東北大学大学院生命科学研究科 植物分子育種分野 渡辺研究室

最終報告 ー多面的な観察眼ー(農:小島蒼太)

2022年1月14日 (金)

 早いもので、もう最終報告です。実は、私は野菜を育てることはやりたかったのですが、週に一回のペースで長い文章を作るということに自信がなく、このゼミを履修するかどうかかなり葛藤していました。それが今、しっかりとやり遂げられたことに自分自身が一番驚いています。このゼミを履修するという決断をした半年前の自分を褒めてあげようと思います。

 さて、TOPの写真は私の実家のすぐ近くの橋から撮った夕焼けに浮かぶ富士山です。最終報告ではこの写真にしようということは最初の時点で決めていました。私の最初の投稿が富士山の写真で始まっていますので、終わりも富士山で締めてやろうという意図です。では、日本一の山を掲げるだけに恥じないような最終報告にしていこうと思います。

 

目次


1. 栽培を通して感じたこと

2. 他の講義への波及効果

3. 観察を通して感じたこと

4. 文章を書くことに対する考え方の変化

5. 自然科学的なものの見方について

6. コメントについて

7. 中間発表からの成長

8. まとめ


1. 栽培を通して感じたこと

①思っていたよりもうまくいったこと

 始める段階では、そもそも野菜を大きく育てられるのかどうかに不安がありましたが、その点に関しては私は上手くいったのではないかと思っています。(根の付け根から葉先までの長さ(最大):イトウミックス...15cm・大根赤房...23cm・ミニ白菜...24cm)

イトウミックス最大.jpg

イトウミックス収穫時(11月9日)

赤フサmax.jpg赤房最大時(11月25日)

白菜最大.jpgミニ白菜の現在(1月14日)

 要因としては、私の住んでいる寮の部屋の日当たりが大きく関係していると考えられます。私の部屋は南向きの部屋で、日中はほぼずっと日が当たるようになっています。そのため、光合成も活発に行われ、成長速度も他の方たちの野菜と比べて早かったのだと思います。また、私は播種を全て最初の時期(10月4日)に行っているため、その分成長期間が長くなったことも要因の一つであるはずです。

 

②大変だったこと

 栽培を通して特に感じたのは、野菜は自分の想像よりもかなり急激に萎れてしまうということと、その萎凋にもさまざまな理由があるということです。

ミニ白菜萎凋.JPG植え替え後のミニ白菜(11月12日)

 この写真は植え替えて1日後の白菜ですが、少し萎凋気味です。この後3日間は同じような状態が続きました。これは、植え替えによるストレスと、根が張るのに時間がかかったということが要因だったと思います。ただ、これが起きる前に五十嵐大眞君やらかしたぁぁぁ 4回目野菜復活! 5回目の流れを読んでいたため、水をしっかりやれば復活してくれるだろうというのは感じており、その間は多めに水をやることで復活させることができました。

 しかし、萎凋を復活させられなかったのが大根赤房です。上記のような経験があったため、私はある程度の萎凋ならば復活させることができるという謎の自信を持っていました。しかし、これは水不足が原因ではなく肥料を植物体に近づけすぎたことによる肥料焼けが原因でした。そのため、水をやっても復活させることはできずに葉がカラカラに干からびるレベルにまで萎れさせてしまいました。

萎凋大根.JPG萎凋した赤房(葉がカラカラになっている)

 「萎凋=水不足」という私の固定観念(知識不足)のために大根赤房は枯れてしまいました。萎凋だけでなく、植物を育てる際のトラブルの要因は様々なものがあるため、トラブルの対処には要因を様々な側面から考察することが大事だと実感しました。そして、多面的な考察を行うためにはそれだけの知識をつけることが大事だとも痛感したのをよく覚えています。


2. 他の講義への波及効果

 私は農学部(植物コース)の2年生としてこのゼミを履修させてもらいました。1年生の頃とは異なり、2年生では今学期はほとんどが専門科目となります。植物について学んでいる私の場合、このゼミはほとんどの講義に対して多かれ少なかれ何かしらの良い影響をもたらしてくれました。講義で植物の性質や生理について学び、自分が今育てている野菜に置き換えて実際に見てみることで理解を深めるという最高の循環をこの半年間は得ることができました。2つほど具体例をあげてみようと思います。

 最初にこの循環を感じたのが植物分子生理学という講義です。この講義の中で、プラスチド(色素体)の種類や分化について学んだのですが、ちょうど私はそのときにカイワレ大根を育てていました。暗所で育てている間はカイワレ大根の色素はプロプラスチドから分化したエチオプラストで、光に当てることでエチオプラストがクロロプラスト(葉緑体)に変化する(緑化)ということをただ理論として学ぶのではなく、講義に付随した実体験として学ぶことができたのです。

 もう一つは、記事でも紹介しましたが、野菜園芸学で葉開度について学んだときのことです。この講義ではトマトの葉開度が特徴的であるということを教えていただいたのですが、これを聞いて私が思ったのがこれは今自分が育てている白菜にも応用できるはずだということでした。そこで、実際に教わった方法で白菜の葉開度を調べてみると144°であるということがわかりました。野菜園芸学はこれから試験がありますが、もし葉開度についての問いが出た場合には必ず答えられると思います。

 おそらく、このゼミは、長い文章を書くことに慣れるという点では1年生のときに受講するのが良いと思いますが、農学部(特に植物コース)の学生は2年生で専門的に学ぶ時間が増えてから受講するのも是非おすすめしたいです。


3. 観察を通して感じたこと

 久しぶりに会った友達の変化や従兄弟の成長にはいつも驚くのに、毎日会っている人だと小さな変化には気づけないということはよくありますが、野菜の観察についても同じようなことが言えました。また、今回大変なのは週に一度何かしらを記事として投稿しなければならないということです。毎日見ているが故に変化に気づくことができず、「今週は何を記事にしようか」と毎週悩むことを繰り返していました。しかし、その苦労のおかげで一つのものを様々な側面から観察するという力を身につけることができたような気がします。例えば、最初の頃は単に葉の大きさに着目していましたが、記事を重ねるごとに葉のギザギザや、葉の面積に応じた配置葉開度など、葉の観察にしてもさまざまな側面から観察・考察し、記事にすることができました。(ただし、葉のギザギザの変化については成長した後のギザギザが予想以上に数えにくく結論が出せなかったり、葉の配置については赤房を枯らしてしまったために継続観察ができなかったりなどの失敗もたくさんありました。)

 失敗はあったものの、多面的に対象を観察する力を身につけられたのは、今後研究を行なっていく上でもとても役に立つことであったと思います。研究対象についても様々な面から考察し、今回同様新しい発見のチャンスを見逃さないような姿勢を持ち続けていきたいです。


4. 文章を書くことに対する考え方の変化

 このゼミで、文章を書くということに関して自分が一番変化したのは、読み手を想像しながら文章を作るようになったということです。たくさん文章を書くゼミや講義は探せば他にもあるとは思いますが、このゼミの一番の特徴は「ネット上で万人に公開する文章」を書くという点だと思います。現に、Googleで「小島蒼太」と検索するとこのゼミの記事がTopに出てきます。つまり、私の同級生や後輩が私の名前を検索すればこの文章は読めてしまうわけです。そこで数式や専門用語が満載な、だである調のザ・理系の文章を書いて、文章を見つけてくれた人を圧倒して感心させるということもできるのですが、それよりも私はその人に自分の文章を楽しんでほしいと思いながら文章を書くようにしていました。そのため、記事の中ではできるだけ難しい言葉は使わず、そうでありながら読む人の好奇心を少しでもくすぐれるような文章を書くように意識してきたつもりです。今までのレポートだとただ淡々と結果や考察を書くだけだったのが、読み手を意識して表現を工夫してみるなど、自分にとっては新しい文章の書き方を身につけることができました。

 そして、ここで面白いのが、読む人に楽しんでもらうような文章を書こうとすると、自分自身も文章を書くのが楽しくなってくるということです。冒頭にも記した通り、今回ゼミを受講するにあたり毎週長文を書かなければならないというのが自分自身の中で一番の懸念点でした。しかし、蓋を開けてみると文章を書くことを楽しみに感じており、時には長くなりすぎてしまうため来週に話題を回すということもありました。読み手を意識した長文を書くということに苦痛を感じずにむしろ楽しさを感じるようになったというのは最初では考えられなかった私にとって最高の変化でした。


5. 自然科学的なものの見方について

 3. 観察を通して感じたことでも記した通り、私は野菜の観察において様々な側面から観察を行うという点でこのゼミを通して特に成長できたと思います。

 一方で、まだまだ自分には足りないと感じたのは「継続的に対象を観察し、記録を録り続ける力」です。私は最初の頃に葉の生長について継続的に記録していこうと考えていたのですが、その日の環境によって葉の状態(水分量や土との距離など)が少しずつ異なり正確な生長を記せない・用事で日を開けてしまった際にどの葉を観察対象としていたかわからなくなってしまったなどの理由で、途中で記録をやめてしまいました。今考えると正確な成長でなくても良いから記録はつけておくべきだった・観察対象に何かしらの印をつけて分かるようにしておくべきだったと思います。(「盆栽」としての野菜に印をつけるのが良いのか悪いのかはまた別の議論になる気もしますが。)その点、山田和輝君ハクサイ実験シリーズなど、何週かにわたり継続して生長・変化を記録しているため尊敬します。

 また、林瑞紀さんふあふあミックス実食!!のように、異なる野菜同士を細かく比較するという点も自分にはまだ足りなかった視点だなと感じました。私自身もイトウミックスの実食時に葉の大きさ・形程度の比較は行いましたが、茎の形状や維管束の配置など、比較できるところはまだまだあるのだなと記事から学ばせてもらいました。

 このように、日々継続するからこそ見えてくるもの、一つの対象だけでなく複数の対象を比較することで新たに分かること、これらは今回のゼミでは私があまり得られなかったものです。私は農学部ですのでこれからも野菜を育てたり植物を観察することが多々あるはずです。その時は今回の反省を胸に自分の力を磨いていきたいと思います。


6. コメントについて

 これは中間発表でも記しましたが、土寄せの仕方や施肥の方法など、野菜を育てる上で先生からのコメントは必須でした。ただし、週に一回の記事ということでどうしても野菜の成長度合いや私たちの行動に対してコメントにタイムラグがあることも否めません。例えば、施肥に関しては⑧ 大根赤房の悲劇 ー低温注意ーにあるように、自分自身、いまいち肥料のやる量や頻度など分からない状態で施肥して肥料焼けを引き起こしてしまったため、施肥の前の記事で施肥の方法がよく分からない旨を一言でも書いておくとよかったかなと思っています。(もちろん、自分でネットや本で調べることも大前提ではありますが。)

 一方で、この施肥の失敗に対する先生のコメントで次の記事が決まり、私にとっても新たな学びを得られたということもありました。それについては⑨ これから肥料を与える方、一度この記事を読んでください ー肥料焼けーの記事にまとめてあります。この記事は、先生からのコメントで赤房が枯れてしまった原因として一番論理的に説明できるものを見つけることができたと同時に、自分自身の知識になかった「肥料焼け」について学ぶことができ、他の人たちに注意喚起までできたということで、講義の双方向性がうまく機能した、私にとっても今学期ベストの記事となりました。


7. 中間発表からの成長

 中間発表後から私が特に意識していたのは、「様々な側面から野菜を観察する」「もう少し数字も交えた考察を記事に入れていく」ということです。これに関しては、葉の成長グラフのようなものは作れなかったものの、葉の配置や葉開度などに関して前半よりも理系的な考察を交えながら様々な観点から野菜を見た記事を仕上げることができたのではないかと思っています。4. 文章を書くことに対する考え方の変化でも示した通り、私は野菜や理科に興味がない人でもある程度楽しめるような文章を作りたかったため、その点でバランスをとるのが難しかったです。ただ、山田和輝君の記事は個人的には興味が湧き面白かったため、もし次にもう一回受講するとしたら(無理ですが)思いっきり理系に全振りして、一つの観点に注目したニッチな読者向けに記事を書くというのも楽しそうだなと思います。


8. まとめ

 このゼミでついた力は沢山ありますが、特に「対象を多角的な視点から観察する力」と「長い文章を楽しみながら書く力」はかなりついたと実感しています。この2つの力は今後農学部での研究に欠かせないものです。おそらく、研究過程では自分の想像している以上に様々な疑問や問題が生じると思いますが、今回身につけた多角的な視点で解消していき、一つの成果として文章にまとめられるようになりたいです。

 まだ、ミニ白菜たちは絶賛成長中です。ここからできるだけ店に出ているような、結球した白菜に近づけられるように育てていきたいと思います。ゼミはこれで終わりますが、野菜の成長は終わりません。しっかりと美味しくいただけるようにがんばります。余裕があれば記事にしたいと思うのでお楽しみに。

半年間、楽しく受講することができました。渡辺先生、他の受講者の皆さん、そのほか私の記事を読んでくださった皆さん、本当にありがとうございました!!(5786文字)

コメント

農学部・小島さん

最初の写真、富士山でしたね。最後も富士山、それだけ身近なのでしょう。渡辺が学生であれば、瀬戸大橋を使うかもしれないと思ったり。前置きはさておき、最終報告を投稿可能日の16hrくらいたったところでuploadというのは、記録のように思います。これまでの活動もそうですが、先手、先手での対応は素晴らしいことだと思います。最終報告の中にそうしたことがなかったように思いますが、栽培、投稿記事がスムーズだったのはそうした「〆切に追われず、追いかける」というようなスタンスがあったからだと思います。これからもそうした取組を大事にして下さい。

農学部の学生なので、2年生で植物、作物の講義があり、この展開ゼミと連携できたのは開講している側としては何よりです。実際の植物とその生長などのからくりを理解することはどちらが先でもよいと思いますが、それらが独立事象ではなくて相互に連携できることが大事なことです。この講義に限らず、講義間の連携をするようなきっかけになったのはよいことです。

ものを見てその「不思議、変化」に気がつくようになったのは大事なことです。なぜ、そんなことの不思議に気がつくのか、それはたぶんなんらかの「興味」の部分があるのだと思います。書かれてあるように、植物を学んでいる過程で、植物を理解し、多角的に見たり、考えたりすることができるようになっているのだと思います。そうした多角的な観察、学びを継続することが、他の講義にも波及するのだと思います。

文章力は文理関係なく、必須な事項です。また、専門用語が並んでいても、その分野の人が読んでおもしろいと思えるような文章であることは、備えておくべき点です。そうした意味で、今回の展開ゼミで習得した文章力の養成はこれからも継続して下さい。これまでに書いた大事な点は継続的に取り組むことで、さらに発展します。なので、これからも読み手を意識した文章、レポートなどを書くことに研鑽して下さい。

コメントをするというか、本来は「議論」ができればよいのですが、そこまで行くと研究室に配属されたあとの「卒論」のようなところでスタートすると思いますが、双方向でやりとりをすることの大事さは実感できたのではないかと思います。この講義をきっかけにしてこれまでに書いてきた様々な点をさらに向上させて下さい。野菜栽培が終わらないのと同じように。野菜の種子はシリカゲルのような乾燥剤を入れて袋でとじて、冷蔵保存すれば、数年は大丈夫です。春に栽培すれば生長は早いでしょうし、今年の秋にも再チャレンジできると思います。これからもがんばって下さい。お疲れ様でした。


わたなべしるす