平成28年度文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究

平成28年度文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究

植物新種誕生原理植物新種誕生原理

Nagoya University Live Imaging Center

公募研究班(H31-32)

葉緑体母性遺伝を御する

生殖をめぐる多様な現象群のうち、未だその分子機構や進化的意義が分からないものの一つに葉緑体(cp)やミトコンドリア(mt)DNAの「母性遺伝」がある。母性遺伝とは、葉緑体やミトコンドリアが持つ独自のDNA(cp/mtDNA)が母親のみから子孫に伝えられる現象のことであり、ヒトを含む動物から菌類、藻類、植物に至る幅広い生物種において普遍的に観察される。母性遺伝は、雌と雄由来のcp/mtDNAを明確に識別し、片方のみを排除することで実現すると考えられている。その鍵となる雌雄の葉緑体/ミトコンドリアの識別メカニズムとしては(1)cp/mtDNAの修飾(メチル化)、(2)精子ミトコンドリアのユビキチン化、(3)精子ミトコンドリアのオートファジーによる選択的分解など、様々な説が提唱されてきたが、いずれも普遍的な説明として説得力を欠いていた。
本研究では、これまで看過されてきたcp/mtDNA-タンパク質複合体(cp/mtヌクレオイド)の役割に注目した。cp/mtヌクレオイドは、葉緑体やミトコンドリアの染色体ともいうべき構造体で、DNA複製、修復、転写、翻訳の要であるとされる。これまでに我々は、母性遺伝を撹乱するCpヌクレオイド遺伝子変異の特定に成功してきた。それらの遺伝子の詳細な役割を追跡することで、母性遺伝の分子機構の根幹に迫ることを目指す。
母性遺伝機構の解明できれば、葉緑体DNAの遺伝を自由に制御できる技術開発におけるブレークスルーとなり、ミトコンドリア母性遺伝機構の解明にもつながるだろう。ミトコンドリア病や細胞質雄性不稔と言った医学・育種上重要な形質の遺伝制御などへの道が拓けると期待される。

メンバ―リスト
  • 西村 芳樹京都大学 大学院理学研究科
  • 浜地 貴志京都大学 大学院理学研究科