東北大学大学院生命科学研究科 植物分子育種分野 渡辺研究室

学問論演習2024レポートへのコメント from カネコ種苗株式会社 堀越様より(ラボスタッフ鈴木)

2025年2月14日 (金)



本講義のまとめとして、種子などを提供頂いたカネコ種苗株式会社の堀越様から、コメントを頂きました。

以下、掲載いたします。



会社紹介、自己紹介


 カネコ種苗は野菜、牧草、サツマイモ、ヤマノイモ、花の品種改良に加え、養液栽培の開発、農薬・農業資材の卸売りまで幅広く手がけております。特に、ヤマノイモ、サツマイモについては、ウイルスフリー化に加えて育種まで行っている国内民間種苗会社はほとんどありません。牧草類(デントコーン、イタリアンライグラス他)の育種に力を入れているのも当社の特徴です。また、農薬の卸部門は、農協系以外では国内シェアトップと言われております。


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(サツマイモ・シルクスイート)

  

 私は1988年に農学部植物育種学研究室を卒業し、カネコ種苗に入社しました。なお、渡辺教授とは、私の入学が1年早いですが、学部卒業は同時でした。入社以降はくにさだ育種で30年以上ダイコンの品種改良を行ってきました。昨年の6月からは波志江研究所へ異動しております。波志江研究所は、サツマイモ、ヤマノイモのウイルスフリー化と品種改良、小胞子培養、育種の基礎研究(DNAマーカー、耐病性検定)などを行っております。おいしいサツマイモとして人気のある「シルクスイート」や粘り気が強く、味の濃いヤマノイモ「ネバリスター」は波志江研究所で開発したヒット品種です。


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(ヤマノイモ・ネバリスター)



コメント

      
 毎回楽しく読ませていただきました。読ませる文章力を身につけるという点では、皆さん合格点に達しているのではないかと思います。また、オガタ先生のコメントは適切で、知識の豊富さに関心しました。特に最後の1ショットは絶品で、毎回笑わせていただきました。

 正直なところ、私が育種(ダイコンの育種を30年以上)に関わっていたときも、このような鉢植え栽培やカイワレ(スプラウト)栽培はほとんどやっていませんでした。ですから、新たな発見ばかりで、教えられることが多々ありました。今度、記事を参考にカイワレダイコンに挑戦してみようかと思います。


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(ダイコン・味短歌)



 鉢栽培ではスーパーで売っているようなダイコンやハクサイは難しいということも実感していただけたのではないでしょうか?栽培期間が短かったこともありますが、野菜は実際の畑では広範囲に根を張り巡らせております。畑ではダイコンの根(肥大根とは違います)は1~2mの深さにまで到達しているとされております。その範囲から栄養分や水分を吸って大きく育ちます。

 なお、市場に出荷するようなものを収穫するためには、仙台であればキャベツは7月、ハクサイは8月、ダイコンは9月くらいまでに畑に種子を播いておく必要があります。秋~冬どりの栽培では、気温と日照量が共に低下して行くので、想像以上に加速度的に生育が遅くなっていきます。例えば、ダイコンの秋まき秋冬どり栽培では1週間遅く播くと、収穫は1ヶ月遅れると言われております。2回の栽培にチャレンジされた方は、播き時期による生育の違いを実感されたのではないかと思います。


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(ハクサイ・極意)



 水やりについては、神奈川県三浦市(ダイコン、キャベツの大産地)のダイコン作りの名人に聞いた言葉を今でも覚えています。「ダイコンは日中しおれて(晴天時)、朝夕に回復するくらい(の水分条件)で、一番いいものが穫れる」。特に根菜類は根と葉の最適水分量が異なっており、葉に丁度良い水分量では根には多すぎて、根腐れにつながる場合もあります。  


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(カブ・ゆきわらし)



 また、野菜栽培では、頻繁に(毎日)観察することが特に大事です。虫害も見つけ易く、徒長などにも早めに気づくことにつながり、対策をとりやすくなります。小規模な栽培では農薬散布よりも手で捕まえる(捕殺)方が確実で効果的な場合もあります。追肥や水やりも、ある程度の目安はあるものの、基本的にはあくまでも植物の生育状況や天候に応じて量やタイミングを調整して行うものですので、こまめな観察が重要です。

             
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(ハツカダイコン・イザベル)



 今回、多くの品種でペレット種子が使われておりました。ペレット種子とは、花などの微細な種子や野菜ではレタスやニンジンなどの形状が不均一な種子などを中心に、取り扱いやすく播きやすくするために、天然素材を主体とした粉体で種子を均一な球形や紡錘形にコーティング・成型した種子のことです。特に、機械などを使って正確に1粒づつ播くために使われ、ペレット種子を利用する割合は多くの作物で急速に増加してきています。
それに伴って、従来間引きを行っていた作物(ダイコン、ニンジン、カブ等)も間引きを行わなくなっております。発芽の良いペレット種子等を正確に、1粒ずつ播いておしまいです。また、種子の販売形態も以前は体積販売(はかり売り、例20ml、2dl)も多かったですが、近年は粒数販売(例、1,000粒、8,000粒)が増えてきています。


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(コマツナ・よかった菜G)


          
 最後になりましたが、今回の経験を生かして、今後も野菜に親しむ機会を持っていただけたら幸いです。野菜栽培は年齢に関係なく楽しめますし、実際に食べられるという実益もあります。私も家では家庭菜園(ダイコン、ニンジン、タマネギ、ネギ、サツマイモ等)を行っています。自分で作った野菜は新鮮で、より一層おいしく感じるものです。



カネコ種苗株式会社 堀越