研究経過
【プレスリリース】ゲノム倍数化が進化の可能性を高める(瀬々・清水グループ)
October 13, 2018 1:08 AM
Category:新聞発表・メディア報道, 研究成果
main:瀬々班
横浜市立大学 木原生物学研究所の清水健太郎客員教授のグループは、産業技術総合研究所の瀬々潤主任研究員ならびに筑波大学、金沢大学、チューリッヒ大学などとの共同研究で、複数の異なる染色体セット(ゲノム)を持つ異質倍数体種のゲノム変異を同定する新規解析技術の開発に成功しました。この技術を利用した解析により、ゲノム倍数化が進化の可能性を広げるという、故 大野乾博士らによる50年来の理論的な予測を支持する結果を得ました。
セイヨウアブラナやコムギなどの主要な作物は、似て非なる複数の種由来のゲノムが組み合わさって、遺伝子数が二倍以上に増えた倍数体種ですが、増加した遺伝子同士の配列が非常に類似しているため、それらを区別して個体間の変異を解析することが困難でした。
今回の技術開発では、モデル倍数体植物である四倍体のミヤマハタザオ(学名:Arabidopsis kamchatica)を用い、どちらの親由来の配列であるのかを特定し、個体間のゲノム変異を検出できるプログラムの開発に成功しました。
この技術を用いてミヤマハタザオの25集団のゲノムを解析し、生育に有利になるアミノ酸置換進化の割合を推定したところ、これまで報告されているほとんどの二倍体植物種を凌ぐことが分かりました。さらに、ミヤマハタザオとその親の二倍体ハクサンハタザオの共通した特徴であるカドミウムや亜鉛など重金属の蓄積と耐性にかかわるHMA4遺伝子座の解析では、倍数化によるゲノム重複によって2つに増えたHMA4遺伝子のそれぞれが大きく異なった自然選択の歴史をたどったことがわかりました。それぞれの親から受け継いだ2つの遺伝子(ホメオログ)が別々の自然選択を受けるということは、進化・育種の素材となる遺伝子数が倍数化によって増加するということを意味します。これらの結果は、倍数化が進化の可能性を広げるという、故大野乾博士らの理論的予測を支持するものとなりました。
さらに、この技術を作物に応用することで、育種のターゲットとなる有利な変異をゲノム情報から発見することが可能となり、より迅速で効率的な分子育種につながると期待されます。
本研究成果は、国際学術雑誌『Nature Communications』(日本時間 平成30年9月25日18:00付)にオンライン掲載されました。
また、「科学新聞(2018年10月5日付)」および「化学工業日報(2018年9月26日付)」にも掲載されました。
論文著者ならびにタイトル
Patterns of polymorphism and selection in the subgenomes of the allopolyploid Arabidopsis kamchatica,
Timothy Paape, Roman V. Briskine, Gwyneth Halstead-Nussloch, Heidi E. L. Lischer, Rie Shimizu-Inatsugi, Masaomi Hatakeyama, Kenta Tanaka, Tomoaki Nishiyama, Renat Sabirov, Jun Sese, Kentaro K. Shimizu.
Nature Communications. DOI: 10.1038/s41467-018-06108-1
プレスリリース詳細はこちら
https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2018/201809shimizu_nc.html