遺伝の渡辺でございます。先週の土曜日の講義の時は、少々、病み上がりで失礼しました。最後の質疑のところで、座り込むような状態で。。。今週は愛媛・今治に出張して、出前講義などでした。台風18号の関係もあるかも知れないですが、東北と四国では夜温がずいぶん違って、まだまだ寝苦しい、そんな出張でしたが。。。
出張先から、たまごのHPにずいぶん、皆さんからの記事があがっているのを見ましたし、出張からもどり、皆さんのレポートも拝見しました。講義をする内容は、去年までと同じなのですが、手持ちのポンチ絵などを多用して、説明だけではわかりにくい部分について、分かるように挿し絵を入れた分、よかったでしょうか。概ね、講義内容というか、こちらの意図をくんで、理解が為されていたようでした。その点はほっとです。HPに書かれてあった内容、あるいは、こちらがしゃべり足らなかったようなことについて、以降、記しておきます。
まず、さっきまで読んでいた「レポート」について。この講座の最初に話をしたかも知れないですが、高校生には、難しいレベルの講義を聴いてもらい、その上で、それまでに知っている、さらには、その場で考えたことを、どこまでまとめるかということをすることが、このレポートであり、大変さでもあります。受講生によって、それに対応できる幅、分野による得意、不得意などもあるかと思いますが、まず、第一歩は、文章として書いてみること。できるだけ、論理的に。後は、文章とすること。箇条書きにしないこと。文章にすると、途中で分からなくなるかも知れないですが、箇条書きからスタートしても、最後は文章としてまとめること。ここから先は、かなり書いてみないとできないかも知れないですが、どんな順番で書くと、おもしろいと思ってもらえるか、つまり、読み手の気持ちになることですね。そのために、普段から、たまごのHPのまちかどサイエンスなどに、記事を書いて、文章力を上げるということです。普段の学習、部活などがあって、大変かも知れないですが、それでもやってみる、限界まで。それで、世の中が少し変わってくると思います。あとは、そのレポートに書く文字の大きさ。あまりの大きいのも困ったものですが、あまりに小さくて読むのに困るのも困ったもの。講義をしている先生方は、概ね、40代後半から50代だと思ってもらえれば。親の世代でしょうか。もう少し上の方も。小さい文字を読むことに苦労されてないでしょうか。その当たりに対する心遣いがあると、読み手はほっとするわけです。フィギュアスケートの評価ではないですが、「テクニカルメリット」というサイエンスというか、文章としてしっかりかけているか。論理的に。あとは、「アーティスティックインプレッション」で、いかに、きれいに、かっこよく見せるかということになります。こんなことを20minほどでやろうというのは、そもそも無理なのかも知れないですが、少しずつの訓練だと思います。やってみてください。
次に、HPに書かれている記事を見ながら。。気がついたことを。基本、他殖性、自殖性の利点、不利な点をよく理解できていると思います。こちらの説明が届いていたのだと、ほっとしました。あと、皆さんに理解しがたかったのは、他殖性、自殖性を植物が環境に応じて、変化させることができるという点ではないでしょうか。こちらの説明が悪かったですが、ダーウィンの実験は別として、講義で話をした野生トマトと現在のトマトの比較で、野生トマトは基本、自家不和合性です。現在のトマトは、自家和合性です。つまり、他殖性から自殖性に変化したと言うことです。これは、人間による長い間の「栽培化」の過程のどこかで起きたものです。いつ起きたのかを、遺伝子の塩基配列を現存の野生種と栽培種を比較することでおおよそは分かる可能性はありますが、あくまでも推測の域を出ません。現時点でいえることは、トマト類の場合、雌しべ側の因子である「S-RNase」のRNAを加水分解するために必要な活性部位のアミノ酸が「ヒスチジン(His: H):自家和合性系統」--->「アスパラギン(Asn: N):自家和合性系統」に変化していることが、実験的に証明されています。つまり、進化というか、栽培化の過程で、雌しべ側にこの変化が生じて、自家和合性に変化できるわけですが、同時にか、そのあとに、自家受粉でも自殖弱勢がでない、つまり、個体が小さくなったりしないと言うことが、起きているものを人間が選抜したことが、現在の自家和合性で、自殖弱勢が生じないトマトができたと言うことになります。現在の農作物で自家和合性のもの、例えば、イネ、マメ類、ナス科の野菜(トマト、ピーマンなど)などは、上述の様なことが起きたのではと考えられています。もちろん、なぜ、自殖弱勢が起きないようになったのか、それは、現時点では不明です。
自家不和合性が自家和合性になると言うことについて、講義をしたり、書いてきましたが、その逆はということは、これもあるのだと思います。十分なせつめいはできていませんが、渡辺が行ったシロイヌナズナの実験は、逆位(遺伝子の一部がひっくり返ること)を戻すことではない方法で、SP11遺伝子をなおして、自家不和合性にしました。逆位という遺伝子が壊れることが起きたように、それを直すような逆位も、確率的には起きることなので、自家和合性から自家不和合性に変化する可能性もあると思います。
誰の言葉か忘れましたが、進化は強いものが残るのではなくて、その環境に適応したものが残るというのがあったと思います。つまり、植物だけでなく、生き物であるものには、その環境に適応する「可塑性」というのがあります。柔らかさのようなことを意味する言葉ですが、生き物の遺伝子だけでなくて、その遺伝子の機能というか、そのようなことに、ある種のいい「加減さ」があると言うことかと思います。その環境に適応できるようにこれはよいという「加減」を発揮できるということですね。その例ではないですが、雑草の多くは他殖性、あるいは、他殖をしているのだと思います。その結果、子孫は多様性を持つものがあるので、次世代では、次世代の環境に適応できる子孫が残るという仕掛けではないかと思います。本来の生き物とは、そのような賢さがあったのだと思います。植物、動物を含めて。。。植物は動けない分、この可塑性は大きいのかも知れないです。
自己と非自己を区別するというか、そういうことは、被子植物よりも前に、分化している機能です。ゾウリムシはmatingするときに、プラス(+)とマイナス(-)で行ったような。なので、自家不和合性というか、自己と非自己を区別するようなしくみは、生き物にとって多様性を高める仕組みである訳なので、ずいぶんと昔からある仕掛けなのだと思います。
接ぎ木をするという理由は、複雑というか、農業をするという上での問題になります。「桃栗三年柿八年」という言葉があるように、果樹には、一定の樹齢にならないと、花が咲いて結実しません。また、咲き始めの頃(幼木という言い方をします)の果実の性質といわゆる、成木という言い方をしますが、幼木の時代の果実と成木になってからの果実で性質が異なるような場合があります。つまり、接ぎ木をしないで、さし木で増やした場合に、幼木の時代が長くなります。それを少しでも短くするために、接ぎ木をするというのも1つの方策です。また、台木の性質を接穂は影響を受けます。つまり、台木の品種を変えることによって、接穂の成長も変化してきます。そのような色々な理由があって、接ぎ木をします。なお、接ぎ木は、果樹だけでなく、ウリ科のスイカ、メロンなどでも、台木にカボチャなどを使うこともあります。
品種改良には、基本、従来の品種を使います。例えば、イネの品種改良の場合、コシヒカリが多くの品種で、親に使われることが多いです。その理由として、コシヒカリが、良食味、つまり、おいしいという形質を持っていることが評価されていることによります。一方で、背が高いので、今日のような台風が来ると、こけやすいという、よくない形質も持っています。ひとめぼれは、遺伝学的にいえば、3/4がコシヒカリの遺伝子です。コシヒカリと何かの交雑をコシヒカリと交雑しているわけです。つまり、コシヒカリの良食味の形質を取り込み、少しでも背丈を低くなっている品種を選抜した結果だということです。なので、その時代までにこれはよいと思われたものを、その両親にして、次の新しい品種を作ります。もちろん、選ばれる品種は、時代によって、持っている形質が異なります。昔であれば、多収でしたが、今は、良食味、病害抵抗性などが重要視されています。また、雌雄を入れ替える、つまり、花粉と雌しべを逆にしたら、同じものはできません。それから、土曜日の何かのテレビで、ブドウの品種改良の話をしていましたが、交雑では、色々な組合せで、1,000くらいは行って、その種子をまいて、選抜をします。場合によっては、何万という数から、現在の品種が選ばれていることもあります。
今回の講義で、動かない植物の中で、細胞間コミュニケーションが起きているという、今まであまり想像してなかったことがなされているということの一端を理解してもらったのではと思います。植物を見る眼が少しでも変わることがあれば。。。幸いです。
わたなべしるす
PS. 渡辺の研究室のHPにも、先週の講義の記事について、反省文とまではいかないですが、書いてあります。すでに読まれている方もいるかもしれないですが、大学の研究室がどの様になっているかなど、あわせて、ご覧頂ければ、幸いです。
PS.のPS. この記事を書いている途中で、受講生の岩手県立一関第一高等学校・2年八幡佑奈さんから、以下のような質問を頂きました。無理をお願いして、同じような疑問を持っている方がいると思って、HPに記してあります。皆さんの参考になれば、幸いです。
1. スライド10「自家不和合性の定義」右下の写真に「他家受粉(和合)」となっておりますが、「他家受粉=自家不和合性」「自家受粉=自家和合性」ではないのでしょうか。理解不足なので、教えていただけませんか。
自家不和合性の説明のそのスライドの電子顕微鏡写真の左側に、模式図があるはずで、自分の花粉とは不和合性で、他人の花粉を受け付けている、和合性になっているはずです。不和合性とは、仲がよくない。和合性は仲がよいということです。自家不和合性というのは、あくまでも、自殖、つまり、自分の個体の花の花粉をつけたときに、不和合性、つまり、種子ができないということを意味します。文章と図版を見て、考えて見て下さい。
2. 同スライドの自家不和合性の定義に「...(省略)非自己の花粉で受精が成立する現象」と書かれておりますが、非自己であればどのような花粉でもよいのでしょうか。また、よい場合、本来とは違う新しい植物ができてしまいそうですが、見たことがありません。なぜでしょうか。仕組みを教えていただけませんか。
この定義は、あくまでも、同種内のという前提が入ります。それを書いてなかったですね。他の種の花粉であれば、基本、種の障壁があるので、それを乗り越えられない場合には、新種は誕生しません。もちろん、近縁種の場合には、種の障壁を乗り越えて、新しい植物種が誕生していることはあります。例えば、キャベツとハクサイの遺伝子を持った植物があり、それは、セイヨウナタネといって、サラダ油を搾るための重要な油料作物です。
3. スライド15「アブラナ科植物における自家不和合性の自他識別モデル」で自家不和合性なのにもかかわらず、SRKは他家花粉ではなく、自家花粉を受け取っているように認識したのですが、どのような仕組みになっているのでしょうか。
自家不和合性というのは現象です。その現象がどの様な仕掛けで起きているかを説明しているものです。自分の花粉を排除するためには、自分の花粉を認識して、不和合性にする方法と、自分以外の他の全ての花粉を認識して、それらを和合性にする方法の2つの方法が考えられます。理論的には。単純なのは、自分の花粉から出てくる情報(鍵)を、自分の雌しべ(鍵穴)が受け取るという戦略です。これであれば、鍵と鍵穴は、正確に1:1の対応をするはずですから、自己花粉を正確に認識して、その情報を雌しべ内に伝達して、自己花粉を排除することを雌しべが行えばよいわけです。それに対して、他家受粉の場合には、鍵と鍵穴が一致しないので、自己花粉という情報が流れないので、花粉管は侵入できて、種子形成が起きるということです。
●その他植物に関して
1. 課題研究についてです。研究対象がキャベツで、種子から育てているのですがデータがとれる状態になる前に枯れてしまいます。25℃の恒温機内で育て、水は毎朝、肥料は2~3週間に1回のペースで与えております。光合成が不十分なのかと思い、換気をするようにしましたがうまくいきません。何が悪いのでしょうか。
恒温器の中での明るさを計ってみて下さい。単位はLuxでなくて、マイクロアインシュタインという単位の光量子密度計というのだと思います。恒温器内と部屋の中、外の光の量を計ってみると、光量が少ないことは分かると思います。それをできるだけ、カバーして下さい。それから、キャベツを生育させるときの温度ですね。キャベツは、いつの季節に育ちますかということです。基本は、秋から冬のはずで。平地では。一関も寒いですが、秋の終わりまでに栽培が終わるはずです。その頃の気温を考えて見て下さい。25oCというのが、一関の気温から考えて、高いと思いませんか。植物にとっての適温というのがあることも、考えて見て下さい。高くても20oCくらいですね。後は、昼温と夜温を変化させられる恒温器であれば、夜温は、3-5oCくらい、下げる方がよいと思います。
栽培する植物の特性を理解して、栽培することです。春夏秋冬のいつの頃に栽培するかを考えながら。
2. 筑波実験植物園に伺う機会があります。渡辺先生お勧めの植物や、これは絶対に見たほうがいい、というような植物がありましたら教えていただけませんか。植物の有無は自身で確認できますので、植物名のみで差し支えありません。
筑波実験植物園に20年以上前に言ったことがあります。何があったか、あまり覚えていませんが、。。大事なことは、いった季節で、植物の花であったり、展示しているものは違います。また、渡辺は温室にあるようなもの、例えば、ランとか、バナナとか、好きです。でも、それを見る必要があるかといえば。。。それぞれがそれぞれの感性で見ること。しっかり観察することの方が遙かに大事です。
投稿者:事務局