研究経過
ゲノム重複による新種誕生の長所と短所について、重金属蓄積に着目してMBE誌に報告しました(清水・瀬々グループ)
September 7, 2016 1:55 AM
Category:研究成果
main:瀬々班
被子植物種の約35%は倍数体種だと推定されており、ゲノム重複(倍数体化)による種分化(新種誕生)は、植物新種誕生の主要なメカニズムです。倍数体種分化の長所と短所は20世紀半ばの進化学の泰斗ステビンス以来様々に議論されてきましたが、これまで倍数体ゲノムの複雑性のために分子基盤はほとんど分かっていませんでした。我々は、これまでにシロイヌナズナ属の異質倍数体ミヤマハタザオA. kamchatica(図)をモデル異質倍数体として、倍数体RNA-seq解析用ソフトウェアHomeoRoqを開発し(Akama, Shimizu-Inatsugi, Shimizu, Sese. Nuc Acids Res 2014)、重金属応答や低温応答を調べてきました。
その結果、異質倍数体がもつ固定へテロのゲノム構成(4コピーのうち2コピーが片親由来)が、長所にも短所にもなっていることが見えてきました(図)。長所として、それぞれの親に特有のシス制御環境応答遺伝子ネットワークを組み合わせられることが挙げられます。ミヤマハタザオは、親の一つのセイヨウミヤマハタザオA. lyrataのRD29B, COR15Aなどの低温応答遺伝子の高発現に加えて、もう一つの親のハクサンハタザオA. halleri特有のHMA4, MTP1など重金属蓄積遺伝子の高発現を併せ持っていました。一方で、固定へテロであるために高発現といっても親に比べたら約半分でした。さらに、表現型としてミヤマハタザオの亜鉛蓄積を調べたところ、A. lyrataなど普通の植物に比べて格段に高濃度の亜鉛を蓄積していたものの、A. halleriと比べると約半分に落ちていました。
言い換えれば、特定環境に適したスペシャリストである2倍体親に対して、異質倍数体は広域・変動環境に強いジェネラリストであることが示唆されました。重金属蓄積能力は、昆虫食害を防ぐほか、土壌浄化(phytoremediation)に応用するための研究が進んでおり、広い環境条件で育ちやすいミヤマハタザオが活用できる可能性があります。
Paape T, Hatakeyama M, Shimizu-Inatsugi R, Cereghetti T, Onda Y, Kenta T, Sese J, Shimizu KK. Mol Biol Evol. 2016. [Epub ahead of print]
http://mbe.oxfordjournals.org/content/early/2016/08/31/molbev.msw141.full