学研究院