研究経過
異質倍数化後のエピゲノムは数世代で急速に進化する(清水班)
October 29, 2026 9:10 AM
Category:論文発表
main:清水班
チューリッヒ大学の清水(稲継)理恵グループリーダー、株式会社ヒューマノーム研究所の瀬々潤代表取締役社長、横浜市立大学木原生物学研究所の清水健太郎客員教授(チューリッヒ大学 研究所長・教授兼任)らの研究グループは、異質倍数化時に急激にエピゲノムが変化し、その後の数世代でも進化することをNature Communications誌に報告しました。異質倍数化は、2つのゲノムが融合して新種を生み出す現象です。この際に起きるエピジェネティックな変化やそれに伴う遺伝子発現調整の変化が、より広い環境への適応と種分化の鍵であると考えられています。しかしこれまでの多くの研究は、生育に適した一定の実験室条件下で特定の世代に基づいた解析に焦点を当てていました。そのため、ストレス環境下での調査や世代を追った研究はほとんど行われていませんでした。研究グループは、親種、人工の合成倍数体、自然倍数体をストレス環境と最適環境で4世代にわたって育成しました。そして、これまでに開発してきた異質倍数体の重複遺伝子を高精度で識別可能なARPEGGIO法を用いて、DNAメチロームを解析しました。自然倍数体と親種では世代と環境の差によってメチル化状態に変化は見られませんでしたが、合成倍数体の全体のメチル化率やパターンが世代を重ねるにつれて自然倍数体に近づいていくことがわかりました。異なる環境で育てた合成倍数体では、異なる環境で世代を重ねることでエピゲノムが分岐していくことが示され、異質倍数体化の多様化に貢献する可能性が示されました。さらに、遺伝子発現にもメチル化と同様の傾向がより顕著に現れ、合成倍数体の発現パターンは倍数化の直後から自然倍数体に近づいていました。異質倍数体は野生植物のみならず有用植物にも多いため、本研究で確立したエピゲノム解析は今後有用植物の環境適応の研究にも適用できると期待されます。

図:異質倍数体Arabidopsis kamchaticaとその親種の花
<論文情報>タイトル:Convergence and divergence of DNA methylation and gene expression patterns in neopolyploid Arabidopsis kamchatica著者:Stefan Milosavljevic, Dario Copetti, Kenji Yip Tong, Aki Morishima, Jun Sese, Mark D. Robinson, Kentaro K. Shimizu, Rie Shimizu-Inatsugi掲載雑誌:Nature CommunicationsDOI:10.1038/s41467-026-75042-4
【プレスリリース】花が蜜を作る器官「蜜腺」を育てる仕組みを解明 ~DNAが輪をつくり、成長を促す~(伊藤班・川勝班)
October 27, 2026 2:24 PM
Category:プレスリリース, 論文発表
main:伊藤班, 川勝班
奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域の伊藤寿朗教授らの研究グループは、シロイヌナズナを用いて、DNAが輪をつくることで、蜜腺の成長に必要な遺伝子の働きが高まる仕組みを明らかにしました。遺伝情報を担うひも状のDNAには、遺伝子の働きを高める調節領域があります。CRCとMYBというタンパク質が、離れていた遺伝子と調節領域を近づけ、間のDNAが輪のような形になります。これにより、蜜腺の成長を支える遺伝子の働きが高まります。さらに、CRCは、蜜の材料となる糖の輸送や、香り成分の一種であるテルペンの合成に関わる遺伝子の働きも調節していました。本成果から、CRCが蜜腺の成長を促すとともに、蜜の分泌や香り成分の合成に関わる遺伝子の働きを調節し、器官の成長と機能の両方を支えることが見えてきました。
本研究成果は、英国の国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

【掲載論文】
タイトル:A CRC-MYB chromatin loop controls auxin-mediated nectary growth in Arabidopsis
著者:Hideaki Iimura, Makoto Takahashi, Ryosuke Ohta, Asumi Nagamori, Seika Togawa, Yuki Furuta,
Koki Nakamura, Febri Yuda Kurniawan, Xuejing Wang, Kie Kumaishi, Samantha Klasfeld, Taiji Kawakatsu,
Yasunori Ichihashi, Takamasa Suzuki, Doris Wagner, Toshiro Ito, Nobutoshi Yamaguchi
掲載誌:Nature Communications
DOI:10.1038/s41467-026-78943-6
詳細はこちらをご確認ください。
■ 奈良先端科学技術大学院大学HP(https://www.naist.jp/pressrelease/2026/10/011993.html)
■ プレスリリースPDF(https://www.naist.jp/pressrelease/261027.pdf)
【プレスリリース】日本の3地域に残る神饌赤米のルーツを解明 ――神事とともに受け継がれてきたイネの遺伝的起源――(井澤班)
October 7, 2026 3:42 PM
Category:プレスリリース, 論文発表
main:井澤班
東京大学大学院農学生命科学研究科の三村真生助教、井澤毅教授と、國學院大學大学院文学研究科の相川七瀬特別研究生らによる研究グループは、日本の3地域で神事用として古来より受け継がれてきた神饌赤米の全ゲノムを解読し、その遺伝的特徴を明らかにしました。
本研究では、日本の岡山県総社市、長崎県対馬市、鹿児島県南種子町の神社に伝わる神饌赤米を対象に全ゲノム解析を行い、その遺伝的な特徴を調べました。その結果、地理的に離れた地域で維持されてきた神饌赤米はいずれも温帯ジャポニカに分類されることがわかりました。また、赤色果皮形質に関わるRc遺伝子周辺は、機能の有無にかかわらず、ゲノム配列の多様性が大きく減っていることが明らかになりました。
文化的・宗教的慣習によって保存されてきた赤米をゲノムの視点から捉えた本研究は、日本におけるイネの栽培・伝播の歴史の理解を深め、温帯ジャポニカの起源に迫るとともに、地域に残る在来イネの遺伝的多様性を将来にわたって保全・活用するための基盤となることが期待されます。
本研究成果は、「Plant and Cell Physiology」誌に2026年9月21日付で掲載されました。
◆詳細はこちらをご覧ください>東大HP (https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20260928-1.html)
<論文情報>
【論文タイトル】Unveiling The Origin of Sacred Red Rice Preserved in Japanese Shrines
【著者】Manaki Mimura*, Nanase Aikawa*, Tsuyoshi Mashiko and Takeshi Izawa (*は共同筆頭著者)
【doi】10.1093/pcp/pcag132

神饌赤米
(左から本庄、新庄、対馬、南種子赤米)
植物受精卵の発生は体細胞が融合するとどうなるか?〜"Zygote-soma hybrid cell"を構成する配偶子と体細胞の比率が細胞運命を左右することが明らかに〜(井澤班)
August 25, 2026 2:20 PM
Category:論文発表
main:井澤班
東京大学農学生命科学研究科の戸田絵梨香特任研究員と井澤毅教授、東京都立大学理学部の亀川拓夢学部生(研究当時)と理学研究科の岡本龍史教授らの研究グループは、イネ受精卵発生における体細胞融合の影響について明らかにしました。
本研究では、イネ花から単離した雌雄配偶子を融合して受精卵を作出するin vitro受精系を用いて、受精卵(卵細胞×精細胞)にさらに葉由来のプロトプラストを融合することで、受精卵-体細胞融合細胞(Zygote-soma hybrid cell)を作出し、それらの発生プロファイルを解析しました。その結果、Zygote-soma hybrid cellが、それらを構成する配偶子と体細胞の比率によって、異なる発生プロファイルを示すことを明らかにしました(図)。本研究成果により、植物受精卵の発生可塑性を支える細胞動態および分子機構の解明に向けた研究の進展が期待されます。
本研究成果は、「Plant and Cell Physiology」誌に2026年7月31日付で掲載されました。

図.イネ受精卵-体細胞融合細胞の作出(一例)およびその発生プロファイル
<発表論文>
雑誌:Plant and Cell Physiology
題名:Effects of somatic cell fusion on zygotic development in rice
著者:Erika Toda*, Takumu Kamekawa, Takeshi Izawa, Takashi Okamoto
DOI:10.1093/pcp/pcag110
Fuhrmann Aoyagi Martina Bianca博士研究員がNature PlantsのNews & Viewsを執筆(木下班)
August 20, 2026 3:14 PM
Category:論文発表
main:木下班
木下班のFuhrmann Aoyagi Martina Bianca博士研究員がNature Plants に掲載された論文に関して、同雑誌のNews&Viewsにおいて解説しました。シロイヌナズナのポリコーム複合体構成因子は中央細胞において受精が成立するまで胚乳発生を抑制しています。その協働因子が長らく不明でしたが、TIE1という転写抑制因子が見つかり、しかもその遺伝子がポリコーム複合体構成因子のMEDEA同様にゲノム刷り込みを受けていることを解説記事では紹介しています。
◆解説記事の日本語での紹介はこちらをご覧ください>横浜市立大学のHPへ
News & Views
Martina Bianca Fuhrmann-Aoyagi & Tetsu Kinoshita
TIEing down the central cell proliferation
Nature Plants 12(8):1426-1427
DOI:10.1038/s41477-026-02351-3