研究経過
【プレスリリース】花が散りゆく仕組みを遺伝子から解明 〜オートファジーにより、古い花びらの根本を狙い撃ちして除去していた〜 作物や花卉の落花時期の調節も可能に(伊藤班)
February 15, 2024 9:48 AM
Category:プレスリリース, 論文発表
main:伊藤班
当領域の計画研究班・伊藤寿朗教授(奈良先端科学技術大学院大学)および同所属の山口暢俊准教授、白川一助教、郷達明助教らは、中部大学、名古屋大学、理化学研究所との共同研究により、ノーベル生理学・医学賞でも注目された「オートファジー」という細胞内のタンパク質などを自ら分解する機能を使って、植物が古くなった花びらを除去していることを解明しました。この成果により、花が散る時期を人為的に調節できるようになれば、長持ちする花を作るなど、園芸や農業の分野での応用が期待できます。
動物では、オートファジーという自らの成分を分解する「自食作用」によって、日々細胞のメンテナンスをしています。細胞内にあるタンパク質や細胞小器官を新鮮に保つために、いつも一定の割合で古くなったものが識別されて、分解されます。これにより、動物細胞の健康は保たれているのです。このオートファジーが起こせなくなると、神経変性疾患やがんの発症リスクが高くなることがわかっています。
植物においても、このオートファジーは常に起こっており、細胞内の新陳代謝を行っています。特に、植物は一生を通して自身の体作りを行うので、古い器官を除去するなど細胞の健康を保つメンテナンスの役割は非常に大きくなるはずです。これまでにイネやトウモロコシなどの穀類、アサガオやペチュニアなどの花卉植物において、オートファジーを制御する遺伝子が非常に多く存在していることがわかっていましたが、その中でも花でオートファジーがどのような役割を果たしているのかということについてはわかっていませんでした。
山口准教授、伊藤教授らの共同研究グループは、モデル植物であるシロイヌナズナの花を使って実験を行い、老化を促進するジャスモン酸という植物ホルモンが古くなってきた花びらの根元に溜まってくることに気が付きました。このホルモンが花びらの根元に溜まると、オートファジーを制御する遺伝子が、花びらの根元で限定的に働き始めます。そうすると、花びらの根元の細胞にある物質を包み込むオートファゴソームという丸い袋ができ、自食作用の担い手となって不要なものを分解します。この作用により、古い花びらの根元の細胞の性質が変わり、その花びらが選択的に散っていくことがわかりました。花びらが散っていくという生命の神秘を支える普遍的な仕組みを知るだけでなく、その仕組みを有効に使って農業や園芸の分野で利用していくうえでも非常に重要なプレスリリース成果です。
本研究成果は 2024 年 2 月 6 日(火)付けで英国の科学雑誌「Nature Communications」に掲載されました。
◆詳細はこちらをご覧ください>奈良先端科学技術大学院大学のHPへ
【掲載論文】
タイトル: Petal abscission is promoted by jasmonic acid-induced autophagy at Arabidopsis petal bases.
著者: Yuki Furuta1, Haruka Yamamoto1, Takeshi Hirakawa1, Akira Uemura1, Margaret Anne Pelayo1,2, Hideaki Iimura1,3, Naoya Katagiri1, Noriko Takeda-Kamiya4, Kie Kumaishi5, Makoto Shirakawa1,6, Sumie Ishiguro7, Yasunori Ichihashi4, Takamasa Suzuki8, Tatsuaki Goh1, Kiminori Toyooka4, Toshiro Ito*1, and Nobutoshi Yamaguchi*1(*共責任著者)
所属: 1. 奈良先端科学技術大学院大学 2. トリニティ・カレッジ・ダブリン 3. かずさ DNA 研究所 4. 理化学研究所 環境資源科学研究センター 5. 理化学研究所 バイオリソース研究センター 6. さきがけ 7. 名古屋大学 8. 中部大学
掲載誌: Nature Communications