アブラナ属植物に含まれる(B. rapa, B. oleracea, B. nigra, B. napus, B. juncea, B. carinata)のゲノム関係を示した「禹の三角形」。二倍体種であるB. rapa, B. oleracea, B. nigraは自家不和合性。それに対して、それらの2種から構成される複二倍体のB. napus, B. juncea, B. carinataは自家和合性。二倍体であれば、不和合性になる組合せが最大で2つの対立遺伝子。このように倍数性は一般に自殖性。二倍体種は他殖性が多いわけですが、そのメカニズムは不明でした(「禹の三角形」の説明については、エッセンシャル植物生理学などを参考のこと)。 そこで、モデル植物ともいえるArabidopsis属のハクサンハタザオ(二倍体で他殖性)、セイヨウミヤマハタザオ(二倍体で他殖性)、ミヤマハタザオ(複二倍体で自殖性)を材料にして、自家不和合性を制御する雌雄因子(SRKとSP11/SCR)の遺伝子構造、遺伝子発現などを調査し、ミヤマハタザオのSP11/SCR遺伝子発現が抑制されて、自家和合性になっていました。機能型のSP11/SCR遺伝子を導入すると、自家不和合性に復活することでSP11/SCR遺伝子が自家和合性の原因であると証明。ところが、この仕組みでは説明できない系統もあり、その系統はSP11/SCR遺伝子の発現を抑制する低分子RNAが機能することで自家和合性になっていることも証明できました。また、ミヤマハタザオの亜種であるタチスズシロソウ(朝ドラ「らんまん」の牧野富太郎博士が命名)では、低分子RNAが欠失しており、SP11/SCR遺伝子導入で自家不和合性に復帰しました。
このように、花粉側制御因子SP11/SCR遺伝子の発現制御を様々に行うことで、自殖性に深化したのではないかと結論づけられました。この研究成果は、チューリッヒ大、横浜市大、東京大、三重大との共同研究であり、Nature Commun.に英国時間の11月29日に公開されました(Yew et al. (2023) Dominance in self compatibility between subgenomes of allopolyploid Arabidopsis kamchatica shown by transgenic restoration of self incompatibility. Nature Commun. 14: 7618)。Open accessになっていますので、pdfはfree download可能です。引き続き、よい形でのコラボができればと。
わたなべしるす
PS. 本学HPのトップページにプレス発表された資料のpdfがあります。あわせて参考にして下さい。また、研究科のHPにも本件の記事を掲載頂きました。
【研究成果】倍数体植物が他殖性から自殖性に進化するメカニズム解明「Nature Commun.」(11/30)
2023年11月30日 (木)
【研究成果】アブラナ科作物への黒腐病に関連した分子マーカー開発とその利用「Plant Pathol. J.」「J. Plant Pathol.」(8/4)
2023年11月16日 (木)
当研究室の客員教授をして頂いている韓国・順天大・Park教授とは、韓国出張時、JSPS・二国間交流事業等を通じて、共同研究を行っており、2021年にハマダイコンの多様性研究が成果に。今回は、Park教授のプロジェクトにこちらがコラボする形ですが、アブラナ科作物の黒腐病に関連した分子間カーカーの開発、その利用ということで、2つの論文発表となりました。
その2つの論文は「Kim et al. (2023) Molecular marker development for the rapid differentiation of black rot causing Xanthomonas campestris pv. campestris Race 7. Plant Pathol. J. 39: 494-503.」と「Hong et al. (2023) Characterization and distribution of black rot disease causing pathogen-Xanthomonas campestris pv. campestris races of the Jeju island, South Korea. J. Plant Pathol. (in press)」。 病害と植物の相互作用は自家不和合性の自他識別とも比較される認識機構。これからもよい形でコラボできればと思います。
わたなべしるす
【お知らせ】ふくしまサイエンスフェスティバル(福島県立福島高等学校SSH事業)に協力(12/9開催、11/14)
2023年11月14日 (火)
年齢もあるのだろう、たぶん、そう思いたいのだが、いろいろな「忘れ物」が多い。置いたもの、やろうとしていたことなどなど。一方で、今をときめく藤井竜王が3期目を防衛して、八冠を維持。圧巻の強さはどこから来るのか。ちょっとでのよいので分けてほしい。次なるタイトル棋戦は年明けからの第73期王将戦。その挑決リーグも大詰め。今月末には挑戦者が決まるとか。王将戦は年明けから。年明けまでの1.5ヶ月でできることを片付けないと。そんな寒さが一段と厳しくなった今日この頃。 この年末のこの時期になると、SSH事業の運営指導委員を仰せつかっている、福島県立福島高等学校の「ふくしまサイエンスフェスティバル」が開催されます。昨年度からはbeforeコロナと同じ開催形式。12年連続の参加となります。渡辺の企画は「バナナからDNAを抽出しよう」という実験を担当します。今年も福島県立福島高等学校の生徒さんたちがサポートしてくれています。多くの子供さんたちに参加頂ければと思っています。
日時:2023年12月9日(土) 11:00~15:30
場所:福島市子どもの夢を育む施設 こむこむ館
(渡辺の実験は、11:00-11:30, 13:00-13:30, 13:45-14:15の3回実施予定)
↓クリックでポスターのPDF版がダウンロードできます(size=0.78MB)
ポスターにあるとおり、当日は、福島県内の大学、高校なども企画を出しています。もちろん、入場無料。少しでも科学に触れる機会が増えることは、よいことかと思いますので。たくさんの来客をお待ちしております。
わたなべしるす
【研究成果・受賞】日本土壌肥料学会 2023年度愛媛大会における若手口頭発表優秀賞(10/20)
2023年10月20日 (金)
1つ前の記事で記したコロナ禍にてスタートした「ダイズゲノムをベースとした共同研究」。少しずつ成果につながり、日本土壌肥料学会 2023年度愛媛大会において、共同研究者の福島大・菅波先生が発表された「複数形質のGWASの比較によるQTLの特異性・多面性の評価」がる若手口頭発表優秀賞を受賞となりました。HPを見て頂くと分かるとおり、発表者のみでなく、連名での表彰となっており、「若手」とあるのが気恥ずかしいのですが。。
2つの学会での連続での受賞はもちろん初めて。大きな成果につなげるように精進したいと思います。
わたなべしるす
【研究成果・受賞】2023年日本育種学会秋季大会(第144回講演会)における日本育種学会優秀発表賞受賞(10/20)
2023年10月20日 (金)
以前、お知らせの通り、第144回日本育種学会は神戸大学で開催され、「アブラナ科作物の遺伝・育種学の未来像を描く」と題したワークショップで発表する機会を頂きました。この時、共同研究者である福島大・菅波先生が「レガシーデータを活用したダイズの開花期を制御する遺伝子座の探索」と題する発表をして頂き、渡辺も連名となっていました。
この発表が、2023年日本育種学会秋季大会(第144回講演会)における日本育種学会優秀発表賞を受賞したことを報告します。学会発表での受賞は2017年以来で6年ぶりの受賞。コロナ禍でスタートした「ダイズゲノムをベースにした共同研究」もさらに発展できればと思います。
わたなべしるす