東北大学大学院生命科学研究科 分子化学生物学専攻 分子ネットワーク講座 植物分子育種

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  • 研究コンセプト

2005年4月に「植物生殖遺伝分野」としてスタートした当研究室ですが、このたび2018年4月からの生命科学研究科改組に伴い、「植物分子育種分野」として新たなスタートを切ることになりました。これまでは「植物の生殖形質を分子レベルで理解すること」を目標に研究を行ってきましたが、今後はそれをさらに発展させ「機能解明を行った遺伝子による植物の分子育種」をめざし、一歩進んだステージへ進んでいきます。

われわれは今まで、植物の生殖に係る分子メカニズムや、「アブラナ科植物の自家不和合性」の分子メカニズムを解明するため、種子植物を幅広く用い(イネ・アブラナ等)、様々な基礎研究を行ってきました。植物の生殖に係る分子メカニズムを詳細に理解すれば、「種の壁」を打破して新種を生み出せるかもしれません。さらに、経済的F1雑種育種の基礎となる「自家不和合性」・「雄性不稔性」という生殖形質のメカニズムが解明されれば、現在これらの形質を用いることができない作物へ形質導入し、効率的な雑種一代育種が可能になるかもしれません。「遺伝子編集」を新たな「分子育種」ツールとして利用すれば、ストレス耐性や物質生産性を効率的に導入し、育種年限を短縮することが当たり前になるかもしれません。世界的に食糧不足が叫ばれ、今までより厳しい環境に耐える新品種作出が望まれている今、新時代の「育種」に我々の今までの基礎研究結果が生かせるのではないかと考えました。

こうした背景に基づき、当研究室では作物育種の幅を広げるため、植物の生殖形質の分子機構解明を行います。最終的には遺伝子編集などの先端的技術を用いた「分子育種」実現の一端を担いたいと考えます。当研究室の柱となるテーマに「アブラナ科植物の自家不和合性」がありますが、これを軸に受粉から受精に至る過程に関与する分子(不稔性誘発因子など)の機能解明が進めば、現在は交配が難しい遠縁の植物を掛け合わせ「種の壁」を超えて新種を作出することが容易になるかもしれません。これらの研究を通じて、未来の作物生産性向上に貢献することを目標とします。

さらに、これまでは、扱う形質を「植物の生殖」に、限定してきましたが、植物科学全体を見渡したとき、われわれの手で、解決できる興味深い研究課題が山積していることから、もっと広く領域横断的な研究を展開することで、作物育種を分子レベルで改変するための幅を広げたいと思っています。

当研究室の教授・渡辺正夫は本学農学部で研究室配属後、故・日向康吉博士(当時東北大教授、のち同大名誉教授)の指導の下、「アブラナ科植物の自家不和合性」について研究をはじめました。博士課程から助手時代には、磯貝彰博士(当時東京大助教、のち奈良先端大・名誉教授)との共同研究により自家不和合性関連遺伝子の同定を経て自身の研究の基礎を構築しました。その後、1997年に岩手大・農学部へ異動(准教授)し、現職(教授)に至るまで一貫して「アブラナ科植物の自家不和合性」及び、それらに関わる形質に関する研究を展開してきました。この間、東京大・高山教授大阪教育大・鈴木教授三重大・諏訪部教授などとの共同研究により、自家不和合性に関して、エポックメイキングな研究成果を得ています(雌雄の自家不和合性因子の同定、雌側自家不和合性因子下流因子の同定、花粉側S対立遺伝子の優劣性分子機構、新規一側性不和合性の雌雄因子の同定など:Nature 2000, Nature 2001, Science 2004, Nature Genet. 2006, Nature 2010a, 2010b, Nature Plants 2016, Nature Plants 2017)。最終的には、「アブラナ科植物の自家不和合性」の分子機構の全容を解明したいと考えています。

渡辺教授にとって「アブラナ科植物の自家不和合性研究」は、研究の軸であるとともに、新規研究テーマを展開するきっかけを与えてくれるものでもありました。「生殖器官特異的遺伝子」・「低分子RNA」の網羅的同定・解析(FEBS Lett. 2002, Genes Genet. Syst. 2004a, 2004b, PCP 2008a, 2008b, PCP 2009, PLoS One 2011, PCP 2013, PCP 2015, GGS 2016)、「QTL解析とゲノム解析の融合」(GGS 2016)、「文理融合による植物分子育種における新領域創成」などを、「アブラナ科植物の自家不和合性」研究と平行して行ってきました。この中で、様々な分野のエキスパートである研究者と共同研究を行い、渡辺教授の領域横断的研究スタイルの基礎となりました。渡辺の師匠である、故・日向康吉博士の言葉に"餅は餅屋"というものがあり共同研究を重視するスタイルが受け継がれています。

現在では本学附属農学研究所の由来を知る人は少なくなりました。研究の背景やつながりは、今までにない新たな展開に繋がることがあります。渡辺教授が現在在籍している生命科学研究科本館の前身は1940年に設置された東北大学附属農学研究所でした。当時、この場所でアブラナ科植物を用いた「ゲノム分析」の研究を精力的に行っていたのが水島宇三郎助教授(後の本学農学部作物遺伝育種学研究室・初代教授)でした。水島博士は前任地の農事試験場において、永松土己博士禹長春博士(当時の室長)とともにBrassica属作物の交雑特性をゲノム構造から導いた「禹の三角形」の解明に寄与しています(U 1935)。「禹の三角形」はBrassica属植物の類縁関係を交雑による染色体の対合で明らかにしたものです。水島教授から日向教授へと繋がるアブラナ科植物の基礎研究、現在可能な技術でさらに領域横断的に進めたいと考えています。

以上、新分野の開設を機にアブラナ科植物を材料とした新機軸を構築しつつ、新たな材料も取り入れつつ新しい時代の「分子育種」にも貢献できる研究室を目指したいと考えています。

詳細は以下を参照下さい。

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