飛翔型「科学者の卵養成講座」事務局です。
秋田県立能代高等学校の佐々木円花さんがブログに投稿した質問に犬竹正明先生からご回答をいただきました。
犬竹先生は、安藤晃先生と同じ研究室でプラズマの研究をされていました。今年度から毎回の講座にも参加されています。
2017.11.21 秋田県立能代高等学校 佐々木円花さんのブログへの回答
(卵事務局 犬竹正明)
1.稲妻はプラズマであるということでしたが、この中で窒素と酸素が化合し窒素化合物ができるということについて、窒素も酸素もイオンとなっている(電子がとれている)状態で化合するのですか。それとも一度プラズマになっているものが再び各原子に戻り化合するのですか。
1.回答:
稲妻など空気中でプラズマが発生した際に、窒素Nと酸素O は解離(単原子状態になること)、電離(イオンになること)や励起(原子核の周りをまわっている軌道電子が活性化した状態(N* やO*など))がおこります。片方の原子が負イオン(N-やO-)になった状態での反応や、またご質問にあるようなNとOの原子同士の反応も含めて非常に複雑な多数の反応が起こっています。また、自動車排ガス中のNOx分解へのプラズマ利用もあります。これらは現在も研究が進められています。
2.トカマク型には安全係数がありますが、ヘリカル型にはそういったものはないのですか。ないとすれば、コイルをねじって作った磁力線には乱れが生じることがないということですか。
2.回答:
トカマク型閉じ込め装置では、ドーナツ状のプラズマが形成されますが、その中を流れるプラズマ電流が作る(ポロイダル)磁場と外部のコイルで作る(トロイダル)磁場が合成され、捩れた磁力線が作られます。安全係数が1とは、トロイダル方向に一回回った時にポロイダル方向にも1回回った状態のことをいいます。プラズマ電流が大きくなって磁力線の捩れ方が大きくなると、トロイダル方向に一回回った時にポロイダル方向には1回以上回転してしまいます(安全係数が1より小さくなる)が、このような場合には電流全体が(巨視的に)不安定になってプラズマが崩壊してしまう(ディスラプション)現象が起きることが知られています。
一方、ヘリカル型ではプラズマ電流は流さずに、外部コイルだけで捩れた磁力線を作っていますので、電流による(巨視的)不安定は起こりません。
電流によってプラズマが巨視的に不安定になる、身近にみられる現象として、ジグザグに折れ曲がる稲妻(雷電流経路)があります。稲妻では、円柱状に流れる雷電流が作る(円周方向)磁場が、地球磁場による(軸方向)磁場に比べて非常に大きく、等価的な安全係数が非常に小さくなるため巨視的に不安定であり、ジグザグになります。
しかし、トカマク型でもヘリカル型でも、「プラズマの乱れ」が大きくなる不安定現象が起きる可能性があります。 それは、(プラズマ全体は巨視的に安定であっても)、磁力線の捩れ方に等しい(共鳴した)波動の振幅(プラズマの乱れ)が大きくなり、磁力線を横切ってプラズマが逃げやすくなる(微視的な)不安定現象です。
この「プラズマの乱れ」を抑制することは長年の難題でしたが、近年、「プラズマ乱れを抑制できる条件 (閉じ込め改善モード)」が発見されました。この発見の結果、「国際熱核融合実験炉:ITER」の建設が、現在フランスで進められています。
ブログの「もし宇宙空間にあるプラズマを使って発電ができるようになれば、大きな推進力で永久に進み続けられるロケットができるかもしれません」とありますが、宇宙空間のプラズマは密度が低すぎて核融合ロケットの燃料には不足です。月面の砂の中には太陽風で運ばれてきた水素やヘリウム3があり、「第2世代の核融合炉」や「地球衝突小惑星の軌道偏向用核融合ロケット」に利用できるでしょう。
大変よく勉強していますね。これからもプラズマへの興味を持ち続けてください。
投稿者:事務局