東北大学大学院生命科学研究科 植物分子育種分野 渡辺研究室

第6回 冬に向けた準備とその後の生長(理:山本実永)

2022年11月17日 (木)

第6回(11月11日~11月17日)

 こんにちは。山本である。前回のラボスタッフのオガタさんの話にあった、海洋マイクロプラスチック汚染の原因が農業で使われるコーティング肥料にあるということがとても意外だった。野菜を生産する過程でマイクロプラスチックが生じているようでは、消費者がビニール袋をはじめとしたプラスチック製品の使用削減をしていてもあまり効き目がないということだろうか...初めて聞いたことでとても驚いている。そして、オガタさんの写真はどこで撮っているのだろう...と毎回不思議に思う。さて話は変わるが、寒さ対策の袋について「光合成が可能な明るい日中に温度が保たれる」ことが重要であるとのコメントをいただいた。これを読んで考えたが、光合成できない夜は霜が降りたり植物中の水が凍らないようにしている限り、多少寒さにさらされてもよいということだろうか。そして件の袋だが、早速壁にぶつかった。生長が著しい浅漬けが入らなくなってしまったのだ。今週の話題は、普段の報告とこの寒さ対策をどうするかということである。それでは、本題に参ろう。今回は以下の順番で書く。

1 寒さ対策の最終案
2 朝霧の生長
3 浅漬けミックスの生長
4 最後に

1 寒さ対策の最終案

 まず、袋をかけるということの問題点を書きたい。袋をかけるということは、水やりや収穫の際に袋を外さなければならないということである。そしてこの時、袋と植物が接触していると、植物に思わぬ傷をつけてしまうことがあるという問題がある。具体的には下の写真のような被害が発生する。これは袋に触れていたため、袋を外すときに巻き込まれて折れてしまった朝霧の葉の様子である。

IMG_20221113_083537.jpgこのようなことを二度と起こさないために、私は寒さ対策を練りなおすこととした。袋以外の寒さ対策として最初に思い浮かんだものが、寒冷紗で作ったトンネルである。数年前に私の実家でホウレンソウを栽培したことがあったが、そのときにトンネル作りを手伝った記憶がある。しかし、植木鉢二つのために作ることは割に合わないので、トンネルと近しい効果を得られ手軽に作れるものに決めた。これらのことから、段ボール箱にビニールを張った簡易のトンネル(というよりはハウス)を作ることにした。下の写真は、完成したトンネルというかハウスというか何とも言えないものである。これを播種から34日目の11月13日から使っている。

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 作る際に意識したことは、日光が入り込めることと通気性である。一つ目の日光については、段ボール箱の南に向く面を切り取り、透明なビニールを貼り付けることで、光が通るようにした。

IMG_20221113_201343.jpg二つ目の通気性という観点では、片方の面の下と、その反対の面の上の方に隙間を設けた。これは、箱の中を下から上に向かって風が通り抜けるようにするためである。理由は、箱の対角線を風が通り抜けるほうが効果的に換気できると考えたからである。換気する際によく聞く話である。

IMG_20221113_201415.jpg 次に写真の説明をする。写真で段ボール箱の中にビニールを貼り付けているのは、水滴で段ボールがふにゃふにゃになることを防ぐためである。昼間暖かい時間に水滴がよく見受けられるため、段ボールが濡れないよう内側にビニールを仕込んだ。

IMG_20221113_201350.jpgまた、その下の写真では、天面のビニールが洗濯ばさみで留められているいることが分かるだろう。

IMG_20221113_212151.jpg天面のビニールをテープで固定せずに洗濯ばさみで軽く留めたことには理由があり、通気性をよくするためである。意図的に隙間を作ることでそこから自動的に換気されるという魂胆である。他方、下の通気口は写真のようにとても大きく作ってある。こちらも、開閉可能なふたを付けることで、どれぐらい換気するかを調整できるようにした。

IMG_20221113_201415.jpgIMG_20221113_212235.jpg最後に、これらを作る際に最も気にしたことは、家にあるもので作ることである。例えば、洗濯ばさみはピンチハンガーから取れてしまったものであるし、使用したビニールは米の袋に使われているものである。この記事の読者の皆さまがハウスを作るときは、廃物を利用して作るということを意識してほしい。エコを押し付けるエゴ...なんて。

2 朝霧の生長

 朝霧について、今週は大事件が起こった。1にも書いたが、袋に触れていた葉が折れてしまったのだ。事件が起こったのは、播種から34日目となる11月13日の朝の話である。私は観察するために、朝霧にかけてあった袋を取った。そして、観察を始めようとしたその時、私は本葉の一つが茎からぽっきりと逝っていることに気が付いた。インターネット上には、折れた箇所をセロテープで固定しておけば治るという情報が多かったが、これらの情報についている写真よりはるかに重傷であった。茎の断面がはっきりとわかるほど折れており、まさに「首の皮一枚つながった」という表現の通りであった。写真では、折れている様子を三方向から撮影した。

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その断面からは水が出ており、維管束が切れていると考えた。せっかくここまで育った葉を切り捨てるのは残念であったが、折れた茎のところから切り取った。ちなみに、この葉はその日の私の朝食となった。

IMG_20221113_084225.jpgサラダ菜に似た食感と味であり、それほどホウレンソウらしさはなかった。生長しきっていない未熟な葉であるため、そのような味であったのかもしれない。もしくは朝霧がそういう品種だったということも考えられる。次の収穫のときに確かめたい。

 さて、朝霧は5枚目6枚目となる本葉が生長し、7枚目と8枚目が見え始めている。このうち、最初の方に出てきた1枚は折れてしまい、なくなっている。下の写真は播種から38日目となる11月17日夕方の朝霧を撮ったものである。

IMG_20221117_163210.jpgそして、次第にホウレンソウらしい葉の見た目になってきた。播種から36日目となる11月15日付近から、葉の溝が深くなり緑色が濃くなってきた。濃くなったとは言え、まだ売っているほうれん草のような濃い緑色にはまだ遠い。下の写真は11月15日の夕方に撮影した写真である。

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そして、播種から37日目となる11月16日の夜に新たな変化が見受けられた。本葉がしゅっとまとまって株が立ってきたのだ。上の15日夜の時点の写真と比べると、株の中心に近い本葉がまとまっている様子が分かる。15日までは、本葉が出ては背丈が低くなるように横に広がるという、ロゼッタ化の傾向が顕著にみられていた。

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翌11月17日の朝の観察と夜の観察を比較すると、朝よりも夜の方が横に広がっているようである。この傾向は一日の内の変化なのか、それとも長期的な変化なのか。ここ二日間くらいとても冷え込んだことが、なんらかの原因になっているのかもしれない。これからの観察で明らかになることを期待する。上から17日朝の横からと上から、17日夕方の上からと横からの写真である。

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3 浅漬けミックスの生長

 浅漬けミックスはこの1週間で5cm近く生長し、種が入っていた袋にある「20cmくらいで収穫」ができそうである。この報告を書いた後に収穫し、ただちに浅漬けにするつもりである。収穫してからというもの、成長スピードが著しく一日に1cm程度のペースで生長を続けた。下の写真は播種から32日目の11月11日の夜と11月16日の夜の様子である。

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しかし、播種から37日目となる11月16日以降、21cmで生長が止まっている。やはり、株の生えている密度と関係があるのだろう。密集して生えているよりは、散らばって生えている方が、根がのびのびと張れるため、吸収できる養分が多くなり生長しやすいということだろうか。下の写真は播種から37日目となる11月16日夜の上と横から、翌11月17日夕方の上と横からの様子である。

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夕方の前回は10cmほどで収穫したが、今ではその2倍の背丈がある。鉢を持つと、葉がわさわさと音を立てることが分かる。今回の収穫で残った株たちがどこまで成長するか、楽しみである。

4 最後に

 第6回報告は以上である。次回は中間報告となるから、気を引き締めて参りたいと思う。ちなみに、先日他の受講生の記事にあった自科総(自然科学総合実験)だが、この名称を採用している大学はごく少数らしい。そのため、他の大学に友達がいるという人は「自然科学総合実験」では通じないかもしれないということを覚えておいてほしい。もし、自然科学総合実験の話をするときは、「自然科学総合実験は、化学・物理・生物・地学を横断的に実験する科目で...(以下略)」というように説明することを勧める。わざわざ説明する必要があるか...その友人が東北大学の理・工・医・歯・薬・農学部に入学しない限り、不要な情報だということも説明の最後に付け加えるとよいと思う。

コメント

理学部 山本さん

寒さ対策も着実ですね。記事の投稿も安定して投稿できているのがよいことです。一定間隔で継続することをこの展開ゼミで学んでくれればうれしいですね。植物を撮影する時間帯がどうしても夕方になるのだと思いますが、昼間の写真と比べると、植物の状態を分かりやすく説明できるのは昼間の写真です。そんなことも次から少し意識してみてください。栽培に関してのコメントは、ラボスタッフ・オガタさんからのコメントをお待ち下さい。週明けにはコメントができる予定です。


わたなべしるす




山本さんこんにちは

消費者がビニール袋をはじめとしたプラスチック製品の使用削減をしていてもあまり効き目がないということだろうか...

 実際はそうなんですね。しかし、消費者側ができることはそれくらいなので、やった方がいいことは確かです。

 とにかく、おしなべて「世のキャンペーン」というものは真実が隠されているものです。エコの問題でいえば、廃棄食糧についても、「無駄を排除、そして完食」などと言われています。ところが一方でコンビニから大量に廃棄されています。これはなぜか? 実はコンビニフランチャイズ店から本部に上納される金額は「仕入れ値」から計算されるように仕組んであります。そのため、本部は「廃棄される分におかまいなく」店に弁当の個数を割り当てれば儲かります。店としては捨てたいわけではないのですが...... こういったことは「構造的な問題」であり、そこを変えなくては大勢が変わりません。

 世の電気料金が値上がりすれば国民生活が苦しくなる、そのため電気料金の抑制が言われています。ところが一方、道路脇の電飾動画広告板が増え続けていますね。コストがペイできるということは、「電気料金が安すぎる」からではないでしょうか? 本当にエコ社会を目指すなら、電力コストを上げないで達成は無理だと感じます。

オガタさんの写真はどこで撮っているのだろう...と毎回不思議に思う。

 普通に生活していれば、一日に一回くらい「面白いもの」を目にするものです! そこを撮っておくんですね。実は娘が高校大学時代、毎日のように送っていました(娘はそこから厳選し、ツイッターに載せてたみたいです)。

光合成できない夜は霜が降りたり植物中の水が凍らないようにしている限り、多少寒さにさらされてもよいということだろうか。

 これは「温帯性植物」、つまりある程度冬に耐性のある植物であればその通りです。温帯性植物は対応した細胞膜の成分、酵素活性、糖分の貯蔵機構などのため、寒さに耐えます。そのため昼間に温度を保ち、光合成できれば成長促進されます(昼夜間で何十度も極端に違えばダメかもしれませんが)。当研究室の温室も加温設備は無く、冬場の夜間は外気温と変わらずマイナスになりますが、栽培するアブラナ科植物は冬でも青々としています。

 ただし熱帯性植物はダメです。根本的に耐寒性が無いので、生きられる最低気温というものがあります。例えばカトレアならば7℃程度、コチョウランなら10℃程度が必要であり、一日のうちでこの気温より下回る時間があればダメージを受けます。

 ここからは蛇足ですが、世の中にはその中間の「半耐寒性植物」なるものもあります。更に、温度よりも霜に弱いだとか、あるいは土が凍って根が浮き上がるのに弱いとか、いろんな植物がいたりします。不思議なものですね。

 さて、今回の記事は素晴らしいです!

 手作りのハウスですか! 余談ですが寒冷紗のトンネルは「霜除け」「害虫除け」のためです。

 そのハウス、強度的にはともかく、かなり本格的なつくりですね! 日光と換気に気を配っているのがまたポイントです。過去の受講生でハウス作りをした人たちがいましたが、「日光の確保」が充分でない例が見受けられました。とにかく日光の量が最重要であり、植物にとってそれが「主食」ですから。過去には鏡や銀紙を使ってより日光を集めたりする工夫もあったようです。

 水滴にまで気を配り、「将来起きるだろう事態に備える」、ここも素晴らしいと思います。

 洗濯ハサミはともかく、換気口はきちんと作っていますね。しかも開閉式! 実際のところ、手作りハウスはそれほど密封性がないのでことさらの開閉は必要ないかと思います。しかしながらそういうところは実測しないと何ともいえません。そこでお勧めするのが、「温度計で昼間の天気と温度の関係」を測り、ハウスの効果を確認することです。この際、植物よりもその方が貴重なデータとなり、来年度以降の受講生の指針になるかもしれません。

廃物を利用して作るということを意識してほしい。エコを押し付けるエゴ..

 上手いこと言って......

 さあ、折れたホウレンソウの葉、実食されましたか。実は葉脈の大半が切れても枯れ込まないことが多いのですが、これだけ葉があれば取り去っても構いません。

 葉の色は確かに薄めですね。日照のせいか、肥料不足なのかは分かりません。ただし、「味がサラダ菜に似ている」、つまりエグ味が無いという重大情報と併せると肥料を追加した方がよさそうです。お渡しした肥料を一つまみほど(粒で言えば10~20粒)ずつ三か所に置いてみたらどうでしょう。

 葉の立ち方についても、まだ判断できません。実はホウレンソウは花をつける時に直立した葉を伸ばすのですが、この時期にそうなるとは考えられません(よほど夜間の室内光が当たって長日になり、しかも十二分に保温されている)。今後どうなるか、栽培を続けましょう。

 浅漬けミックスは本当にわさわさ成長しています。本展開ゼミの目標が達成されそうで何よりです。根の水分養分の競合で成長が止まりつつあるのか、日照競合なのか、あるいはここがいったん休みの成長フェイズなのかは分かりません。がっつり間引きすれば判明するかもしれませんが...... ともあれ、葉が硬くならないうちに収穫して食べましょう。そのまま食べるのではなく浅漬けを作るのはなかなか大変そうですが、本来はそれを意図してミックスされた種子なので、それに沿うのもいいことですね。

 ではまた、次記事もお待ちします!

DSC_0017.JPG コシがあるとは言うが、アシコシとは......

ラボスタッフ・オガタ