東北大学大学院生命科学研究科 植物分子育種分野 渡辺研究室

12.ビニールハウスの作り方を学ぶ(農:佐々木美園)

2021年1月 3日 (日)

あけましておめでとうございます、農学部の佐々木美園です。今回の冒頭の写真は、昨年2020年に私の笑い納めをかっ攫っていったキビちゃんの奇跡の一枚です。ジャンプした瞬間の写真を撮りたいと思ったら、着地の瞬間を納めてしまい、「二足歩行を始めた直後の猫」の写真になってしまいました。それにしても動く被写体をここまできれいに撮影できる今のスマートフォンのカメラはすごいですね。写真を撮るのが楽しくなります。

さて、昨今のカメラの進歩に舌を巻いてはいるものの、私の主な被写体は動きに乏しい植物なのでさして関係はありません。ですが動きには乏しいものの、変化には富んでおりここ最近でもかなりの生長が見られました。また、寒さ対策としてビニールハウスを二重にしたことも功を奏しています。なので、今回は福島滞在記第2弾として作物の様子と二重ビニールハウスの作成をメインに書いてきたいと思います。


~目次~

1.二重ビニールハウスの作成

2.作物の様子

3.祖父の教え

4.まとめ


1.二重ビニールハウスの作成

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12月30日 9:07 ハウス内9℃ 気温6℃ 白菜83日目 ホウレンソウ50日目

 この日、祖父と一緒に作物の様子を見に行きました。いつも通り写真と温度を記録してついでにアドバイスでも貰って終わりかな、と思っていたのですが写真を撮っている際、祖父が「本当は二重の方がいい」と発言。確かに二重にした方が温度も保ちやすく、凍害などの心配も減ります。でも今から作るのも時間が足りないかな、と思っていたところ祖父が物置から大きいビニールと花壇などに使う仕切りを持って登場。そこからものの10分前後で写真の簡易ビニールハウスが完成しました。作りは至ってシンプルで、作物の上にアーチ状の仕切りを掛け、そのアーチの上にさらにビニールを掛け、ビニールの裾を物干し竿で押さえただけです。え、こんな簡単で大丈夫なの?と不安に感じなくも無かったのですが、見当違いも甚だしく、効果は抜群でした。その後、年末の寒波により、気温が氷点下まで下がることもありましたが、ハウス内は常に4~5℃台をキープし、雪はもちろん凍害も起こること無くすくすく生長していきました。

 意外と単純な工夫でここまで温度が保てるならば、仙台に帰っても何か対策が出来るかも知れません。仙台にいた頃は、とりあえず袋を被せていましたが、今度はこの経験を活かして真面目に温室作成をしてみたいと思います。


2.作物の様子

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1月3日 9:35 ハウス内14℃ 気温2℃ 87日目

福島で過ごして、大体10日間ほどたった現在の様子です。前回の写真と比べると、葉の大きさ、枚数ともに増えていることが分かります。というか、今見比べて思ったのですが今までに無いほど、葉が大きくなるのが早いです。前回2cmほどだった、中心から4枚目の左向きの葉が、この写真で見る限り5cm近くなっており、わずか6日間で倍以上に生長しています。ここまで急激に生長するとは思いもよらず、もっと正確に大きさを計測しておけば良かったと後悔しています、、。

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1月3日 同上 54日目

続いてホウレンソウの様子です。こちらもグングン大きくなり、写真では見えづらいのですが5枚目6枚目の本葉も出てきました。茎も太くなり、子葉付近まで土寄せしているため、仙台に言ってから強風で折れないかどうかを心配することも無くなりそうです。ただ、実家のホウレンソウと見比べるとまだまだ小さいので、ここからどこまでホウレンソウらしくなっていくかが見所ですね。私としては、最初の本葉が10cm近くになり、根が赤くなりホウレンソウらしさが見られるようになるまでは頑張りたいと思っています。


3.祖父の教え

 さて、ここまで育てるに当たり、いくつか祖父から教えて貰ったことがあります。その中でも、水やりの方法は特に参考になったので、せっかくなのでここに書いて起きたいと思います。あくまで参考程度ですが、プロの農家の言うことなのでいくらかは役に立つかと思います。で、そのコツというのが、「握って固まらない程度の土の湿り気を維持する」と言うことです。多すぎると、根腐れが起きたり病気にかかりやすくなるため、やはり水のやり過ぎには要注意な様です。露地栽培ではこの状態の維持が難しい様ですが、鉢栽培ではこまめに手を加えられるため試してみる仮はあると思います。

 また、前回も書きましたが、「鉢栽培の場合、冬期間は上からでは無く下の受け皿に水を与えることで凍害を防止できる」と言うことも記して置きたいと思います。ただし、この際に要注意なのは、氷点下で受け皿に水が入りっぱなしだと、その水が凍り鉢が冷えてしまうため、寒くなると分かる場合は水をやらないor受け皿の水を捨てると言う対策が必要になってきます。

 上記の二つとも、やはり科学的なものでは無く肌感覚的なものですが、これがかなり参考になったので、他の受講生の方や来年の受講生の方の役に立てば幸いです。


4.まとめ

 福島に帰って来てから二回目の記事になります。約2週間程度の間ですが、その間の密度の濃さや変化の大きさが今までの比では無く、書く内容に事欠きません。また、私自身、祖父から学ぶことが多く、その知識を元に今後の栽培方針を見直す必要が出てきました。とりあえずは、来週末の寒波への対策・温室作成を目指して行動していきたいと思います。(2,144字)

コメント

佐々木さんこんにちは

 奇跡の一枚ですね!!

 意味不明なほどのネコポーズです。昔の言葉で言えば「シェー」にも見えます。

 昨今のカメラの進歩は凄いもので、解像度だけではなく感度そのものが上がっています。感度が高いと切り取る時間(シャッタースピード)が速くなり、こういった動きのある被写体をしっかりブレなく写すことができます。ちなみにですがカメラ性能の指標には各種あります。画素数は誰でも分かる(まあその中でもベッセル配列とかマニア臭いことを言い出したら切りがありませんが)としてもF値くらいは知っておくべきですね。F値は小さいほどレンズが明るく(F値が半分になると4倍明るい)、そのためシャッタースピードが速くなり、おまけに被写界深度(ピントの合う遠近距離)が深くなります。

 しかしまあカメラの撮像素子はまだ日本製のことが多いのですが、昨今のテレビのパネルはみな中韓製です。有機ELは全部韓国LG製です。世界で初めて有機ELテレビを作ったのはソニーなのに...... 次世代テレビの本命と言われるマイクロLEDは韓国サムスンがトップを走っています。目の前にあるパソコンのCPUは台湾製造、メモリーも台湾韓国製造です。かつて日本が圧倒的だったのに。つまり日本の技術競争力は誰の目にも落ちています。科学論文数でもそれは明らかです。よく研究費のことが言われますが、加えて個々の研究者の質も落ちています。日本の教育関係は、遠く離れて文化も背景も違うスウェーデンやフィンランドばかり参考にしようとしますが、実際の日本は過酷な受験勉強をする学歴社会の中韓に敗れています。

 さて話は植物に行きますが、二重のビニールハウス、これはいいですね!! もちろん保温性が増します。昼間の温度を曇り空の条件下でも上げることができます。日照があれば5℃とはいわずもっと上がると思います。ついでに言えば夜間も若干温度が保たれます。植物は熱を出しませんが、地面の蓄熱性による作用です。

 こういうものをちゃっちゃっと作れるところが凄いですね。私が面白いと思ったのは、普通こういうビニールトンネルは上からバンドをかけるのですが、無風のハウス内ではその必要がなく、必要充分の簡便なものに済ませているところです。

 ちなみにですが普通ビニールと呼ぶのはポリ塩化ビニールで、透明かつ丈夫、保温性も高いものです。これは化学でソルベー法を習ったと思いますが、塩化ナトリウムに炭酸ナトリウムとアンモニアを吹き込み、炭酸ナトリウムの難溶性を利用して分離し、そこで副産物としてできた塩酸を何とか利用するものです。ナトリウムの方はパルプ産業やガラス産業などで大量に使いますから塩酸が余るのですね。

 利用するには便利な塩化ビニール、しかし燃やすとその塩素のためダイオキシンを発生させてしまいます。昨今では農業資材でも塩化ビニールではなくポリエチレンやポリプロピレンを使うことが多くなりました。ただし日光の紫外線に耐久性が高くありません。

 作物はホウレンソウもミニハクサイも大きくなりました。温度によって本当に違いが出ますね。祖父とのコミュニケーションとしても役立ったのであれば僥倖です。

 ホウレンソウの根が赤くなるか...... これは品種によるところが大きく、必ずしもそうなるとは限りません。

 さて水やりの目安などですが、全くその通りですね。実はそういう肌感覚こそとても科学的なことです。もちろん数値化して客観化したものは科学ですが、そうでないことでも科学的なことがあります。重要なのは再現性なのです。もちろん実用的には簡便であることが重要で、この場合も土壌水分計で測るより手で握った方が早いでしょう。そういうのもまた貴重なノウハウなのです。

 手で握ってバラけるというのは、難しい言葉で言えば重力水がなく、毛管水が半量程度くらいの状態ですね。土壌水分のこと農学部でも植物分野に進めば習うと思います。土壌水分は簡便には重力水・毛管水・吸着水・結合水に区別され、更に詳しくは団粒毛管水などに分類されます。その説明までしないのですが土を握って塊になるかどうかは実に科学的な手法だと覚えておいて下さい。まあ鉢土では難しい手法ですが......

 寒波はまだまだ続くようです。-6℃というのは仙台ではなかなか見ない数字で、例年一番寒い二月初めで一回あるかどうかの寒さです。この寒波で苦戦する受講生が多いようです。一月の半ばすぎると例年並みの寒さで済むという予報ですがどうなるか。まあそれでも仙台はまだ雪が少ないので住むにはいいですね。大変な地方は大変ですから。

 植物のことでは仙台に持ち帰った際、急に低温のところに来ることになり、少しばかり心配です。それと帰りも油断せず安全に運搬しましょう。

 ではまた報告お待ちします。

 ラボスタッフ・オガタ

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