東北大学大学院生命科学研究科 植物分子育種分野 渡辺研究室

⑨ これから肥料を与える方、一度この記事を読んでください ー肥料焼けー(農:小島蒼太)

2021年12月10日 (金)

新しいクオーターが始まりました。一年生の時はあまりこの切り替わりは意識していなかったのですが、2年生になり専門教育が本格的に始まると、ここでの授業の切り替えはかなり自分自身のライフサイクルにも影響を及ぼしてきます。うまく対応していきたいです。

TOPの写真は農学部の新青葉山キャンパスのすぐそばにある化石の森という場所で撮った写真です。雨の降った翌日に行くと滝の水量が多くなって結構迫力があります。キャンパスから徒歩20分もかからないので、もし来る機会があったらぜひ散策してみてください。

今回の記事は、前回の記事で渡辺先生からコメントでいただいた肥料焼けについてまとめてみました。

  

目次


1. 植物が根から水分を吸う仕組み

2. 肥料焼けについて

3. 対処方法

4. まとめ


 

1. 植物が根から水分を吸う仕組み

肥料焼けについて書く前に、植物が根から水分を吸収する仕組みについて簡単に学んでおこうと思います。

①浸透圧

水が植物の方に移動する一番の鍵になるのが浸透圧です。半透膜で隔てられ濃度の異なる2種類の溶液があるとき、濃度勾配を解消するように濃度が低い方が濃度の高い方へ移動します(浸透)。そして、この浸透を阻止するのに必要な圧力を浸透圧と言います。

植物の細胞膜は半透膜であり、土壌側の水分と細胞内の水分で浸透圧が生じています。つまり、根の細胞内の水分の方がイオン濃度が高くなっているときに浸透圧によって土壌→根の細胞という水の移動が起きるのです。

②根圧

水分を吸収した根の細胞は、その水によって膨張して圧力が高くなっています。この圧力が吸収した水を押し上げる役割を果たしています。

③毛細管現象

植物の水が通る管は道管と呼ばれています。この道管は植物によって違いはありますが、とても細い管になっています。そのため、水の表面張力によって水が上昇する現象(毛細管現象)が起き、植物体の上部まで水が送られるようになります。

④水の凝集力

水の分子間では水素結合によって静電的な引力(凝集力)が生じています。この力も水の上昇する力に変換されます。

⑤蒸散

葉まで上昇した水分は蒸散によって気孔から放出されます。この作用によって水を上部に引き上げる力が生じるとともに、継続的に水が上昇することができると考えられています。

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このように、①で根に水が移動し、②~⑤の作用によって上昇することで再び①の水の移動が起きるというサイクルを繰り返すことで植物は水を吸収しているのです。

参考文献:みんなのひろば 植物Q&A


 

2. 肥料焼けについて

さて、ここからは本題の肥料焼けについてです。肥料焼けとは、肥料の不適切な使用によって、株全体が急激にしおれてしまったり、葉が焼けるように枯れてしまったりする現象のことを言うようです。私が育てていた大根赤房もこの症状にぴったりと当てはまります。思い返してみると2週間前に観察した際、水と一緒に肥料を与えていました。しかも、根がもっと大きく、太くなるように根のそばに肥料の顆粒を置いていました。肥料をやったときに、植物体に近すぎたのかも知れないですね。」との先生のコメント、完全にこれです。

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では、なぜ肥料の与え方が不適切だと植物は枯れてしまうのでしょうか。その理由は先述の「浸透圧」にあるようです。先にも述べた通り、水の移動は濃度が低い方から高い方へと起こります。通常は根の細胞の方がイオン濃度が高いため、水の移動は土壌→根というようになります。しかし、土壌中のイオン濃度が高くなってしまうとこの方向の水の移動が起きにくくなります。この状態が続くことによって、やがて植物は水不足で萎れてしまうのです。

ここで、赤房が枯れてしまったのは気温のせいではなく、完全に私の失敗であったことが明らかになりました。私が根のそばだけに肥料を与えたために根周辺の土の養分濃度(イオン濃度)が急激に上昇し、浸透圧による根への水の移動が起こらなくなったことで赤房は枯れてしまったのです。赤房、本当にごめんよ。。

(参考文献:AGRIS 肥料焼けってなに?肥料の過剰障害


 

3. 対処方法

では、私はこの現象が起きたときにどうしたらよかったのでしょうか。さまざまなサイトに書いてあるのは「大量の水を与えることで養分を流してしまう」ということでした。根腐れに注意する必要はありますが、確かにこれをすれば土壌中のイオン濃度は下がるため、根が再び水を吸えるようになりそうです。また、私の与えた肥料は顆粒状だったため、残っていた粒を取り除くというのも大事な処置になるように思います。


 

4. まとめ

植物のためにあげた肥料も与え方を間違えてしまうと全く逆の働きをしてしまうという現象には今まで遭遇したことがなかったため、私にとってはかなり衝撃でした。しかし、植物が水を吸収する仕組みをしっかりと学んだ今は赤房が枯れてしまったのは必然だと思っています。失敗から学ぶことはとても大きいですね。「水や肥料をこれだけあげたら、ここに支柱を立てたら、、」植物を育てるときには知識に基づいた想像力が大事なのだと実感しました。もっと私は植物のことを知らないといけません。

これから肥料を与える方々、肥料の与えすぎは逆に植物から水分を奪う結果になりかねないので注意が必要です。また、顆粒の肥料は植物体に近づけすぎないようにしてください。鉢に満遍なく、根が伸びていく先に養分を届けるようなイメージで撒いてみてください。私のこの記事によって他の人たちの失敗を防ぐことができたら私の失敗も意味があるように思います。(2274文字)

IMG_9190.jpg白菜三兄弟は順調に育っています!

コメント

農学部・小島さん

「肥料やけ」でしたか。他の受講生向けに肥料やけがどのようなことなのか、なぜ、そんなことが起きるのか、肥料は植物から離した距離におくことがなぜ大事なのか、よくできた解説だと思います。また、手書きのモデル図もよくできています。①、②、というように順番に何が起きているのか、まさにreader-friendlyだと思います。

慣れてくると、肥料を置く場所、その量まで感覚的に分かるのですが、慣れない間は、5粒程度を2ヶ所くらいにあげるのがよいかと思います。植物体内のイオン濃度が上がると何が起きるかは、生物を学習すると習うのですが、実際に何が起きるかは対面しないと分からない側面があります。これも貴重な経験です。

ハクサイの生長もよい感じですね。葉っぱが黄色くなり、簡単に取ることができるようになったら、切除するのがよいでしょう。病気が発生する元になりますので。


わたなべしるす