飛翔型「科学者の卵養成講座」事務局です。
岩手県立一関第一高等学校の八幡佑奈さんがブログに投稿した質問に堀井明先生から回答をいただきました。
前回の講義(10月14日)では、川添由幸先生と堀井明先生の講義でしたが、先生に質問をしたかった受講生が多く、時間切れになってしまいました。
今回は、先生方のご厚意でご回答いただきました。ありがとうございます。
岩手県立一関第一高等学校の八幡佑奈さんへ
堀井です。
10月14日には一生懸命に話を聞いていただいたようで、ありがとうございます。
あなたの質問に対し、簡単ではありますが、以下のように回答させていただきます。これを読んで、さらに疑問が湧いてくるかもしれません。その時には、遠慮なく、さらなる質問をお願いします。
Q1:なぜ、RNAは転写を間違えるのでしょうか。また、間違ったときに、感知して、アポトーシスを促す物質を放出するなどというようなシステムは無いのでしょうか。
RNAが転写を間違えることもあるかもしれませんが、これは、そのRNA分子に限ったことです。問題になるのは、DNAに間違いが生じた場合です。この場合、「正確に」RNAに転写され、「正確に」タンパクに翻訳されることにより、コンスタントに「異常な」タンパクが産生されます。
DNAに間違いが生じた場合に修復されるメカニズムがあります。細胞分裂に先立ち、DNAのコピーが作られますが、その時に生じた間違いは1000分の1くらいまで修復されます。そのため、10の9乗くらいの塩基がコピーされて1か所くらいで間違いが生じる結果になります。
Q2:one size fits all型では「増殖細胞を殺す薬」となっているのですが、細胞増殖が激しい子供では、薬が標的を見つけることができず、がん細胞以外の細胞を大人よりも多く殺してしまうのではないかと考えました。子供にも使うことができるのでしょうか。
確かに子供の細胞増殖は活発ですが、がん細胞はもっと活発です。細胞培養してみると、多くのがん細胞は平均30時間くらいで細胞分裂します。「30時間ごとに重さが2倍になる」なんている状況を考えてみると、大変なスピードです。もちろん、生まれてくる細胞があれば死んでいく細胞がありますので、こんなスピードではありませんが、正常の成長期の子供よりも圧倒的に速い速度で増殖します。
また、子供の細胞増殖が活発なことにより、抗がん剤治療のあとでダメージを受けた正常組織の回復も促進されます。
Q3:EMTはなぜ、抵抗できるようになったのでしょうか。これも、がん細胞と同じようにRNAが転写を間違った(変異した)からできたのでしょうか。
この質問の「EMTはなぜ、抵抗できる・・・・」の「抵抗」は薬剤抵抗のことと思い回答します。メカニズムとして、まだ未解明ですので、世界中の多くの研究者達が研究しています。私たちも研究しています。
これまでに、「EMTを起こしやすい」ことと「幹細胞」とが密接に関わっていることがわかっています。また、「がん幹細胞」は通常は薬剤抵抗能が高いこと、その理由として、細胞膜で細胞内から不要な分子を放出するためのポンプの役割を果たすABCトランスポーターと呼ばれる分子が高発現していることなどが知られており、がんを促進する経路のNotchシグナル系が活性化していることがEMTや抗がん剤耐性と関係することなどが報告されています。しかし、まだまだ未解明のことが多いため、私達の重要な研究テーマの一つとなっています。
投稿者:事務局