東北大学大学院生命科学研究科 植物分子育種分野 渡辺研究室

最終報告~トライ&エラー~(農:高橋悠太)

2023年1月27日 (金)

こんにちは。高橋悠太です。

最終報告という機会を通してこれまでを振り返ると、学びの多さを改めて実感しました。やはり何事も見直すということをしないと中途半端に終わってしまうようです。今回は5000字ということで内心不安でしたが、書き始めると意外となんとかなりました。これまでの経験を文章にしたので、最後までよろしくお願いします。

1)想像しているより大変だったこと、逆に意外とうまくいったこと

 栽培の際、想像よりも大変だったことの1つは、水管理である。水管理が難しい理由として、植物の種類によって与える水の量が異なるという点がある。水を与えすぎれば根腐りを起こしかねず、与えなければもちろんしおれて枯れてしまう。そんな中で、小松菜は比較的乾燥に強くそこまでしおれることはなかったが、ちょい辛ミックスはしおれてしまうことがあった。これはそれぞれの植物の原産地における気候が関係しており、進化の違いということもできるが、気を配るのが難しい点である。では、どうしたら最適な水分量を保つことができるのか。まず、その植物にあった水分量を調べておくことが大切であるが、水をやる頻度などは経験によるものも大きい。なぜなら、季節や気温によって葉からの蒸散量や土からの蒸発量が異なってくるからである。このさじ加減を身につけるためには、よく植物を観察し実際に土に触りながら確かめることが必要だと感じた。

 もう1つは均一に育てることである。この記事では何回も取り上げてきたが、栽培密度の調節が難しかった。また、日の当たり方の調節も意外と工夫がいると感じた。それらが異なると生長にかなりムラができてしまうので、意外にも注意を向けなければならない点であった。リンクはミックス種子についての記事である。

http://www.ige.tohoku.ac.jp/prg/watanabe/as-vegetable2022/2022/11/02000059.php

http://www.ige.tohoku.ac.jp/prg/watanabe/as-vegetable2022/2022/10/28152524.php

こちらの写真は一株だけ残して育てていた小松菜だが、ライバルがいなくなったからか最近かなりの勢いで横へと葉を伸ばしている。葉の枚数も倍近くになった。

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 これらと反対に想像よりうまくいったことは、肥料管理である。肥料については、これまでの記事で何度か取り扱ってきた。例えば、植物の必須元素についてや、なぜ肥料を与えすぎると良くないのかなどについて調べてきた。栄養管理は人間の食事と同じく重要なことであるため重要である。肥料管理が成功したと思われる要因の1つとして味がある。肥料を与えすぎると、生物濃縮のようなことが起こり味が苦くなってしまう。しかし今回味は甘かったため、肥料の量を適当にすることができた可能性が高い。

http://www.ige.tohoku.ac.jp/prg/watanabe/as-vegetable2022/2022/11/15223650.php

 また、途中の小松菜の間引きもうまくいったことの1つである。アドバイスを参考にできたという点が成功につながった。最終的に収穫までうまく育てられたのは、この間引きのタイミングと残した株を適切に判断することができたという点が大きいように感じる。植物栽培は思い切りの良さも必要であるようだ。

2)他科目への波及効果

 最も波及効果があった科目は、自然科学総合実験である。この科目は、生物、化学、物理等の実験を総合的に行う科目である。そのため、実験を観察し、考察する力が必要になってくるが、野菜栽培の講義で養うことができた観察力を生かすことで考察の幅も広げることができた。植物を観察する上で特に波及効果があったと考えられるのは、葉の観察である。ちょい辛ミックスは、4種類の種子が混合して入っているため、それぞれの種類を見分ける必要があった。その4種類は高菜系とからし菜系の大きく2つに分けられ、高菜系は葉が丸く、からし菜系は葉が細長いため、この2つのグループは容易に見分けることができる。しかし、高菜系のうち紫高菜と三池高菜を見分けること、からし菜系のうちサラダからし菜とちりめんからし菜を見分けることが難しかった。見分けるには、葉の形や色味、触感、さらには味を詳しく比較しなければならず、結果的に観察力が身についたのである。また、観察すればするほど葉が生える過程や発芽の過程などが不思議に思われて仕方がなくなった。このように、普通に生活していて疑問に持たないことを不思議だと認識できる力も養うことができたため、自然科学総合実験でも実験に加えてさらに参考文献を調べるクセがついたのだと思う。(以下はちょい辛ミックス4種の写真)

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3)毎日の観察から身についたこと、感じたこと

 毎日の観察をすることで身についたことの1つは変化を探す力である。変化は、植物を観察する上で最も重要な要素の1つである。これに注目しなければならない理由として挙げられることに、違和感を抱くことで今後どう世話をしていけばよいか指針を立てることができること、疑問を持つきっかけとすることができることがある。例えば、植物がしおれていたときにしおれているから水をあげようと思うだけでは、また次もしおれるだけである。経過を観察し変化を比較することで、このくらい水を与えなければしおれてしまうのだと経験的に知ることができ、次そのような状態になることを防ぐことができる。また、順調に生長しているか生長が滞っているのかなどを観察することで、どうすればよりうまく栽培できるのかを考察する種になる。つまり、原因を究明するために継続することが必要なのである。

 栽培自体とは関係がないが、毎日ということで自分自身の持久力も身についたように思う。最初は毎日植物に気を配ることは大変であった。ただ、習慣化することで意外にも慣れてくるもので、このやり方は他の勉強にも生かしていけるのではないかと感じた。

http://www.ige.tohoku.ac.jp/prg/watanabe/as-vegetable2022/2022/12/01221148.php

4)文章を書くという点について、受講前後の変化

 文章を書くということについて、これまでは課題に沿ってただ求められたことを記述するというだけであった。つまり、自分視点のみで伝えたいことを書いてしまっていた。今振り返ってみると、まるで読む相手がいないと勝手に仮定したような文章を書いてしまったときもあったかもしれない。しかし、この講義を通して、相手のことを強く考えるようになった。例えば、読む相手が何を知りたがっているのかを考えるようになった。これは勉強していて問題を解く時などにもいえるが、読む相手(設問者)が何を意図しているのか、どこを知りたいのかを考えているかいないかでは文章の差に雲泥の差が出ると思う。もちろん自分が伝えたいことを記述するのは重要である。しかし、それが的外れなことだったとしたら読み手の興味が失せてしまう。そのため、自分の伝えたいことを読み手の興味と照らし合わせた上で推敲、発展させて紹介していく必要があることを学んだ。

 また、個性を出すということも変化があった点である。文章の個性はプレゼンをする上で大きな魅力になると思う。人によって文章や観察の仕方に差があることで、読み手が面白いと感じるだけでなく、書き手同士も他人の文章と比較して真似たいと感じる部分や、強みにしていきたい部分が見えてくる。これまではみんなと答えを一致させるという機会が多かったせいか、このような視点は薄れてしまっていたように感じる。今回のブログという形式によって、この個性という点が強く意識された。

5)自分が習得できたと思う点、さらに研鑽を積むべき点

 今回の授業で習得できたことは、観察→疑問→調査という一連の流れを構築することができたということだ。この流れはこれからの大学生活においても重要なことではないだろうか。疑問を持つということは、2)等でも話した通りであるが、それだけでは不十分である。

 その疑問を元に調査をして解決するという過程がなければならない。今までは、たまに疑問を持つことはあっても、それをそのままにしてしまうということもあった。しかし今回の場合、記事にするという良い強制力が働いたことによって、必ず文献を調べるということができた。加えて、簡単にではあるが、最後に追加実験も考えて実行することができた。このように、調査の仕方や内容について自由に考え、実行するという点に関してはこの講義を通して成長できた部分である。

 ただ、未熟だった部分としては、それらの観察した事柄、データを客観的な事実として誰にでも分かりやすく示すことである。自分のブログの中身は写真と文章という基本的な構成を主としていたが、それにはまだ改善の余地がある。例えば、写真を入れる際にもその写真に書き込んだ状態で投稿する、グラフを多用するなどである。そのような工夫はもう少し頭を柔らかくして考えていかなければならなかったと思う。今後も人にデータを示すということは日常的に行っていくはずなので、そのようなときにはうまい人のことを積極的に真似して、さらには自分なりに発展していけるように意識していきたいと思う。

6)コメントに対するfollow、意義

 まず、アドバイスの中でイラストにしてみるということがあったが、実際にやってみてこれはもっともなことであると分かった。イラストにすることで得られる利点は多くあるが、その中でも最も意義があると感じたことは、自分の見落としていたことのフォローになるということだ。これを裏付ける証拠として、学習効果のピラミッドというものも存在する。これは、簡単に言うと見るだけより実践した方が学習効果が高いという話なのだが、例を用いると、単語を暗記する際に単語帳を眺めるだけより書き、発音することも取り入れた方が頭に入りやすいということが挙げられる。第12回で維管束がむき出しの状態にした小松菜の写真を投稿したことがあったが、それをイラストとして示したものが以下の通りである。描いてみた結果、真ん中の維管束が最も太いこと、茎はきれいな半円ではなく扁平をしており、かつ完全な対称でないことが分かった。

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 また、特に第13回などであるが、自分の考察に対して先生方もアドバイスとともに考察してくださるので、はっきりと疑問を解決することができた。例え自分の考察が間違っていたとしてもそれらのフィードバックから次の考察への足掛かりとすることもできる。このようなことができるのは、双方向の授業の大きな利点である。

 最後に、講義と直接的な関係はないが、コメントしていただくことで、単純にやる気に繋がった。他の講義は成果物に対する評価が後から来ることがほとんどであるが、この講義では1回ごとに評価していただけるので、諦めずに収穫まで育てることができた。


7)中間報告から達成できた点、できなかった点

 達成できたことの1つは植物科学的な考察である。過去のブログなどを見ると栽培日誌という形が多かったが、自分の場合は生理学的なことや化学的なことに興味があったのでこのような記事のスタイルになった。特に植物を観察した上で発見したことに対しよりミクロな視点からアプローチすることができたので、この点は目的を達成できたように思う。また、仮定をしてからの実験的栽培という点に関しても最後のちょい辛ミックスだけであるが達成することができた。他の植物に対しても条件を変えて栽培してみたり、同じ系統の多品種を栽培してその違いを観察したりなどできればより面白い記事なったかもしれない。(リンクは黄色い葉についての記事)

http://www.ige.tohoku.ac.jp/prg/watanabe/as-vegetable2022/2022/12/25234735.php

 それに対し、あまり達成できなかったのは、因果関係が分かる見せ方をするという点である。具体的にいうと、同じ箇所の経過を写真で並べてみることや、水分量や肥料の日ごとの調節を記事に載せることなどである。これができなかった理由として、正直自分の怠惰さが原因の1つである。常に細かく記録を取るという姿勢を、先に述べた通り習慣化できればより詳細なデータとその生長の因果関係を記事にすることができたかもしれない。そのため、この部分は反省点である。(リンクは因果関係をうまく表せていると思った記事)

http://www.ige.tohoku.ac.jp/prg/watanabe/as-vegetable2022/2022/12/23221449.php

8)これからの生活に生かせること、今後の管理について

 大学での日々の生活に生かすことができると感じたのは、話し合いなどで何かアイディアを出さなければならないときである。この講義で身につけた観察力は何も植物に限ったことではない。これから、その観察力を利用して日々の生活で目にする様々なものや事象を観察、調査することから知見を身につけることができるはずである。そのようにして蓄えた知識は意見を言う際の根拠として使うことができるし、逆に事象から発想につなげるということもできるだろう。つまり、物事を複数方向から見るという力を育むことに対し、この講義は効力を発揮するのだと感じた。

 また、偏見を持たないようにするという意識も再確認させられた。例えば、野菜を育てたことのない人から見れば、水や肥料はあげるほど良いのではないかと思う人もいるだろう。実際自分も調べなければ、過剰な肥料を与え、苦い小松菜を作ってしまうところだった。このことから、自分が考えていることは間違っているかもしれないので、一度立ち止まって調べたり聞いたりする段階を踏んでから行動することが重要だと改めて認識した。

 最後に、失敗から学ぶ力である。今回に関しては、先生方からの適切なアドバイスもあり、大きな失敗はしなかった。しかし、1)で書いた通り、小さな失敗は何度かしてきた。例えそのような小さな失敗でも、次はどうしたら改善するのか反省し、思考することが重要であり、今後大学生活でするであろう多くの失敗に対しどう向き合えばよいのかを学ぶことができた。

 まだ収穫してない作物は、小松菜1把と実験的に栽培しているちょい辛ミックスである。まず小松菜はできるところまで伸ばしていきたい。もしかすると美味しくはなくなってしまうかもしれないが、育て続けるとどうなるのかが単純に気になるのでこのまま栽培を続けていきたいと思う。ちょい辛ミックスについては、通常の大きさまで育てて実験の結果を出すということが目標だが、この後もう1つ記事を出す予定である。どちらも楽しく育てていきたいと思う。

(5609文字)





コメント

農学部 高橋さん

育種の渡辺です。〆切日の朝には最終報告が完了して投稿されているのは評価できる点ですね。3番目の投稿でしょうか。最初にイントロ文として書かれている「振り返り」は大事なことです。目標としていたことを達成したのか、付加的なこととして何を習得できたのか、あるいはここの部分はもう少し補充が必要など、色々なことが見えてきたと思います。そうしたことがしっかりとした文章で表現されているのは、この講義の目標である高い表現力を身につけることができたということの証ではないでしょうか。他の受講生のコメントにも書いたかと思いますが、ただ、文章を書くということではなくて、読み手を意識するということを考えているのはよいですね。では、どこまでできたのか、もう少し突っ込んだ考察があれば、さらにreader-friendlyな文章を書くことが自然にできるようになるかと思います。これからも文章を書くときに気にかけながらトライしてみてください。

DSCN3329.JPG高橋さんのこれまでの報告を振り替えると、植物、野菜について植物生理学などの側面から多様な考察をしていたことは印象的ですね。高校までの生物での学びを応用するというか、作物栽培という農学に近づくことを意識した調査であり、考察ができていたかと思います。これまでも農学部からの受講生はいたが、ここまで深い調査をして現象との関係を考えていた受講生はいなかったと記憶しています。2年次から始まる専門科目での講義を通じて学びがさらに深まることを期待しています。一方で、学びではなく「経験と勘」も必要になってくるのが、いきものを扱うということの1つのポイントだと思います。その意味で、意識をして身の回りの観察を継続して下さい。

開講している側からHPを通じてコメントであったり、suggestionをしてきました。うまく取り入れることができた方もいれば、難しかった方もいたようです。最終報告の中にですが、維管束の観察を写真だけだったものを実際に手書きで図示することでより特徴をつかむことができる、また、そこから学びを深めることができることにも気がついたのは大事なことです。今回は顕微鏡などは使わなかったですが、顕微鏡を使うようになると、より明確になります。また、誰かの記事にも書いたのですが、いわゆる、ぱらぱらマンガのように同じ角度から時間をおいて観察、記録したものをつなげてみると、どこが成長していたのか、よくわかります。手書きとなると大変な部分があるので、Time-lapseという手法で写真をコマ送りすることで動きのある現象を捉えることにも応用できるかと思います。他の講義でも是非、イメージしたものを書く、見たものを書くと言うことを習慣にして下さい。

DSCN3355.JPG学ぶことができなかった点として現象間の相互関係、因果関係をあげています。なかなか深い考察ですね。植物を長年扱っていても、この現象とこの現象は関係があるのか、何となく関係しているように見えるなど、観察力と書籍・論文等での知識を統合することで因果関係に迫ることができます。一方で、植物に限らず、発現している遺伝子(mRNAなど)を調査して、この遺伝子が発現するとこちらも連動するなどの相関を取ることで、相互関係、因果関係を理解できるという側面があります。こんな学びを深めるとき、重要になるのが数学力になるのだと思います。是非、そんなことにも気にかけて下さい。

ここまでの学びにつながったのはタイトルにある「トライ & エラー」という言葉に凝縮されるのだと思います。大きな失敗はないにせよ、栽培の過程では微調整が必要になってきます。失敗の原因は何なのか、それをどうすれば改善できるのか、そうした観点で物事を見るようになるのが習慣になると、気がつかないうちに進歩できると思います。また、未収穫の野菜をこれからどのようにするのか、これもそれぞれの受講生が何をしたいのか、何を学びたいのかにつながると思います。アブラナ科野菜ですから、春には開花が見られます。3ヶ月先までの予報では、3月には暖かさが早めに来るようです。継続した栽培、実食などをまた、このHPから投稿されるのを楽しみにしています。

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わたなべしるす