公募研究班（H31-32）
２つの鍵穴をもつ転写因子が父鍵と母鍵と結合することで胚の体軸が形成される
新種が誕生するには、異種間での生殖によって生じた交雑胚が無事に発生する必要がある。しかし、同じ品種間の掛け合わせでさえ、交雑胚が奇形や致死になることが知られている。つまり、父母に由来する因子が適切に協働することが胚発生に重要だと考えられるが、どのような父母因子が胚発生の何を制御するのか、いまだほとんど分かっていない。
研究代表者らはシロイヌナズナにおいて、母から受精卵に持ち込まれるHDG11転写因子と、父から持ち込まれる偽キナーゼ (SSP)がともに、どちらの親にも由来するWRKY2転写因子を介することで、胚発生の基盤となる体軸（頂端－基部軸）の形成を担うことを見出した。つまり、WRKY2転写因子は父母それぞれの鍵因子に対する2つの鍵穴を持つことで、父母協働の中核を担う。研究代表者らは、胚発生過程における細胞内動態を高精細にライブイメージングできる系を世界で初めて開発したことで、これらの因子による父母協働の結果として、受精卵の極性化と不等分裂を起点とする体軸形成が誘導されることを見出した。
そこで本研究では、WRKY2-HDG11経路の下流で働く遺伝子を網羅的に同定し、研究代表者らが独自開発したライブイメージング系を駆使して各遺伝子の機能を検討することで、受精卵内部で出会った父母性の因子が、どのような分子機構を経て適切な胚発生を誘導するかを解き明かす。
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- 植田 美那子名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所（理学研究科 兼任）