東北大学大学院生命科学研究科 植物分子育種分野 渡辺研究室

14.最終報告~私と作物の成長記録~(農:佐々木美園)

2021年1月17日 (日)

こんにちは、農学部の佐々木美園です。とうとう最終報告がやってきました!そして昨日1月16日、栽培している白菜が栽培開始から見事100日目になりました!もう三ヶ月以上一緒にいるんですね。思えばいろいろありました、、。その感想を噛みしめて早速、最終報告に入っていきたいと思います。


~目次~

1.栽培で大変だったこと、逆にうまくいったこと

2.他の科目への波及効果

3.毎日の観察で身についたこと、感じたこと

4.文章を書く点での変化

5.客観的・自然科学的なものの見方の変化

6.コメントにどの程度followできたか、意味があったか

7.中間発表での目標について

8.この展開ゼミで学んだことと今後の展望


1. 栽培で大変だったこと、逆にうまくいったこと

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 これまでの栽培を通して最も大変だったことは、植物の芽出しです。これはどちらかというと大変、と言うよりは難しい、と言う言葉の方が合うようにも思われます。3回目4回目などの記事で触れていますが、私が育てていたホウレンソウは赤丸で囲んだ種子のように1mmほど芽が出ると生育が止まってしまったため、ついには研究室から1本分けていただくと言う形でなんとか栽培を続けることができました。今までの人生で植物を育てたことは何度かありましたが、全く芽が出ないと言うのは今回が初でした。同じくホウレンソウを育てていらっしゃる北川さんの栽培方法と比較してやり直してみたりもしましたが、状況は改善されず、結局原因も分からずじまいです。そもそも実家の露地栽培されているホウレンソウのように、適当に種子を蒔いておけば芽が出るという安易な考えが悪かったのかも知れません。

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写真のように日当たり、土の量や質、品種など何もかもが異なっているならば、前提とする考えが成り立っていないことなど素人の私にも分かります。ですが、それを無視して楽観的に栽培を続けてしまったのがこのホウレンソウ栽培の敗因でしょう。実家の畑と私が育てる鉢では全く条件が異なっていることや、栽培における知識量をもっと考慮すべきであったと今更ながら後悔しています。幸いホウレンソウの種子はまだ残っているため今後機会があればリベンジしてみたいと思っています。

 次に、これまでの栽培でうまくいったことについてですが、気温の管理についてはうまくいったなと思っています。今年は例年とは桁外れの寒さだったこともありますが、私の場合、ホウレンソウとイトウミックスの栽培がかなり遅れてしまったので、生長促進のために温度管理はかなり気を遣ってきました。結果、イトウミックスは10月下旬からの遅めの栽培開始でも主格までこぎ着けることが出来ました。また、ホウレンソウと白菜は一時は寒波の影響をうけて、ヒョロヒョロヘナヘナになってしまいましたが、実家のビニールハウス、仙台で作った簡易ビニールハウスのおかげで無事持ち直すことが出来ました。今も元気に成育中です。若干実家のビニールハウス様々という感じもしますが、使える環境を最大限利用した、と言う点では良い判断だったと思います。さらに、この栽培を通して植物の生長と温度との関係をかなり明確に実感することが出来ました。栽培当初は温度が上がるだけでここまで生長に差が出るとは思わず、今回の栽培で、植物の生長に関わる限定要因を観察できたことはうれしい誤算でした。


2. 他の科目への波及効果

 この展開ゼミの他科目への波及効果、といったらやはり自然科学総合実験において、科学実験系レポートを書く能力が飛躍的に向上したと言う点でしょう。この自然科学総合実験という授業、今年度はコロナウイルスの影響で実際に実験を行うことが出来ず、与えられた実験データを元にレポートを書くというものでした。前年とは異なり実験数が減ったため、週1でレポートを書くという忙しさは無くなったものの、いきなりデータを渡されていきなりレポートにしろなんて言われるものですから、始まった当初は何をどう書けばいいか全く分からず毎週あたふたしながらレポートを作成していました。ですが、この展開ゼミの回数を重ねていく内に実験内容、もしくは現れた変化を言語化し、どうすれば相手に誤解無く伝えられるか、そのために必要な情報は何なのかが、しっかり読み解けるようになってきました。文章で現象を表せるようになったことはレポート作成において大いに役立ってくれました。

 また、生命科学で学んだ内容を実際に目にすることで、理解を深めることができたというのも波及効果の一つです。私は農学部所属なので、生命科学で扱う内容も必然的に農学よりになります。そんな中、この展開ゼミで扱う作物たちは育種学や作物学の賜、まさに農学の産物であり、実際に育てることで品種改良の片鱗などを目にすることが出来ました。座学だけではけして得られなかったこの経験は、理解を深めるだけで無く、モチベーションの維持にも繋がってくれました。


3. 毎日の観察で身についたこと、感じたこと

 毎日の観察を続けていたとき、私がぶつかった壁があります。それは毎日観察を続けていると観察がルーティン化してくるため、写真を撮って温度を記録したら終了!となってしまうことです。最初の内こそ、芽や葉が出たりと変化が出るたびにめざとく見つけていましたが、ある程度作物が大きくなり、気温が下がってくると大きな変化が見られなくなり注意深く観察する機会がどんどん減っていきました。その結果、小さな変化に気づきにくくなり、自分からブログに書く内容を無くしてしまうという最悪な状況に陥ってしまったことがありました。

 この状況に陥ったときに初めて気づいたのが「慣れ」の恐ろしさです。毎日の観察を行っていく上で、この「慣れ」を払拭しない限り実のある栽培記録は書けないと気づいてから、ようやく毎日、注意深く、細部に至るまで観察するようになりました。記録することだけが観察では無く、記録をつけ変化を見つけること、またそれを分析したり疑問を考察して初めて観察と呼べるんだと理解した瞬間です。この「慣れ」、生得的なものであるため完璧になくすことは出来ませんが、観察を通してアイディアを潰しうる恐るべきものだと気づけたことは、毎日の観察で身を持って得ることが出来た知見かもしれません。


4. 文章を書く点での変化

 まず、私の中で一番大きく変化した思っているのは、読み手を意識して文章を書くようになったという点です。今までの文章を書いてきた際は、自分の考えを言語化するのに手一杯で、読み手が読みやすいように文章を構築する、と言う考えは微塵も湧いてきませんでした。しかし、何度か投稿を続けていく内に自分の頭の中を言語化するのにも慣れてきて、その結果、表現方法を工夫する余裕が生まれてきました。文と文の関係性を意識したり、誤解を招くような言い方はしていないか、また、そのように考察する根拠は適切かなど、自分の書いた文章を客観的に推敲できるようになったのはこの展開ゼミによるものが大きいと感じています。また、いくら写真を載せられるとはいえ、その写真をどう見たか、どこに注目したかは自分の言葉で説明しなければならなかったため、言語化のスキルアップにも繋がりました。

 さらに、回数を重ねていくのに従って、長い文章を書くことにそれほど抵抗がなくなってきました。私は昔から文章で自分の考えを伝えるのが大嫌いで、今までは原稿用紙2枚を超えようものなら作業のように原稿用紙のマスを埋めていました。この展開ゼミも始めの方は文章を書くのが辛くて仕方が無かったのですが、やはりこちらも回数を重ねるにつれ、文章で表現することがそれほど苦では無くなってきました。また、見切り発車では無く、始めから終わりまでの流れをある程度決めてから文章を書き始める癖も付きました。人間ここまで変わるものかと我がことながら感心しています。最初と最後で言いたいことが食い違っているという現象も激減しました。今なら前期のレポート地獄もそつなくこなせそうな気がします。


5. 客観的・自然科学的なものの見方の変化

 まず、この展開ゼミで習得できたと思うことは、浮かんできた疑問に対して、情報を吟味した後に、自分なりの考察を立てるようになったことです。今の世の中、インターネットで検索すれば大体答えっぽいものが得られてしまうため、今までは気になったことは調べてただけで終わってしまい、そこからさらに疑問や論を発展させると言うことがほとんどありませんでした。ですが、この展開ゼミでは作物の状態を知っているのは自分だけ、さらにネットで調べようにも莫大な量の情報が羅列されているだけで、どれが正しくて、自分の状況に合致している情報なのかがぱっと見で分からない、という状況になりました。しかし、自分しか分からないと言う状況は同時に、自分なりに考えられるようになったとも言い換えられます。例えば、白菜に白斑が見られた際は、無数にある原因の内、考えられる原因のみを抽出し、それに対する自分なりの対策を講じました。今までの私であれば調べて終わっていそうですが、ここでは調べた後に自分なりの結論まで結びつけています。この行動の変化が、個人的には結構大きな進歩だと感じていて、今後、本格的に大学で学んでいく上で意識して行っていこうと思っています。

 逆に他の受講生の方と比較してもっと研鑽を積むべきと感じたことは、記事の内容にあまり客観性を持たせられなかったことです。工学部の木村さんは、実際に白菜の葉の長さを計測しグラフにすることで、客観的なデータを提示していました。しかし、今まで私の記事に載せてきた作物の写真では、定規こそ一緒に撮っているものの、具体的な数値やその変化までは記録していません。その結果、福島と仙台とで成長速度の差が大きく出ていたにもかかわらず、それをどの程度の差なのか明確に比較することができず、かなり主観的でぼんやりとした比較になってしまったことがあります。もっと詳細に記録し、データを取ることで誰が見ても同じ結論にたどりつけるようにする工夫が足りていなかったなと後悔した瞬間でした。


6. コメントにどの程度followできたか、意味があったか

 まず、コメントへのfollowについてですが、いただいたコメントを参考にして栽培方法を変えたり、不足した情報を補ったりと要所要所でのコメントへのfollowは出来ていたように感じます。ですが、明確な返信をしていたかというと微妙です。コメントを受けてどこをどう変えたのかを明記することは少なかったため、記事を見るだけではコメントの内容を受けたのかどうかが分かりにくくなってしまったのは失敗ですし、この講義最大の特徴である双方向型をうまく活かしきれなかったのは反省点かなと感じています。

 次にコメントの意味についてですが、コメントをいただくことで自分の記事に不足している情報や間違った栽培法に気づけるのは大変参考になりました。特に、カイワレ大根の実験を行った記事へのコメントでは、実験内容をより明確にするためにどこを詳細に記述すればいいかをご指摘くださり、より実験の根拠を強めることが出来ました。自分では気づけない点を、コメントを受けて自分なりに修正し、その成果を提示していくと言う過程はこの双方向講義だからこそ経験でき、また自分を成長させることが出来た要因だと思っています。また、コメント内に挟まれるちょっとした余談も、自分では触れることの無いような分野がのぞき見られてちょっとした楽しみになっていました。コメント内でカメラの性能の話になったときは率直にびっくりしました、、。なんにせよ自分とは全く関わりの無かった分野に触れるとっかかりがいくつも出てきて、知的好奇心がこれでもかとくすぐられとても面白かったです。ありがとうございました。


7. 中間発表での目標について

 中間報告での目標は大きくまとめると「収穫」、「詳細で分かりやすい記事の更新」、「自らの農との関わり方を考えていくこと」の3つでした。まず一つ目の「収穫」についてですが半分達成、半分未達成という感じですね。イトウミックスとカイワレ大根は収穫することが出来ましたが、白菜とホウレンソウは未だ栽培中という現状です。しかし、今の状態から推測するとどちらも収穫は出来そうなので、後はどこまで大きく出来るかが要です。幸い、渡辺先生から「収穫は最終報告後」でも良いとおっしゃっていただいたので、気長に育てて、最大限大きくしてから収穫したいと思います。今後に期待ですね。

 次に「詳細で分かりやすい記事の更新」についてです。これは(5)で触れたことと若干被ってしまうかも知れません。中間報告時では更新ペースと計測データについて言及していましたが、結局完遂できたのは週1更新だけでした。継続的にデータを取らなかったため、ビニールハウスを利用した際に見ることができた、温度と生長の関係性を観測できるチャンスを盛大に棒に振ったのは、やはり悔しいです、、。このことについてははっきり言って未練しかありませんが、身を持ってデータの重要性を知った、と言うことで折り合いをつけたいと思います。

 最後に3つめ、「自らの農との関わり方を考えていくこと」についてですが明確に目標達成できたか、というと答えるのは難しいです。ですが、展開ゼミ開始時に比べて明らかに農作物や農業の捉え方が変わってきたのは事実です。開始当初はたった1つの野菜を鉢で育てるだけでここまで苦労するとは思ってもいませんでしたし、当たり前のように身近で行われていた農業が長年の技術の塊であったことに気づく由もありませんでした。今回の栽培を通して、身をもって1次産業の苦労やその分の面白さを知りましたし、農学がいかに作物生産を支えてきたのかを知ることが出来ました。今後、農や農学とは長い付き合いになっていくと思いますが、これからもこの経験を活かして自分なりの農との関わりを模索していきたいと思います。なんだか人生の目標のようになってしまいましたが、農業が楽しいもの(もちろんそれだけではありませんが)と思えた時点でこの目標は概ね達成されている気がします


8. この展開ゼミで学んだことと今後の展望

 この展開ゼミで学んだことは多々あります。それは私の技術的な進歩だったり、思考方法の変化だったり様々です。それらの技能的な能力は今後、大学という主体的な学びを重要視する場で学ぶ基礎となってくれると思っています。受動的学習から能動的学習に変化させる、と言う点でこの展開ゼミは大きな役割を果たしてくれました。また、最も大きい影響はこれから私が専門としていく「農」について実際の経験を通して向き合わせてくれたことです。今まで身近にありながら面と向かっては関わってこなかった農業に、この展開ゼミでは実際に作物を育てることを通して私と農とをリンクしてくれました。蚊帳の外だった農業が、わずかながらも自分の生活に組み込まれ、自分なりの考えを持つようになったのはこれから農学を学んでいく立場として得がたい経験でした。

 最後に、未だに収穫していない作物ですが、(7)にも書いたようにできるだけ大きくしてから収穫しようと思っています。タイムリミットとしては2月下旬か3月上旬位でしょうか?春休みにも入るため、また実家のビニールハウス作戦も使えるかも知れません。また、最後にはきちんと収穫、実食するところまではレポートしたいのでしばらく記事の更新も続くと思います。


 更新は続けるものの、やはり今回が最終報告と言うことで一区切り付いたという感じです。約3ヶ月半の間、研究室のメンバーの方や、家族など様々な方にお世話になり、見守っていただきました。この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします!(6,396字)

コメント

農学部・佐々木さん

 育種の渡辺です。100日目のハクサイ、少しずつですが、結球してきていますね。3月も終わりに近くなると、葉っぱが花芽に変わり、いわゆる「抽苔」も始まり、ハクサイとしての品質も下がるので、栽培をどこでstopするかは、これからの気温、生長具合を見ながらということでしょうか。また、今年度の受講生の中で、一番安定的に記事を書いていたと思います。そんなことが積み重なったのだなと思える最終報告でした。タイトルにあるように、作物同様によき成長ができたのは、開講した側としては、望外の喜びですね。前置きが長くなりましたが、文章力が身についたというのは、一連の報告と自然科学総合実験で活かされたのは、よいことかと思います。コロナ禍で例年とは違う講義形式。その中で、どうやれば、reader-friendlyな文章になるのか、それを身につけたことは、次年度からの講義にもいかして下さい。文章の書き出しと最後のまとめに一貫性を持たせることができるようになったこともよいことです。また、この講義が農学を実際のものとして理解できたというのは、農学を学んだものとしてはうれしいコメントですね。来年度以降、専門を学ぶことも深くなるかと思います。そうしたとき、そう言えばと、思い出して下さい。

20210117214208-57d3d33b87e75f0b7c5e7c144f1be3b3f016e97c.JPG 初期生育のように変化が大きい、もちろん、秋冬作物なので、気温が下がると生長が分かりにくくなるもの。気がついたら、何かの変化が起きているわけですが。でも、書かれているように、観察する角度を多角的に持つことはとても大事なことです。遺伝子というか、ゲノムというか、その情報を解析することは、どんどんコストは下がっているわけです。でも、どの観点から観察すると、植物の変化を見出せるかというのは、まさに実験をする側の大事なこと。その意味で、自分でideaを出すことの大事さと楽しさを身につけることができたのはniceです。

 ラボスタッフのオガタ君から毎回コメントしてもらいましたし、渡辺もできるだけ、その気象条件などを見ながら、全体にコメントしました。それもある程度の栽培の経験値からです。でも、冬休みに農家をされているおじいさんから栽培、ハウスなど学ぶことができたのは、経験と勘という意味では、コメントをしているわれわれよりも深いものがあったと思います。そうした身近にある模範というか、経験に気を配るようになると、また、身の回りの風景が変わって見えるのではないかと思います。もちろん、そうしたことに気がつく、気になるようになるためにも、これはという気になったことは「はかる(計る、測る、量る)」ということをしてみて下さい。

20210117214237-8752821e6f3a12afb316f83280e409b4565c4e20.JPG 途中でも書きましたが、これから深く学ぶであろう「農学」のおもしろさ、たいへんさの一端かもしれないですが、この講義がそうしたことへのきっかけになれば、うれしいですね。栽培を続けると言うこと、是非、また、記事にして下さい。植木鉢という状況での結球は大変かと思いますが、少しずつ気温も上がり、生長もよくなるので、ハクサイ、ホウレンソウを栽培してみて下さい。


 わたなべしるす