平成28年度文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究

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植物新種誕生原理植物新種誕生原理

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研究経過

【プレスリリース】同種と異種の花粉を区別する分子を発見(高山班、瀬々班、土松班)

July 2, 2019 1:15 PM

Category:研究成果

main:土松班, 瀬々班, 高山班

 生物は多様化することで、地球環境の変化に適応してきました。同時に、多様化は種の誕生をもたらしてきましたが、生物が自他の種を積極的に識別する分子メカニズムの存在は未知でした。

 

 東京大学大学院農学生命科学研究科の藤井壮太助教(兼任JSTさきがけ研究者)と高山誠司教授らの研究グループは、横浜市立大学木原生物学研究所の清水健太郎客員教授(瀬々班)、千葉大学大学院理学研究院の土松 隆志准教授(土松班)ならびに奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科らとの共同研究により、モデル植物のシロイヌナズナから異種の花粉を積極的に排除する雌しべ因子をコードする遺伝子Stigmatic Privacy 1 SPRI1)を発見し、その機能を解析しました。その結果、SPRI1遺伝子を欠損した変異株では、通常排除されるはずの異種の花粉が侵入するようになりました。SPRI1タンパク質は雌しべの先端で花粉を受け取る部分である柱頭の細胞膜に局在して異種と自種の花粉を識別し、異種のみを排除するメカニズムに関わることを明らかにしました。SPRI1遺伝子を欠損した株では異種の花粉の侵入により正常な受精が阻害されることから、SPRI1タンパク質は異種の花粉が混在する野外環境下での種間のせめぎあいにおいて重要な役割を果たすと考えられます。種の壁を司るSPRI1タンパク質を人為的に制御することで種間交雑が容易になり、より広範な地球環境に適応する作物の開発が可能になると期待されます。

 

本研究成果は植物生物学分野で最も権威が高い学術雑誌の一つであるNature Plants誌に掲載されました。

 

図1.png

図1 a) 植物では一般的に異種の花粉が排除され、同種の花粉のみが受け入れられる。b) 本研究で用いたM. littoreaA. thalianaの花器官の外観。スケールバー:2 mm。c) 雌しべ中の花粉管を細胞壁染色試薬アニリンブルーで染色し共焦点レーザー顕微鏡で観察した。野生型(Col-0)の雌しべではM. littoreaの花粉管の侵入が見られない。一方spri1の変異体では多数の花粉管侵入が観察された。スケールバー:200 µm。d) SPRI1遺伝子の発現部位の観察。SPRI1プロモーターに蛍光タンパク質(Venus)遺伝子を連結しシロイヌナズナに導入したところ、花粉を受け取る部分である雌しべ先端の柱頭でのみ蛍光が観察された。スケールバー:200 µm

 

 

<発表論文>

Identification of a stigmatic gene functions in inter-species incompatibility in the Brassicaceae

Sota Fujii*, Takashi Tsuchimatsu, Yuka Kimura, Shota Ishida, Surachat Tangpranomkorn, Hiroko Shimosato-Asano, Megumi Iwano, Shoko Furukawa, Wakana Itoyama, Yuko Wada, Kentaro K. Shimizu, Seiji Takayama*

https://doi.org/10.1038/s41477-019-0444-6

 

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JSTプレスリリース