東北大学大学院生命科学研究科 植物分子育種分野 渡辺研究室

【最終報告】目的を踏まえた行動、対象を見据えた文章作成(農:菅野 泰樹)

2025年1月22日 (水)

はじめに

 先日スーパーに買い物に行って、野菜コーナーを見ていました。ニュースでキャベツの価格が暴騰していると聞いていたので実際に見てきました。1/4230円くらいで、たしかにちょっと手が出ない価格だなあと思いました。一方で農家の方や流通を考慮するとこれが適正価格だという意見も見られて、価格設定の難しさを認識しました。食糧生産そのものの過程だけでなく、生産された食料が市場にどのように出回るのかまで考えないと農業は産業として破綻するのではないかとも思うきっかけになり、農学部に所属する人間として考えさせられました。

 私自身も、この講義で鉢やプラコップという規模ではありますが、実際に野菜を育ててきました。その過程で学んだこと、気づいたこと、反省したこと、これからに生かせそうなことをまとめて、この講義を振り返りたいと思います。

 

(1)栽培でたいへんだったこと・うまくいったこと

・虫害、日照の不足による緩やかな生育

 私がハクサイ、ホウレンソウの栽培を開始したのは108日からでした。栽培を始めたての頃は、「徒長させないようにしないと」、「水の管理を適切にしないと」など考えていました。45日で発芽して、その約2週間後にハクサイの葉が虫に食べられていることに気が付きました。その頃はまだまだ気温が高かったとはいえ10月も下旬のことで、栽培で虫害に悩むとは完全に想定外でした。定期的に葉についている虫を払いのけ、殺虫剤をまいて、虫害による枯死は回避できました。

間引きしたハクサイ そもそも比較的小さかった株が虫に食べられたことは不幸中の幸いでしたDSC_1065 (1).JPG

日照不足も栽培のネックになるとは思っていませんでした。ベランダでの栽培とはいえ植物が育つには困らない程度には日光を取り入れられるだろうと考えていましたが、浅はかでした。アルミホイルと段ボールで反射板を作成しましたが、依然として生育は緩やかです。

 虫害、日照不足は予想外のことで、栽培で大変でした。ベランダでの栽培で、栽培滴期も少し逸れているという特殊な状況でしたが、ここまで小規模ならなんとか管理できるだろうと考えていました。栽培を職業とする農家の方でも、想定外のハプニングに見舞われることもあり、それに対応する能力が求められるのだろうと実感しました。栽培中の困難を通じて、野菜の栽培における知識と経験の重要性に気づくことができました。

作成した反射板DSC_1468.JPG

・カイワレ大根の栽培の改善

 うまくいったことはカイワレ大根の栽培です。私はこの講義で、すぐり菜大根、カイワレ大根のスプラウトの栽培を行いました。1回目のすぐり菜大根の栽培では根を腐らせてしまい、収穫し、食べることができませんでした。しかし、カイワレ大根の栽培では、その失敗の理由を考察し、改善点を洗い出し、実行することができました。その際、過去の記事を参考に、改善点を挙げることができたことも、栽培の成功に寄与したと考えています。

カイワレ大根の芽生え 違いを考察しようとしていましたDSC_1345.JPG

 

すぐり菜大根のプラコップ

このように水滴があるような環境だったため、湿度が高すぎて失敗したのではないかと考察しました。DSC_0974.JPG

 

 

こまめに観察を行い、緑化を適切な時期に行うことができたと思っています。失敗の経験を踏まえて、栽培を成功させられたという点でも、自分にとって学びの多い栽培になりました。

(2)講義間での波及効果

 私は、この講義は「自然科学総合実験」という講義に波及効果があったと考えています。この講義は、さまざまな自然科学の学問分野の実験を行い、その内容についてレポートを作成するという内容の講義です。今考えれば、野菜の栽培、観察を行い、その内容について記事を書くというこの講義と、近い構造の講義でした。

 私が波及効果を感じた点は、観察の意識についてです。自然科学総合実験では実験の過程や結果の中での気付きをレポートにまとめていました。植物の観察の中で、変化に気づく力が見に付いたように思います。「葉の付き方に規則性があるな」、「ホウレンソウの茎の色が変化してきているな」など、細かく観察し、気づく能力を養うことができてきたように思います。そしてその能力は「自然科学総合実験」で行った実験でも発揮できたように思います。放射線の計測や、有機化合物の合成などの実験を行いましたが、その中で、観察のポイントに気づき、注目することができたように思います。この講義と「自然科学総合実験」が相互に影響し合って、観察する力を育むことができたと考えています。

 

(3)観察を通して身についたこと・気づいたこと

・観察のポイントは事前に設定すべき

 なにかを観察する際、観察対象にどのような特性があるのか、どこに着目すべきかを念頭においたうえで観察を行うべきだということに気づきました。それを実感したのはすぐり菜大根の栽培を振り返っていた時でした。記事に「すぐり菜大根は伸長が速いため、栽培の経過の報告はこまめに行うべきだった」という旨のコメントを頂きました。栽培期間が短いという特徴を踏まえて観察を行うべきだったという反省から、カイワレ大根の栽培時はこまめに観察し、記録をとっていました。ハクサイの栽培では中肋に特に注目すべきだったのではと、栽培の終わりに気づきました(ハクサイの葉では白い大きな筋が中肋にあたります)。ハクサイにおいて特徴的な部分だからこそ、その形成がどのように行われているかを、栽培を始めてすぐの時から注目して観察したかったです。

 漫然と観察していると、どこが変わったのかに気づきにくいのではないかと考えています。「観察したいものは何か」、「観察対象はどういうものか」という意識があれば、実りある観察を行うことができたのではないかと考えました。

・観察のデータはあとからでも使えるようにする

 中間発表の前にそれまでの栽培を振り返るという内容の記事を投稿しました。その際、栽培過程の写真を見比べましたが、画角がばらばらで、比較しようにも違いが分からなくなっていました。そこで、それからは画角を統一して写真を撮るよう心掛けました。記録の取り方としてこの方法が適していたかどうかはまだまだ改善の余地があるとは思いますが、「記録は後で活用するためのものである」という意識を身に付けることができたことは成長だと考えています。

 

(4)文章を書くという点での変化

・文字数への抵抗がなくなった

 この最終報告の文字数の要件は5000字以上ですが、それ自体はあまり苦に感じなくなっていることも、この講義で記事を書いたことによる成長だと思っています。正直、私は文章を書くスピード自体はあまり成長していないように感じているのですが、意識の部分で文章を書くことをあまり苦に思わなくなったことは成長だと思っています。また、文章を書くコツは、とにかく書き始めることだということだということもこの講義で学びました。

・「記事」を書くという意識

 私は、「記事」として文章を書くという経験も、この講義ならではの学びだと考えています。もちろん講義である以上、作物の栽培、観察、また、その中での工夫や考察はしなければなりませんが、それでもその内容は、記事の中に収める必要がありました。その意識のもとで記事を書いていたつもりです。記事である以上、ある程度読み手の方が楽しんで、固くなり過ぎないように読むことができる文章を書くように心がけていました。

 なんのための文章を、誰に向けて書いているのか。その上で、どのような文章が求められるのかを意識するべきであるという学びを得ました。この講義はこの意識を持つきっかけとなりましたが、そのような文章を書く上での観点や能力は、まだまだ改善の余地があります。大学生活のみならず、日常から社会活動の中まで、さまざまなところで役立つスキルだと思うので、これからも意識して文章を書きたいと思います。

 

(5)自然科学的なものの見方について、習得できたこと、研鑽が必要だと感じたこと

・観察での気付きをどのように解釈するのか(データから現象を読み解く意識)

 野菜の栽培、観察、考察を通して、私は、「観察の気づきをどのように解釈するか」という観点を身に付けました。観察、記録が重要であるということは以前からあたりまえのこととして認識しており、実際、重要であることは間違いのないことだと思っています。この講義では、観察、記録の先にあることを求められていたように思います。観察、記録を行って終わりではなく、そこで得られた気づきや変化は何を意味するのか、何が理由なのかを考える必要性を、栽培の過程から学ぶことができました。これはおそらく自然科学のあらゆる分野で求められる考え方だと思います。この講義ではその考え方を身をもって理解し、ほんの少し習得しました。これからもこの能力を鍛えていこうと思います。

・データ化すべき点の選定と栽培、観察の計画

 これは(3)の内容にかなり近いですが、何について観察、記録を行うべきかは事前に決めておくことが重要であると考えています。観点が定まっていない、または重視するものが分かっていないと観察しても変化に気づきにくいからです。私はそのような自然科学的な見方を行うために、栽培、観察の計画を立てる力を付けたいと考えました。ここでの「栽培」は「実験」に置き換えられるのではないかと思っています。事前に実験の目的を認識し、その過程で何のデータを得たいのか、どういう結論を得たいのか、そのために行うべきこと、必要なものは何かなど、事前に考えてロードマップ化する必要があったのではないかと思います。情報収集も計画において重要な要素になるかと考えます。こと、この講義においてはそれが過去の記事を見てみることであり、先行研究の調査にあたるものだったと考えています。私はこの調査が不十分であったと反省しています。もっと過去の記事を見ていれば栽培の終わりを見据えた観察、記録、栽培の工夫を行うことができたのではないか考えています。実験を行うときや、レポートなどの文章を書く時は、事前の情報収集をないがしろにせず、自分の中で重視する観点を確立し、見通しをもって取り組むことでそこに基づいた観察や考察を行うことができるのではないかと思います。

 

(6)コメントへの対応、意味について

 頂いたコメントをヒントに、葉序について観察、調査、考察ができたことは良かった点だと考えています。自分の記事の内容についてコメントを頂けるというこの講義ならではの特徴、双方向性を生かすことができました。栽培、観察での気付きについての記事にフィードバックや関連情報を頂くことで、考察をさらに深めることができました。このような、記事とコメントの双方向のやり取りは、個人的には新たな観点の導入という点でとても学びが多かったです。

 頂いたコメントに対応するという流れは、誰かと何かについて議論することに似ている気がします。私は教えていただいてばかりなのですが、自分になかった考えを知ることで、より多角的に物事を考えられるようになった点で、議論に似ていると思いました。人の意見を取り入れて自分の考えを磨くということは、コメントを頂いた大きな利点であり、他の場面でも重要なものだと思いました。

 

(7)中間発表での目標の反省

 中間発表の「これからの講義に向けて」の項目を、どれくらい達成できたか、達成できなかったことは何かを反省したいと思います。

・達成できたこと

 まず、ある程度達成できたことは観察の気づきが何を意味するのかを調査、考察したことです。例えば、ハクサイの中肋の発達の意義について考え、維管束を寒さから守るはたらきがあるのではないかという考察をしました。また、栽培における管理の意味についても考えることができました。肥料について調査し、それが植物にとってどのような役割を持つのかを考えることができました。

・達成できなかったこと

 十分に達成できなかった点は、他の人の記事、コメントを活かすことです。この講義の大きな特徴は、データが年を重ねるごとに集積し、それらを参考にできることだと思います。中間報告の際、栽培の参考にするためにもっと他の記事、コメントを見ようと思っていたのですが、あまり参考にできませんでした。ハクサイ、ホウレンソウの生育が思うように進んでいなかったからこそ、過去の記事を十分に調べていれば、何か工夫できそうなところに気づけていたのではないかと思います。最近の記事を作成している時に、過去にハクサイを栽培していた方の記事を見ていて、「もっと早くからここに注目して観察していればよかった」と後悔することがありました。観察のヒントを得るためにも、もっと多くの記事を読むべきでした。達成できなかった理由の一つは、記事の投稿を規則的にできなかったことだと考えています。記事の投稿が詰まっていくと、早く記事を投稿しようという意識から、過去のデータを参照にすることが少なくなってしまったのだと考えています。他の講義との兼ね合いを考慮して、計画的な記事の作成ができていれば、調査に基づいた、質の高い記事が作成できたのではないかと考えています。「余裕をもって計画的に物事に取り組むことは、クオリティの向上にもつながる」という意識はこれからも持ち続けたいと思います。

 

(8)この講義をどのように活かすか?

・「なんのためにそれをするのか?」

 この講義の中の反省として、漫然と栽培に取り組んでしまっていいた時があり、管理の意味をあまり考えていなかったことがありました。栽培後半ではなるべく栽培で行うことの意味を考えるように意識していました。「追肥の意味は?」、「水やりはその頻度でいいのか?」、「寒さ対策で何をすればいいのか?」など、意味まで理解することを心掛けました。

 このように意識した理由は、なんのために行っているのかを理解していないと、その行為を効果的に行うことができないと実感したからです。「水やりはただやればいいというわけじゃないから、ちゃんと土が乾いてからにしよう」という考え方は、漠然と、栽培には水やりが欠かせないとだけ思っているだけではできないことだと思います。この意識は植物の栽培において重要なことだと実感しましたが、他の講義や、日常にも活かすことができるものだと思います。行動の理由を意識することで、目的意識にもとづいた、臨機応変な行動が可能であり、実験などに活かすことができると考えました。このようにして、この講義の経験を活かしていこうと思います。

 私はハクサイ、ホウレンソウをまだ収穫していません。どちらも食べるには小さすぎますが、せっかくなので食べてみたいと思います。一方で、このまま育て続けたらどうなるのだろうとも思っています。まだ株に少し余裕があるので、ハクサイ、ホウレンソウともに1株ずつ残して個人的に観察してみようと思います。

 

おわりに

 この報告書を最終報告を作成している際、(8)の内容以外にも多くの学び、反省があり、刺激を受けた講義だったなあと感じました。

 ここまで読んでくださり、ありがとうございました。「最終報告」と銘打って作成した記事ですが、もう少し記事の投稿を続けます。内容としては、カイワレ大根、ハクサイ、ホウレンソウの栽培の詳細なまとめ、収穫でしょうか。果たして何グラム食べられるのでしょうか...

 

6233文字)

コメント

農学部 菅野さん
 
 導入の文章が昨今の野菜の高騰から入り、この講義を通じて野菜の栽培を実感できたことは、これからの農学部の専門の学びにつながるのではないかと思います。是非、この学びを活かして下さい。また、最終報告に書いてあったとおりというか、これまでのレポートのトート同じく、この講義を通じて何が足りないのか、何に気がついたのかということをストレートに書いてあるのが、とても菅野さんらしい最終報告でした。
 
 まず、栽培していたハクサイ、ホウレンソウの生長には悩まされていましたね。ラボスタッフのオガタ君と議論をしていましたが、ある種のミニ盆栽ともいえる状態で現在まで管理できていることが、初めての状態である種の驚きです。それでもくじけずに栽培を継続できているのは「継続力」の重要性を理解できていると思います。これから先、困難に出くわすことがありますが、そんな時、この栽培の苦労を思い出してください。カイワレダイコンというかスプラウトの栽培で最初の時は失敗して、後に成功した体験も失敗が活かされていると思います。あと1点考えて見てほしかったのは、最初の時の室温と2回目の時の室温です。昨年の11月くらいまで秋のような天候で、12月に突然冬が来たような気象条件でした。室温も同じように変化したのではないでしょうか。また、乾燥も進んだと思います。失敗したとき、どれだけ多角的に考えることができるか、そんなことも理解できるとよいですね。
 
 何かをスタートするときに事前に考えることの重要性も理解できていますね。この講義のオリエンテーションの時に、栽培をして記事を書くという以外は「自由」といいました。過去ログもあるし、栽培は簡単と思ったと思います。そのレベルでもよいですが、物事を始める前に「目標」、つまり、先行研究を踏まえて、もう一段高い「何を行い、何を明らかにするのか」ということを決めることができるとよいですね。ここまで来ると、卒論とかのレベルかもしれないですが、高校では「課題研究」を行って大学進学をした世代。是非、今よりも高みを目指すために、これから受講する講義から何を学ぶのか、ということを目標だてできればよいですね。
 
 すでに最終報告にコメントした受講生にも書きましたが、今回の講義では記事をuploadすると言いましたが、よく考えれば毎週レポートを書いているようなものです。それが評価の対象になるというのはシラバスに示されています。そのちょっと斜めから見るように考えることも覚えるとよいのではないでしょうか。(8)の問いに対する回答がどんな講義、学びにも当てはまる大事なことですね。この重要性は農学を学ぶだけでなく、毎日の講堂に行かされることだと思います。また、最初にも書いたように、この半年間のこの講義の全てに通じることを振り返っていると思います。他の講義とは大きく違う内容だったかもしれないですが、菅野さんのこれからの活動の一助になれば、開講した側としては幸いです。最後に、もう少し記事を書いてみると書いてあったので、uploadを楽しみにするとともに、植物がどう変化するかも楽しみですね。2月の気温は平年並み、3月は平年より高いというのが長期予報のようです。そんなことも参考に。
 
 
 わたなべしるす