文部科学省科学研究費補助金「新学術領域研究」
2014年11月25日(火)~27日(木)にパシフィコ横浜で開催される第37回日本分子生物学会年会において、ワークショップ「動植物における生殖戦略とその分子基盤(2W14)」を開催します (http://www.aeplan.co.jp/mbsj2014/japanese/program/program_workshop.html#i02)。11月26日(水) 13:15-15:45
「動植物における生殖戦略とその分子基盤(2W14)」
場所:会議センター・4階, 第14会場
オーガナイザー:北野潤(国立遺伝学研究所), 渡辺正夫(東北大学)
オーガナイザーで予定している講演者は
・高山誠司(奈良先端大):植物の自家不和合性機構の多様性と進化
・北野潤(遺伝研):性染色体進化がトゲウオ適応放散に果たす役割
・東山哲也(名古屋大):植物受精において繰り広げられるオスとメスのせめぎ合いと分子的実体
それ以外の発表者は一般からの公募を予定しております。このワークショップにfitしたものがあれば、積極的に応募頂ければ、幸いです。また、学会に参加される方は、ワークショップにjoinして頂ければと思います。では、11月26日午後に横浜でお待ちしております。
北野(遺伝研)・渡辺(東北大)
現生鳥類のほとんどの種では、W染色体は大きく退化してヘテロクロマチン化し、ユークロマチン領域はほとんど残されていません。一方、古口蓋上目に分類されるダチョウ目では、Z-W染色体間の分化はほとんどなく、性染色体分化の初期段階にあることがわかっていますが、その構造的な違いを分子レベルで解析した研究報告はありません。本研究では、ヒクイドリのZ-W染色体間で分化が生じているkW1配列領域をゲノムウォーキングによってZ染色体とW染色体からそれぞれ単離し、その構造を調べました。その結果、W染色体上には約200塩基の欠失があり、その周辺領域には143塩基からなる反復配列が増幅していました。そして、kW1配列はW染色体の動原体近傍に位置し、配列の重複が見られました。kW1配列は鳥類だけでなくワニ類にも存在しますが、カメ類、ヘビ類には見られませんでした。鳥類では、キジ目とカモ目にはなく、フクロウ目やタカ目には存在していました。これらの結果は、kW1配列は主竜類の共通祖先においてすでに存在し、鳥類ではキジカモ類で消失し新鳥類には残されていることを示しています。W染色体におけるkW1配列の増幅は他のダチョウ目鳥類(ダチョウ、エミュ)でも見られ、さらにW染色体上のこの領域周辺ではDMRT1遺伝子が欠損していることから、小さな染色体欠失が生じていることが明らかになりました。本研究の成果は、脊椎動物における性染色体の分化機構を分子レベルで解明する上で、重要な基礎情報を提供するものです。
私たちは先行研究において、タカ科のクマタカでは、マクロ染色体の動原体解離とマイクロ染色体の融合によってマクロ染色体が中小型化し、微小な4対のマイクロ染色体を除いてゲノム構造の区画化が消失していることを明らかにしました。本研究で解析したミサゴ科のミサゴ (Pandion haliaetus) (2n=74)では、さらに大規模なマクロ染色体の動原体解離とマイクロ染色体の融合によって、マクロ染色体の中小型化と微小なマイクロ染色体の消失が見られました。また、ミサゴでは両腕型の中型染色体が多く、それらは解離したマクロ染色体の動原体融合によって形成され、クマタカを含む他のタカ科鳥類とは異なる染色体構造変化が生じたことを明らかにしました。さらに、すべての染色体間で均質化した2種類の動原体反復配列(173-bp PHA-HaeIII, 742-bp PHA-NsiI)が単離され、ミサゴにおいても、大規模な染色体の構造変化によって、染色体サイズ依存的なゲノム構造の区画化が消失している可能性が示されました。これらの結果は、クマタカの例とともに、染色体サイズとゲノム構造の相関とその進化過程を知るための良い進化研究モデルであることを示しています。
鳥類の複雑な羽装は、ユーメラニンとフェオメラニンの産生に関わる数多くの遺伝子群の相互作用によって形成されており、そして、鳥類には哺乳類の毛色の変異を上回る数多くの羽装の突然変異体が存在します。しかし、それらの原因遺伝子はまだわずかしか同定されていません。私たちは、ポジショナル候補遺伝子アプローチによって、古くからよく知られているニワトリの碁石羽装(mo)とミノヒキ鶏に新たに見出された白色羽装(mow)の原因遺伝子が、エンドセリンをリガンドとするエンドセリン受容体B2遺伝子(ENDRB2)であり、異なる塩基の非同義置換(mo:Arg332His, mow:Cys244Phe)によって異なる表現型が生じること、そしてmowはニホンウズラに見られるパンダ羽装(s)と同一の塩基配列の変異であることを明らかにしました。マウスでは、ENDRB遺伝子の変異体は巨大結腸症を引き起こすことが知られていますが、鳥類の変異体ではこの形質は見られません。鳥類ではENDRB遺伝子に重複が起こったことによって、ENDRB2遺伝子はメラノサイトの発生・分化と移動を制御する機能に特化したと考えられ、新たなエンドセリン(END)-ENDRBの遺伝子相関が生み出されたと考えられます。