研究経過
植物の花づくり開始時期を人工的に操作する方法を発見 幹細胞の機能が自己複製から分化へと変わる原因を解明(伊藤班)
May 17, 2023 12:39 PM
Category:論文発表
main:伊藤班
奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域の伊藤 寿朗教授らの研究グループは、中部大学およびプラハ・カレル大学、九州大学との国際共同研究グループはにより、花をつくる幹細胞が自己複製の状態から細胞の分化に切り替える仕組みを数理的なシミュレーションで予測し、その時期を人為的に改変する操作に初めて成功しました。この成果により、植物の幹細胞のすごい能力を人為的に調節できるようになれば、種や果実の大きさや数を操作することで、食糧の安定な供給が期待できます。
伊藤教授らの国際共同研究グループは、モデル植物であるシロイヌナズナの花の幹細胞を使って実験を重ねた結果、細胞の核の中で DNA を巻き取って収納しているヒストンというタンパク質について、3 つのメチル基を付与(トリメチル化)されたアミノ酸が特定の位置に連結したヒストンの数と、分化を引き起こす遺伝子が誘導される時期との間に高い相関があることに気付きました。この相関に注目して、トリメチル化されたヒストンの数と分化遺伝子の誘導時期の関係を方程式により、数学的に明らかにしました。さらに、このタイプのヒストンの数を人為的に増やすと、方程式で計算される時期に分化遺伝子が誘導されることを突き止めました。植物の幹細胞が自己複製から分化へと切り替わるときの普遍的な仕組みを知るだけでなく、その仕組みを有効に使って農業や園芸の分野で利用していくうえでも非常に重要な成果です。
図2.H3K27me3をもつヒストンを増やした実証実験
(a) KNU遺伝子の発現のタイミング
(b) H3K27me3をもつヒストンを3つ増やした発現解析
(c) H3K27me3をもつヒストンを6つ増やした発現解析
この研究成果は、米国時間の 2023 年 5 月 5 日(金)付で、米国の科学雑誌「The Plant Cell」オンラインアドバンス版に掲載されました。(DOI:10.1093/plcell/koad123)
◆詳しくはこちらをご覧ください(奈良先端科学技術大学院大学ホームページ)
<発表論文>
タイトル:AGAMOUS regulates various target genes via cell cycle-coupled H3K27me3 dilution in
floral meristems and stamens
著者:Margaret Anne Pelayo1, Fumi Morishita1, Haruka Sawada1, Kasumi Matsushita1, Hideaki Iimura1,
Zemiao He2, Zemiao He1,2, Liang Sheng Looi1, Naoya Katagiri1, Asumi Nagamori1, Takamasa Suzuki3,
Marek Širl4, Aleš Soukup4 Akiko Satake5, Toshiro Ito1, Nobutoshi Yamaguchi1
所属:1. 奈良先端科学技術大学院大学 2. シンガポール国立大学 3. 中部大学 応用生物学部 4. プラ
ハ・カレル大学 5. 九州大学 理学研究院
掲載誌:The Plant Cell
DOI: 10.1093/plcell/koad123