福島県立福島高等学校2年、安斎 公記(あんざい・まさき)です。前回の投稿から3か月余りが経ち、気がつけば全く更新しないままになってしまいました。大変長らくお待たせしてしまい申し訳ございません。
今回は第2回「探求型『科学者の卵養成講座』」を聴講させて頂いたご報告の後篇の予定でしたが、長くなってしまうこと、このままだと更新しないまま終わることが懸念されることなどの理由から、まずは今までに少しずつ進めていたものを投稿したいと思います(この決定に至った詳しい理由は後ほど別の記事で書かせていただきます)。第3回から第6回についても、後ほど順次更新する予定です。
4.講演③「AI/IoT時代の学校教育のあり方」(堀田 龍也 東北大学大学院情報科学研究科教授)
前の二つの講義は技術者の方々から見た情報技術の発達についてのものでしたが(前篇を参照)、この講義では教育の観点から見た情報技術の発達についてお話を頂きました。
先生はまず、自らが開発した、タイピング学習のためのパソコン向けゲーム「キーボー島アドベンチャー」を例に挙げ、プログラムを「名人芸の一般化」と位置付けました。産物一つを取り出すのではなく、人のノウハウをチューニングして実用化することです。先生も、「キーボー島アドベンチャー」を開発する際、先進指導を行なっていた2名の教員をヒアリングしたそうです。
日本は、OECD(経済協力開発機構)の中で1週間のうちにコンピュータを使う人の割合が最も低いそうです。学力が低い、というわけではないのですが。実は、日本の現行法で認められる教科書は紙だけで、ようやくデジタル教科書も認められるようになったそうです。日本を覆う「変化を望まない」雰囲気がここに影響しているのか、と感じました(果たしてその変化が私たちにとって利益となるか損失となるかは、まだ不透明であるのも事実ですが)。
しかし、デジタル教科書のようなオンライン学習は(副読本の位置づけにありながらも)既に日本各地で始まっています。長野県喬木村立喬木第二小学校は僻地にあり、生徒数も少ないのですが、同じ村の喬木第一小学校とオンラインで統合しながら、学校生活を展開しているそうです。2020年からは小中学校でもプログラミングの学習が始まり、私たちの生きる社会を取り巻く「自動化」について、机上での討論から体験に移し、「プログラミング的思考(computational thinking)」を育むことを課題としています。2022年からは高校でも「情報Ⅰ・Ⅱ」という科目が追加され、3か月にわたりプログラミングの授業を行うそうです。
幼心で受ける教育にまで情報化の波が押し寄せる近未来、社会を作る世代はもう、「人の仕事」「手作業」を知らない世代になってしまうかもしれません。自動化についての教育を先進的に行う一方で、かつては「人の仕事」があったのだということを忘れさせてはならない、忘れてはならないなと感じます。
5.講演④「東北メディカル・メガバンク計画の目標と進捗状況 世界最先端のバイオバンクの構築を目指して」(山本 雅之 東北大学東北メディカル・メガバンク機構長)
続いて、医療の観点から見た情報技術の発達についてのお話です。世界最大のゲノムバンクである東北メディカル・メガバンクの山本機構長においで頂き、その特徴や背景についてお話頂きました。
一人ひとりの将来罹る病気を予期し、予防、治療を行う。SF映画のようなことですが、これが現実となりつつあるのです。先生は遺伝因子からそれを行う「未来型医療」を進めており、健常な人々からデータを収集し、数十年の追跡調査の後、それらを匿名化、体系化し、分配するバイオバンクを構築しました。東北メディカル・メガバンクでは、血液や尿、ゲノムDNA、RNAを解析する複合バイオバンク、ゲノム・オミックスシステムを有しており、基本情報、生化学検査結果、ゲノム情報などのデータが同時に置いてあるため、一つ屋根の下で層別化医療が可能になります。ゲノム情報は解析センターにあって病院には無いことが多く、使いづらいという現状が打破できるのです。さらにそれを三世代コホートとして家族体系化します。これはアメリカ、イギリスが途中で断念したものであり、日本で、この東北メディカル・メガバンクが世界初の三世代コホートの作成に成功したのです。
既成の方法に人間が合わせるイメージが強かった医療も、各々の特徴に合わせて行うことができるようになった今。より精度が高く、病に苦しむ可能性を低められることは嬉しく思い、歓迎できるのですが、それにより自分でも全てを把握していない自分だけの情報が丸裸にされてしまう可能性があることは心配です。SNSが普及して久しいにもかかわらず、ネットリテラシーが完全には守られていないように、遺伝子レベルでの医療が普及して何年経ってもゲノムリテラシーが守られない状況が訪れないよう、管理を丁寧に、技術の進歩と環境の整備が両輪きちんと揃って発展する必要があると考えます。
6.講演⑤「つながることの影と光」(土井 美和子 国立研究開発法人情報通信研究機構幹事)
4人の講師の方々によるご講演のあと、土井先生、そして日本学術会議会長である山極壽一京都大学総長を加え、総合討論が行われました。
総合討論に先立って、パネリストを代表して、土井美和子先生からご講演頂きました。悪質なハッカーはパスワードの穴があるところを攻撃するという容易な手法で手口を実行すること、日本人の仕事の半分がAIに置き換わって消滅してしまうこと、エージェント(代理人)で面接を行なうようになる、すなわち、AIによって入社面接の当落が決まってしまうことなど、私たちが機械に人生までもが振り回される側面を情報化社会は持っているのです。
「しかし、明るい側面もある」と、話題は転換、情報化社会が持つ前述の側面を裏返した「光」の部分についてのお話に。「人の業務全てをコンピュータが代わることができる」ことはなく、2030年には新しい職業が生まれ、古い職業も変化するそうです。例えば、ドローン保険。ドローンにかける保険で、30分だけでも掛けられるという今まででは考えられない短時間にも対応する保険です。その場その場で対話的に情報を収集し、保険料を算出するのだそうです。このような「新しい職業」には、利害関係者間のコミュニケーションが不可欠です。人の温かみを感じ取れるようなコミュニケーションが主流だった時代から1世紀も経たないのに、コミュニケーションをしなければ、と気に掛けなければならなくなってしまったことには驚きですが、排気熱やバッテリーが持った熱を感じながらのコミュニケーションが主流の時代で育ったような、所謂「インターネット・ネイティヴ」「スマホ・ネイティヴ」の私たちにも、その無機的な熱に留まらない人の熱を感じられる人対人のコミュニケーションが要求されるのかもしれません。
今回は急遽予定を変更し、後篇ではなく中篇という位置付けで投稿いたしました。重ね重ねになりますが、長い間更新が途絶えてしまい申し訳ございませんでした。
それでは、後篇でまたお目に掛かりましょう!
安斎 公記
投稿者:福島県立福島高等学校