東北大学大学院生命科学研究科 植物分子育種分野 渡辺研究室

力業、完成度、圧倒(10/17)

2018年10月17日 (水)

 この4月から分野名を「植物分子育種分野」に変更した。以前は「植物生殖遺伝分野」であった。扱う形質の幅を広げると言うこともあり、分野名を変更したが、実験技術というか、手法の基礎は遺伝学である。以前も、書いたことがあるかも知れないが、渡辺が高校生の頃には、遺伝学は「生物I」で学習した。その後、どの様な過程を経たのか、厳密に知り得ないが、今では、1遺伝子座によって制御されている遺伝学は、中学3年で履修するらしい。では、2遺伝子以上の複雑な系は。。。高校での生物学の中に入っているらしいが、ほとんど、扱うことがないらしい。ゲノムというか、細胞が有している遺伝情報を比較的簡単に解析できるこの時代。もちろん、1遺伝子座で制御されている現象もあると思うが、それと相互作用したり、複雑な系は存在するはずであろう。渡辺が単純に遺伝学に興味を持ったのは、数学の「確率」で物事を考えることができたことが背景に。サイコロを振るように、どちらの目が出るのか。優性の対立遺伝子なのか、劣性の対立遺伝子なのか。その組合せをひたすら書き出して、考えたのを思い出す。ただ、実際に実験をすると、試験問題のような少ない数で、答えを出すのは、かなりの苦難がある。それぞれのサイエンスの分野が細分化されているとはいえ、力業でなくて、物事を論理的に考えることはどんなfieldでも重要であるわけで。。。基本的なことを理解して、物事を観察して、考える、というのはサイエンスの基礎基盤であり、どの様に現象をバランスよく捉えるかによって、現象理解は違ってくるのではないだろうか。研究の基礎力というか、研究力の低下が叫ばれている現状で、あらためて、いままでの研究の歴史を振り返るのも1つなのだろう。

20181017183735-af0f0e5ba7b80c561c0d15a2d95d5ef12d18fe72.JPG 歴史と言えば、小学校から高校までで何を教えるのか、学習指導要領というのだろうか、10年に1度、改訂されている。その学習指導要領によって、先の遺伝学を教える位置も、変わったのであろう。時代によって変遷があるということは、その時点では完成度が高いものかも知れないが、振り返ると。。。ということはもちろん、あるだろう。渡辺の時代、高校に進学しないという友達がどれくらいいたであろうか。数%だったような。。。今は、ほぼ、100%の進学率。では、改めて、遺伝学をしっかり高校でというのは、。。遺伝学は遺伝子を扱って、物事を考える人たちの基礎になっている訳なので、もう少し各論のことを抑えるとか。。。ただ、大学入試との関係で、そんなに簡単なことではないのかも知れない。ただ、研究の歴史を知るのと同じくらい、教育の歴史という意味で、学習指導要領を知っておくのも大学人として大事なのかも知れない。小中高と学んだ学生が大学に来るわけなので。。。

 そういえば、高校、大学で遺伝学は学んだが、遺伝学の実験をした記憶がない。作物を使って、適切に検出できる形質がないのだろうか。もちろん、メンデルが使った形質は使えるはずであり、モデル植物、生物を使えば、できるものもあるのだろう。モデルの方が、色々な実験例もあり、圧倒的に実験はやりやすい。その意味で、蛍光顕微鏡で観察をしないとできない「自家不和合性」形質は、基礎的な実験には、少々不向きなのかも知れない。とはいえ、形質の検出の以前に、F0からF1を作出し、自殖することで、F2を展開する必要がある。交配というか、交雑である。だんだんと年を取ったのだと思う。実験に使うピンセットの手先がおぼつかない。そんな中でも、なんとか、総当たりの組合せを欠落しないように。。。あとから、あれもほしかったというのは、困りものになるので。。。オセロサッカー将棋、いずれの世界も、若手が活躍している。若手に負けないように、残りの12.5年で何ができるのか、しっかり逆算して、現状の研究施設をフル活用して、さらには、共同研究をすることで、時には圧倒的な力業を使いつつ、完成度の高い教育研究をと思う今日この頃である。

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 わたなべしるす

 PS. この記事の1つ前に、出前講義が1,000回を超えたとか。。。桁違いというのはよくいったもので。始めた頃は、1桁だったのが、2桁、3桁、4桁に。。。支えてくれた関係の方々に、お礼を申し上げます。ありがとうございました。


 PS.のPS. もう1つ。この週末の農芸化学会のサイエンスカフェ。あちこちで、広報しているのですが、まだ、席に余裕があります。是非、申込の上、ご参加頂ければ、幸いです。



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