東北大学大学院生命科学研究科 植物分子育種分野 渡辺研究室

2015年4月の記事です。

2015年度海外調査① 韓国(その3)

2015年4月29日 (水)

 昨日28日は、大田から水原を経て仁川までの移動となりました。途上、
水原にある国立園芸試験場野菜育種部をお訪ねしました。折しも移転構想
が進捗している中ではありましたが、朴先生のご友人という鄭先生が我々
をお待ち下さっていて、いろいろなお話をお聞きすることができました。
なんと、鄭先生も東北大学に留学されていたご経験がおありとのこと。
 
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 一連の視察・訪問の予定も終わり、帰途につく前に、園芸試験場の奥の
一角にひっそりと佇むように築かれている禹長春博士の墓に参りました。
 
 日本人にとって「禹長春」という名はまず馴染みがないことでしょう。
事実、この私もつい最近まではそうでした。しかし、この科研班が発足し、
渡辺先生からいろいろとレクチャーを頂いて禹博士の数奇な人生を知り、
とても驚いた次第です。
 
 ここでは敢えて長くは記しませんが、禹博士は大正年間に当時の農林省
に採用されて、ナタネの育種研究に携わられ、昭和11年には東京帝国大学
より博士学位を授与されました。この時に提出した学位請求論文の中で、
西洋ナタネ・キャベツ・在来ナタネの三種のゲノム解析などを行い、その
三者の関係を明らかにされました。
 いわゆる「禹長春のトライアングル(三角形)」として、その後世界的
に評価されることになる重要な発見でした。
 現在韓国では、この禹博士のことは道徳の教科書において紹介されて
おり、広く国民にその業績が顕彰されているということです。
 
 なお、禹博士については、日本でも下記の評伝が刊行されています。
   角田房子 『わが祖国―禹博士の運命の種』 新潮社、1990年
     http://ci.nii.ac.jp/ncid/BN05899925
     http://ci.nii.ac.jp/ncid/BN11087844
 
 今回の墓参に際し、渡辺先生が「自分の学問の祖」と仰られていたこと
が、とても印象的ではありました。
 
 
 夕刻には無事に仁川へ到着して、予定していたホテルに投宿しました。
翌日はもう朝の便で帰国となりますので、夕食のあと一行全員で遅くまで
いろいろと語らいました。
 振り返れば、朴先生をはじめとして、多くの韓国の諸先生方に支えられ、
短期間ながらも実り多き調査行となりました。また、改めて再調査にくる
必要性も痛感した次第です。関係各位には、改めて御礼を申し上げます。
 
 
 以上、たけだ識す。

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2015年度海外調査① 韓国(その2)

2015年4月28日 (火)

 一昨日のうちにソウルから大田に移動しまして、夜の19時半頃にホテルに
到着しました。そこでは、かつて東北大学大学院生命科学研究科に留学を
されておられた宋先生がお待ちになっていて、その後ご同行の朴先生と
渡辺先生、等々力博士と私とで夕食に参りました。
 宋先生・朴先生ともに東北大学にご留学経験があり、また渡辺先生はもう
申し上げるまでもありませんが、等々力博士もマスターは東北大学の生命
科学研究科であったとのことでして、私以外の方は東北大学のOB会の如き
様相の集いとなりました。いろいろな思い出話に華が咲き、傍聴している私
も大変面白くお聞き致しましたが、それにまして、お食事も美味しく、大変
楽しいひとときでした。
 ご多忙のところ、当方等の到着をずっとお待ち下さり、遅くまでお食事に
付き添って下さった宋先生、ありがとうございました。
 
 さて、翌日すなわち27日には、忠南大学校生命農学部を訪問致しました。
まず、午前中には附属農場を見学させて頂きました。ご案内は、崔研究員
でした。
 農場は比較的広く、施設も充実していました。いくつかあるハウス棟の中
でブラシカ類(すなわちアブラナ科)の作物が各種栽培されていました。
 
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 いろいろな品種が植えられていましたが、水菜のような形質を示している
もの、あるいは大根と同じ白い花を咲かせたもの、また茎は緑色なのに葉は
紫色したものなど、さまざまな形質を示すものが植えられていて、きちんと
した管理がなされていました。
 その後、昼食の際には、やはり東北大学に留学されておられた李研究員
も合流され、ふぐ料理を頂きました。それにしても、昨日の夜からは続々と
東北大学の留学経験者やアブラナ科植物を研究されている若手研究者の
諸氏がお出ましを下さり、我々の来訪をご歓迎頂き、そして各種のご支援
を頂いていることが大変有り難く、感謝することしきりでした。
 皆様、ありがとうございました。
 
fugu-shabu.jpg.JPG
 
 食事後は改めて大学の研究室に赴き、林容杓教授をお訪ね致しました。
 林教授は、アブラナ科植物のゲノム解析に関する重要な論文を数多く発表
しておられ、世界的にも著名な研究者です。渡辺先生とは、以前から国際
学会等の場を通じて知り合いとなり、頻繁に各種の連携をなさっておられる
と承りました。
 
 その林教授に今回の訪問の主旨と、我々科研班の目的についてご説明し、
今後の研究でのコラボやご助言・ご協力についてのご依頼申し上げたところ、
林教授には即座にご快諾を頂き、また有益なご助言と各種の参考資料等も
頂戴しました。
 
chuunan-Univ2.jpg.JPG
 
 このディスカッションのあと、教授自ら研究室の施設をご案内して下さり、
またこの日の夜には、大変ご多忙な中お時間を割いて下さり、我々と夕食を
共にして下さいました。地元の料理を頂きながら、各種の情報交換に始まり、
またしてもいろいろお話に華が咲き、有意義な親睦・情報交換会となりました。
 林教授、誠にありがとうございました。
 
 それにしても、毎日頂くお食事がとても美味しいですね。
 韓国料理というと、すぐ焼肉を連想する方が多いかと思われますが、焼肉は
ともかく、普段の料理では実に野菜などをふんだんに利用した調理をしている
ことに気がつきました。今の時期の旬の物というと、韓国では芹と蓬、そして
大根などのアブラナ科の作物でしょうか。
 味付けは、日本人の口にも合うもので油濃くはなく、そろそろ旅疲れが出て
きそうな私にとってはとても有り難いものでした。
 
 
 以上、たけだ識す。
 

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2015年度海外調査① 韓国(その1)

2015年4月27日 (月)

 大谷大学のたけだです。
 
 4月25日より、等々力博士とともに韓国に来ております。一昨日は、ソウル市内
東大門地区にて、韓医薬博物館と京東市場の見学・視察を行いました。
 韓医薬博物館では、金先生のご案内で博物館の概要の説明を頂きました。この
博物館は民間資本が設立した博物館とのことで、金先生はもともと別のご職業を
定年になられた後、ボランティア説明員として応募され、そこから韓医薬の知識の
勉強を開始されたのだとか。とてもそのようには感じられないほど豊富な知識を
お持ちで、高麗人参をはじめとする多種多様な薬草・薬物の効能や用法について
解説をして下さいました。
 
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 見学の後は、ガイドの朱さんにお手伝いを頂いて、隣接する京東市場にて野菜の
市場調査と聞き取りを行いました。今でも、韓国ではスーパーマーケットではなく、
昔ながらの市場で食材を調達する家庭が多いということです。市場の中を歩くと、
魚や肉、野菜、味噌などの調味料の香りに満ちていて、嗅覚をはじめとする五感が
とても鍛えられるような気がします(笑)。日本の都市部に住む私たちにとっては、
普段は体感できない経験ですね。
 私たちの目当ては、当然にしてアブラナ科野菜でしたが、結構いろいろな種類が
売っていました。大根や白菜、キャベツ、ブロッコリー等が主なものでしたが、その
中には日本ではあまり見かけないような形状のものがありました。
 
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 上の写真のタイプの大根は、細かく切ってキムチ漬けに使ったりするんだそう
です。日本だと、辛味大根で似たような形状のものがあるとのことでした。
 あと、もうひとつのタイプはこの大根。済州島産なのだとか。日本でみるもの
とはいささか異なり、結構ずんぐりとした形状ですね。それにしても、こういった
形状の差異とはどういうところから生まれてくるのでしょう。植物学・育種学は
専門外である私にとっては、とても興味深いことなのですが。
 
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 さて、昨日は国立中央博物館と国立民俗博物館の視察・見学を行いました。
国立中央博物館を訪れたことがある方は数多くおられると思いますが、2005年
に現在の龍山区に移転して新たに開館しました。現在の建物は、世界でも有数
の規模を誇る規模であるとのこと。

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 館内の展示物の大半は歴史・考古・美術系の文化財ですが、いろいろ見ている
と実に興味深いものもありました。

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 19世紀の画人で官僚でもあった申命衍の手になる草花図です。精緻な観察に
基づいてきわめて写実的に書かれています。こうした絵画資料で近代以前の野菜
を描いたものがまとまってあれば、アーカイブ資料としてひとつの手かがりに
なると思われます。
 日本では、江戸時代後期の農書の中に精緻な図像で農作物を描いた事例が
あって、既に研究されています。その図像は、今日の農学関係者が見ても特徴
を観察するのに充分堪えるレベルにあるとのことでした。
 続いて、景福宮の側にある国立民俗博物館をお訪ねしました。ここでは、主に
民俗学的な見地からの展示がなされていて、キムチ漬に関する展示コーナーも
ありました。

 以上、日程の都合もあり、あわただしい二日間でしたが、この日の夕方には仙台
から渡航してこられた渡辺先生と、ご同行を頂く順天大学の朴先生とも合流できて、
次の訪問地である大田へと向かいました。


以上、たけだ識す。

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