研究経過
【プレスリリース】胚乳の生長を制御する遺伝子を同定(木下班、野々村班、川勝班)
December 9, 2020 11:40 AM
Category:研究成果
main:川勝班, 木下班, 野々村班
研究計画班の木下 哲 教授(横浜市立大学 木原生物学研究所 )らの研究グループは、公募研究班の野々村 賢一 准教授(国立遺伝学研究所)、川勝 泰二 上級研究員(農研機構)らとの共同研究により、デンプン合成を含め胚乳の生長を制御している遺伝子を同定することに成功しました。
イネの胚乳は、花粉がめしべに受粉受精することでその生長を開始します。今回、ポリコーム複合体の構成因子OsEMF2a遺伝子の機能をゲノム編集によって欠損させた変異体で、受精していない子房においても自律的に胚乳が発生して肥大し、デンプン合成過程まで進行することを発見しました(図1)。このことから、受精によって開始される一連の生長過程がOsEMF2aによって抑制されていることが考えられます。
イネの花粉は環境の影響を受けやすく、例えば気温が低い際には花粉が正常に形成されず冷害の主要因になることが知られています。本研究をさらに発展させることで、花粉を用いることなく充実した胚乳(お米)を作ることのできる品種を開発できれば、環境変化に左右されることのない安定したお米の生産が可能になると期待されます。
本研究は、2020年11月25日に『The Plant Cell』に掲載されました。
図1.通常のイネにおける胚乳発生(左)とemf2a変異体における自律的な胚乳発生(右)
emf2a変異体では花粉を受粉しない場合でも、受粉した通常イネと同様に胚乳が肥大し、デンプン粒が形成される。
<発表論文>
Mutation of the imprinted gene OsEMF2a induces autonomous endosperm development and delayed cellularization in rice.
Kaoru Tonosaki, Akemi Ono, Megumi Kunisada, Megumi Nishino, Hiroki Nagata, Shingo Sakamoto, Saku T. Kijima, Hiroyasu Furuumi, Ken-ichi Nonomura, Yutaka Sato, Masaru Ohme-Takagi, Masaki Endo, Luca Comai, Katsunori Hatakeyama, Taiji Kawakatsu, Tetsu Kinoshita.
The Plant Cell. DOI: 10.1093/plcell/koaa006
<その他>
◆2020年12月4日 今回の研究成果が「In Brief」で紹介されました。
EMFasizing the conserved function of Polycomb in rice endosperm development
Sebastien Andreuzza, The Plant Cell
https://academic.oup.com/plcell/advance-article/doi/10.1093/plcell/koaa011/6020264
◆The Plant Cellのブログやツイッターにも紹介されました。
ブログ: https://plantae.org/repressor-of-endosperm-formation-in-rice/
ツイッター: https://twitter.com/ThePlantCell/status/1334152911656525826?s=20.
ぜひご覧ください!
【プレスリリース】異質六倍体であるパンコムギについて、日本品種農林61号などの汎ゲノム解読と進化解析がNature誌とPCP誌に発表されました(瀬々班・辻班)
November 30, 2020 12:21 PM
Category:新聞発表・メディア報道, 研究成果
main:瀬々班, 辻班
異質六倍体であるパンコムギの種分化の研究は、1944年に日本の木原均とアメリカのE.R.シアーズが同時に起源になった種を解明して以来、日本の木原生物学研究所の伝統です。パンコムギ研究の課題は、ゲノムサイズが16 GBと巨大で、かつ異質倍数体であるために、ゲノム解読が困難だったことです。今回、日本の多数の研究者と、国際コムギ10+ゲノムコンソーシャムの共同研究で、日本を代表するパンコムギである農林61号など10品種の染色体レベルの高精度ゲノム解読を報告しました。そして、ゲノムワイド多型解析を行ったところ、2018年に我々が野生種ミヤマハタザオで報告した「ゲノム倍数化が進化の可能性を高める」という結果が、栽培種でも支持されました(http://www.ige.tohoku.ac.jp/prg/plant/research/2018/10/post-29.html)。倍数体種分化は、遺伝子数つまり選択のターゲット数を増やすことで、適応進化を促進するという普遍的なメカニズムが示唆されました。
さらに農林61号ゲノムを解析しました。フロリゲン遺伝子FT1の重複遺伝子のうちで、FT-B1にコピー数増加が見つかり、一方でFT-D1には機能欠失変異が見つかりました。また、トランスポゾン配列がユニークな染色体領域を解析したところ、農林61号にPR-13ファミリーなどのユニークな遺伝子クラスターが見つかりました。こうした結果は、東アジアのパンコムギの配列・適応形質の進化的多様性と育種への応用可能性を示唆します。
図1:国際コムギ10+ゲノムプロジェクトで解読した主なコムギ品種と参加国
国際コンソーシアムにより、世界の代表的なコムギ15品種の高精度ゲノム解読を行った。
日本の研究チームは、「農林61号」の解読を担当した。
図2:日本チームが解読を担当した農林61号
九州から北海道まで広い地域で半世紀以上にわたって栽培されてきた日本を代表する品種。
本プロジェクトでは、京都大学が保存してきた農林61号の系統種子を使用した。現在、ゲノム情報を解読した系統として新しい系統番号LPGKU2305を与えられてナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)・コムギに保存され、各国で栽培試験が行われている。
(左)農林61号の穂(提供:木原生物学研究所)
(右)カナダで試験栽培される農林61号
プレスリリースはこちらです。
https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2020/20201126shimizu_nature.html
<論文情報>
Multiple wheat genomes reveal global variation in modern breeding
Walkowiak et al. Nature (2020). https://doi.org/10.1038/s41586-020-2961-x
De Novo Genome Assembly of the Japanese Wheat Cultivar Norin 61 Highlights Functional Variation in Flowering Time and Fusarium Resistance Genes in East Asian Genotypes
Shimizu et al. Plant and Cell Physiology (2020). https://doi.org/10.1093/pcp/pcaa152
<メディア情報>
2020年11月26日付 日刊工業新聞に掲載されました!
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00579695?twinews=20201126
2020年12月4日付 科学新聞に掲載されました!
https://sci-news.co.jp/topics/4128/
2020年12月6日付 日本経済新聞に掲載されました!
【プレスリリース】生殖過程の核融合の鍵となる、 進化的に保存された核膜タンパク質を同定(西川班、東山班、丸山班)
October 13, 2020 10:57 AM
Category:新聞発表・メディア報道, 研究成果
main:丸山班, 東山班, 西川班
西川班は、丸山班および東山班との共同研究で、陸上植物の生殖過程に必須の現象である細胞核融合の鍵となるタンパク質であるシロイヌナズナGEX1を同定しました。
GEX1は有性生殖過程特異的に発現する核膜タンパク質であり、細胞核融合の中でも特に核膜融合に必須な役割を果たしています。また、GEX1の相同タンパク質が出芽酵母有性生殖過程の核膜融合でも機能しており、有性生殖過程の核膜融合のメカニズムが酵母から植物まで保存されており、真核生物に共通の仕組みであることが示唆されます。
本研究の成果を元に、生殖細胞で細胞核融合が効率良く行われるメカニズムが明らかになると期待されます。
本研究成果は、2020年10月12日に「Frontiers in Plant Science誌」に掲載されました。
図.雌性配偶体形成過程でのGEX1の機能
◆詳細はこちらをご覧ください→新潟大学プレスリリース
著者:Shuh-ichi Nishikawa1, Yuki Yamaguchi2, Chiharu Suzuki2, Ayaka Yabe2, Yuzuru Sato1, Daisuke Kurihara3,4, Yoshikatsu Sato4,5, Daichi Susaki6, Tetsuya Higasiyama4,5,7, and Daisuke Maruyama6(西川周一1、山口友輝2、鈴木千晴2、矢部あやか2、佐藤譲1、栗原大輔3,4、佐藤良勝4,5、須崎大地6、東山哲也4,5,7、丸山大輔6)
(1新潟大学理学部、2新潟大学大学院自然科学研究科、3JSTさきがけ、4名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所、5名古屋大学大学院理学研究科、6横浜市立大学木原生物学研究所、7東京大学大学院理学系研究科)
DOI:10.3389/fpls.2020.548032
【論文発表】フロリゲンによる茎頂メリステムのDNAメチル化制御に関する論文がNature Communicationsに発表されました!
September 12, 2020 6:40 PM
Category:研究成果
main:辻班
sub:辻班
イネ茎頂メリステムのDNAメチル化に関する論文がNature Communicationsに発表されました!茎頂メリステム、フロリゲン、生殖細胞を繋ぐ新しいエピゲノム制御を発見しました。筆頭著者の肥後さんの活躍、たくさんの共同研究者の皆さまに感謝です。ありがとうございました!
Higo, A., Saihara, N., Miura, F., Higashi, Y., Yamada, M., Tamaki, S., Ito, T., Tarutani, Y., Sakamoto, T., Fujiwara, M., Kurata, T., Fukao, Y., Moritoh, S., Terada, S., Kinoshita, T., Ito, T., Kakutani, T., Ko Shimamoto, K., Tsuji, H. (2020) DNA methylation is reconfigured at the onset of reproduction in rice shoot apical meristem. Nature Communications, 11, 4079
https://doi.org/10.1038/s41467-020-17963-2
プレスリリース
ベトナムの野外圃場で栽培したキャッサバの時系列トランスクリプトーム解析の論文がPlant Molecular Biologyに発表されました。
September 12, 2020 6:38 PM
Category:研究成果
main:辻班
sub:辻班
理化学研究所、ベトナム農業遺伝学研究所等との国際共同研究により、東南アジアの野外圃場で栽培したキャッサバにおける時系列トランスクリプトーム解析の論文をPlant Molecular Biologyに発表しました。
キャッサバはデンプン原料として世界的に注目されている作物ですが、品種改良はそれほど進んでいません。キャッサバはタピオカや工業用デンプンの原料となる作物です。貧栄養環境でも旺盛な生産力を示すことから、気候変動に対応した持続的な作物生産や農家の経済的自立を助ける作物として世界的に注目されています。キャッサバの品種改良は非常に重要ですがこれまでうまく進めることが困難でした。交配によって品種改良するためには掛け合わせる植物同士が同時に花を咲かせる必要がありますが、キャッサバは花がいつ咲くのかを制御することが困難だからです。キャッサバが環境に応答してどのように花をつけるのかが理解されればこの問題の解決につながります。
本研究ではキャッサバをベトナムの野外圃場で栽培して栽培期間を通したサンプリングを行い、全遺伝子発現の時系列変動を解明しました。特にフロリゲン遺伝子が異なる野外環境でどのように発現変動しながら花芽形成に至るのかを初めて明らかにしました。本研究の知見は将来的にキャッサバの花の咲く時期を制御可能にすることにつながり、交配育種による優良品種育成に貢献できると期待しています。
技術補佐員の山口さんのBrAD-seq、特任助教の肥後さんがデータの情報解析で活躍しました!
Tokunaga, H., Quynh, D.T.N., Anh, N.H., Nhan, P.T., Matsui, A.,Takahashi, S., Tanaka, M., Anh, N.M., Van D.G., Ham, L.H., Higo, A., Hoa, T.M., Ishitani, M., Minh, N.B.N., Hy, N.H., Srean, P., Thu, V.A., Tung, N.B., Vu, N.A., Yamaguchi, K., Tsuji, H., Utsumi, Y., Seki, M. (2020) Field transcriptome analysis reveals a molecular mechanism for cassava-flowering in a mountainous environment in Southeast Asia. Plant Mol. Biol.Published Online https://doi.org/10.1007/s11103-020-01057-0