研究経過
Molecular Ecology誌の特集号(The Molecular Mechanisms of Adaptation and Speciation )に、タネツケバナ属のゲノム倍数化による適応放散の分子機構についての論文が掲載されました(清水・瀬々グループ)
March 1, 2017 7:38 PM
Category:研究成果
main:瀬々班
アブラナ科タネツケバナ属は200種あまりを含み、その半数以上が倍数体であるため20世紀半ばから倍数体研究によく使われてきました。二倍体種は乾燥地と湿潤地という両極端な水分環境に見られる一方、倍数体はその中間的な水分環境に生息します。例えば、季節によって水環境の変化する水田や、水位が上下する川の土手などが典型的な倍数体の生息地です(図)。
この論文では、タネツケバナ属の代表的な二倍体二種とその間に生まれた四倍体を使って、これらの種が乾燥条件と浸水条件でどのように遺伝子発現を変化させるかを調べました。その結果、四倍体は乾燥条件では乾燥地に生息する二倍体種の遺伝子発現様式を模倣し、逆に浸水条件では湿潤地に生息する二倍体種を模倣することがわかりました。ただし、その模倣は完璧ではなく、倍数体では遺伝子の発現変化の強さは両親の二倍体親の中間的なレベルにとどまることもわかりました。
このことは、二倍体は乾燥と湿潤、いずれかの環境のスペシャリストである一方、倍数体はその中間的な環境に進出してジェネラリストとなることによって生き残ったということを示しています。
近年、生態学的種分化、つまり生殖隔離と生態的特徴の変化が同時に成立するような新種形成のメカニズムに注目が集まっています。異なる水分応答をもつ種のあいだの異質倍数体化は、新しい生態学的種分化のメカニズムだと考えています。かつ、過去150年にスイスでタネツケバナ属の新種倍数体が誕生したことが知られているように、急速な種分化をもたらします。実際、タネツケバナ属は、異質倍数体化が繰り返し起こることで多様な環境に生育する種があらわれ、適応放散した例だと考えられます。
清水グループでは、さらにゲノムレベルの解析を進めるため、次世代シーケンサーによるタネツケバナ属のゲノムプロジェクトも行っています(Gan et al. 2016)。今後、その情報を利用して、どの遺伝子が適応放散の鍵となったのか、このような倍数体の戦略がタネツケバナ属の多くの倍数体に共通してみられるものなのかどうかなどを調べていく予定です。