東北大学大学院生命科学研究科 植物分子育種分野 渡辺研究室

ちょい辛ミックス再び(農:高橋悠太)

2023年1月16日 (月)

こんにちは。高橋悠太です。

 今回から、かなり前に収穫したちょい辛ミックスを再び育ててみるというチャレンジを始めることにしました。少々記事を出すのが遅くなってしまいましたが、実はもう芽が出始めているという状態です。今回は導入部だけ触れたいと思います。

 と、その前に少しだけ小松菜についても書いたので、そちらからいきたいと思います。

小松菜:補章

 前回小松菜を収穫したということで、小松菜回の補足として維管束についても実際によく観察してみた。こちらは小松菜の茎から維管束をむき出しにした写真である。これを見て分かる通り、小松菜の茎には大きな3本の維管束が通っている。また、茎の断面を見ても大きな3本の維管束が存在していることが分かる。実はこの葉は、前々回に紹介した茎が折れたにもかかわらず枯れずに生きていた葉である。そのため、予想の通り維管束が切れていなかったために枯れなかったと思われる。では、維管束をむき出しにしたままでも、植物は生き続けることができるのだろうか。茎の役割として容易に想像できるのは、葉をできるだけ高く、広範囲に伸ばすことで効率の良い光合成に寄与することである。また、表皮によって病原体から自身を保護する、植物体を支え丈夫に保つという役割も考えられる。これらから考えると、人工的に管理すれば、維管束がむき出しの状態でも生き続けることができるのではないかと考えられる。しかし、自然界にもし茎が発達していない植物が存在していたら、他に特別な機構を備えていない限り、ほぼ間違いなく生存競争には負けるだろう。

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ちょい辛ミックス再び:導入

 あと期間は2週間ほどであるが、ちょい辛ミックスを栽培する際育ちにムラが出てしまったのが反省点として挙げられたため、もう一度チャレンジしてみることにする。しかしただ育てるのではなく、要因として栽培密度が高すぎたということが予想されたため、対照実験に近い形で栽培することにする。

 まず、栽培を3エリアに分けた。1つは約3cm間隔を取り余裕をもたせて配置したもの、2つ目はあえて一カ所に密集させて配置したもの、3つ目は前回のようにばらまいたものである。今回は土ではなくキッチンペーパーを敷いて栽培することにする。種子はそれぞれ18個ずつにした。ちょい辛ミックスには4種の種子が混ざっているが、種類は特に考慮していない。水、日照、温度等の条件は全て同じとする。1/11から栽培を始め、その育ち方を比較する。実際に違いが出てくれば検証がある程度予想通りということになるが、うまく差が現れるだろうか。以下は全体の写真とそれぞれのエリアのアップで撮った写真である。

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 あと、2回でこれらの生長を観察して記事にする。

コメント

農学部 高橋さん

育種の渡辺です。残り少ない講義の時間を有効に使って、ある種の水耕栽培にチャレンジ、niceだと思います。この時期、乾燥しているので、水管理だけはしっかりとやってください。発芽をするときに途中で水が切れるのが、一番よくないことですから。講義の最後の時間までにどの様な生長になるのか、発表できるかと思います。しっかりと時系列で監察して報告してください。これまでの受講生の中にも、維管束を観察した方がいました。ちょうど、下の写真の断面をもっと拡大した写真が掲載されていたかと。模式図でも書かれていました。高橋さんのように維管束を引っ張り出した方は、初めてだと思います。絵を描くのは苦手かも知れないですが、実際に書いてみると、維管束がどのように配置されているかをしっかりと認識できると思います。それから、維管束をむき出しにするということを書かれていますが、「環状剥皮」という手法が果樹の栽培などで活用されています。導管、篩管による物質の流れを制御するということが目的です。以前紹介した書籍「エッセンシャル 植物生理学」の135 pageに書かれています。参考にしてみて下さい。それ以外については、明日、水曜日の朝にラボスタッフのオガタさんからのコメントが投稿される予定です。それも参考にして下さい。


わたなべしるす




高橋さんこんにちは

 ちょい辛ミックスの実験、面白そうですね!

 自分が疑問に思ったこと、あるいは興味を惹かれたことに対し、しっかりアクションするのは大事なことです。科学の発展はまさにそれによって進んできました。いや、これは本当にいいことです。

 高橋さんが将来研究職になるのかどうか分からないのですが、もしそうなったら、この精神が役に立ちます。もちろん置かれた立場の本業をしっかりこなす一方、自分の疑問について実験を行うのは楽しみにもなり、またライフワークになることもあるでしょう。

 実験を行うには「何を見たいのか」を明確にして、「条件を整える」ことが必要です。この場合、そこそこ考えられた実験系だと思います。最大のポイントである播種の仕方について、三種類を設定、その意図がよく分かります。「種子と種子との距離」を変えること、「位置的形状」を変えること、が考慮されています。

 実験として最初はこういうものでいいのです。結果を見ながら、より変化がシャープに現れる方へ実験系を改変していく、これが普通です。

 結果をまた記事にしてお知らせ下さい。本当に正直に言えば、もう室内でさえも気温が低すぎでしょう。おそらく発芽まで時間がかかり、またその後の成長も低調なことと思います。そして最大の問題点はキッチンペーパーにうまく根が入らず、入ったとしても厚さが足りません。もちろん肥料分の供給もできません。スプラウトとしての実験系なら良いのですが、ベビーリーフと言えるまで大きく栽培するのはかなり困難です。

 しかし、逆に言えばスプラウトプラスアルファまで育てばいい、行けるところまで行って結果判定、そう割り切ればいいのかもしれません。

 そして蛇足のことを書きます......

 播種形態の違いと成長、これは大きなテーマです! 「個体の栽培」というところから一歩離れて、「群落の成長」、そして「生態環境の理解」にもつながるでしょう。植物は個体の生存だけではなく、群落全体の最適化に向けて進化してきたのは当たり前です。その方が種の繁栄により密接ですから。

 ただし、ちょっと考えてみただけでも、光競争、水分競争、接触刺激......いろいろな要素が絡み合います。本式には一つの要素に絞って実験系を組みます。例えを一つ出すなら、土壌面に的を絞り、「滅菌した土を使う・滅菌しない土を使う」によって見てみるとか......

 まあ話が飛躍しました。記事に戻ります。コマツナの維管束、よく観察されましたね! 観測しやすい形にして、写真を撮られているのは凄いです。

 そして茎に三本の維管束があるとのこと...... 正確にいえば葉柄部分になります。コマツナは双子葉植物なので、本当の茎にはもっと多くの維管束が輪状に存在しますから。そしてこの維管束(突き詰めていえば中心の導管部分)があれば、水の供給が途絶えませんので葉がしっかり生きていられます。あるいは三本のうち一本だけでも大丈夫かもしれません。生物は不測のことに備えて冗長性があり、多少のことでは致命傷になりません。

 維管束が出ている状態...... おっしゃる通り、「表皮という病原体からのバリア」が無ければ弱いですね。ただ植物は動物と違い、細胞壁を持ち、おまけに傷ついた部位からファイトアレキシンという抗菌物質を出すことができます。そのため本来的には病害に強いもので、すぐに維管束が腐ることはありません。上で教授が書いている「園芸的手法の輪状剥離」は、皮を剥がし、その上で維管束の篩管部分だけを切断し、実付きを良くしたりトリ木を行ったりすることです。言葉だけで説明するのは難しいので、興味があれば調べて下さい。

 記事中には「茎が発達していない植物」の話がありますが、まさにこれは「コケ植物」ですね。茎がないため植物体を大きくすることができません。他の植物に打ち勝ち、強い光を受けることはできず、違う生存戦略を取らざるをえません。それでも一定の繁栄を勝ち得ていますが......主役ではないかもしれませんね。

 さて、最終報告の期限もありますが、レギュラー記事もまたお待ちします。

DSC_1693.JPG いや違うでしょう......

ラボスタッフ・オガタ