研究経過
スイスアルプスの谷間の村で20世紀に誕生したタネツケバナ倍数体新種は、親種のいいとこ取りで生き延びたことを遺伝子発現パターンから示唆 (瀬々班)
September 7, 2020 10:14 AM
Category:研究成果
main:瀬々班
産業技術総合研究所 招聘研究員 瀬々潤(株式会社ヒューマノーム研究所 代表取締役兼任)、横浜市立大学 木原生物学研究所 清水健太郎 客員教授(チューリッヒ大学 教授兼任)、農研機構 孫建強 主任研究員らの研究グループは、東京大学およびドイツの研究機関との共同研究で、タネツケバナ倍数体新種の遺伝子発現パターンを解析し、二倍体の父親と母親の両方の特徴を併せ持つことで、新しい環境で生き残ったことを示唆しました。
この倍数体は、スイスアルプスのウルナーボーデン村で起きた森林伐採と牧草地への土地転用によって、二倍体親種の生息域が重なり、それらの自然交雑によって誕生しました。この新種は三倍体であり、C. insuetaと呼ばれています。C. insuetaは、水際に生息する父親C. amaraと比較的乾燥した場所を好む母親C. rivularisの中間的な生息地に広く分布しています。三倍体という有性生殖がほとんどのぞめない倍数性にも関わらず、葉面上の原基形成という珍しいタイプのクローン繁殖と、親種の中間的な水分環境への適応という性質により、これまでの150年間を生き延びてきました。さらに他の近縁種との交配により、五倍体、六倍体というさらに高次な倍数性を持つ新種の誕生にも貢献したことがわかっていました。
今回の研究で、この三倍体はクローン繁殖と水分環境への適応のために、親種からそれぞれ受け継いだ遺伝子セットを上手くコントロールしてこのような形質を可能にしていることがわかりました。倍数化による新種誕生と、それを可能にする新たな遺伝子発現パターンの解明は、進化を知る上で非常に重要視されています。この論文で使われた手法は今後の研究の進展にも大きく貢献すると期待されます。
本研究はFrontiers in Geneticsに掲載されました。
Figure 1. Habitats and relations among the three Cardamine species. (A) C. insueta (triploid) was naturally formed by hybridization between C. amara (diploid) and C. rivularis (diploid) 100-150 years ago in their natural habitat in Swiss Alps. (B) Conceptual indication of the habitats of three species at Urnerboden: C. amara prefers wet habitats along waterside; C. rivularis prefers meadow; and allotriploid C. insueta can be found between them.
<発表論文>
A recently formed triploid Cardamine insueta inherits leaf vivipary and submergence tolerance traits of parents.
Jianqiang Sun†, Rie Shimizu-Inatsugi†, Hugo Hofhuis, Kentaro Shimizu, Angela Hay, Kentaro K. Shimizu* and Jun Sese* (†: equally contributed, * co-corresponding authors)
共同研究の成果がNatureに掲載されました!
July 16, 2020 11:20 AM
Category:研究成果
main:辻班
sub:辻班
フロリゲンによる花芽分化の開始はいつも茎の伸長の開始と連動しています。名古屋大学の芦苅さん、永井さんらとの共同研究によりイネの茎の伸長が開始されるメカニズムを解明、Natureに論文発表されました。
植物の茎の伸長を制御することは農業上きわめて重要です。例えばイネでは、茎の伸長を大きく促進することは洪水を生き抜く「浮きイネ」を生み出し、一方で茎の伸長を程よく抑制することは「緑の革命」を成功に導きました。しかし茎の伸長がどのように開始されるのかは未解明でした。本研究では茎の伸長のアクセルとブレーキとなる2つの因子を発見し、茎の伸長開始が「アクセルを踏み、ブレーキを解除」することで始まることを解明しました。
私たちは、本領域で研究しているフロリゲンによる花の形成が、イネの茎の伸長と常に連動して開始することに着目して共同研究に参画しました。
研究室の修士2年の吉田綾さんが、精密なサンプリング技術を駆使して丁寧に遺伝子発現を解析し、メリステムにおける花成関連遺伝子と茎伸長関連遺伝子の発現を正確に解析する活躍をしました!
Nagai, K,, Mori, Y., Ishikawa, S., Furuta, T., Gamuyao, R., Niimi, Y., Hobo, T., Fukuda, M., Kojima, M., Takebayashi, Y., Fukushima, A., Himuro, Y., Kobayashi, M., Ackley, W., Hisano, H., Sato, K., Yoshida, A., Wu, J., Sakakibara, H., Sato, Y., Tsuji, H., Akagi, T., Ashikari, M. (2020) Antagonistic regulation of the gibberellic acid response during stem growth in rice. Nature, in press
【プレスリリース】花粉数を制御する遺伝子を発見~精細胞を減らすことが自家生殖種では有利という進化理論を実証~(瀬々班、土松班)
June 8, 2020 2:08 PM
Category:新聞発表・メディア報道, 研究成果
main:土松班, 瀬々班
横浜市立大学 木原生物学研究所 清水健太郎 客員教授(チューリッヒ大学 教授兼任、瀬々班)、千葉大学 土松隆志 客員准教授(東京大学大学院理学系研究科 准教授兼任)、新潟大学 角井宏行 特任助教(前横浜市立大学 特任助教)らの研究グループは、名古屋大学、ドイツ、オーストリアの研究機関を含む国際的な共同研究で、植物の花粉数を制御する遺伝子RDP1を同定しました。
また、ゲノム編集を用いて系統 (品種)間の量的な形質のわずかな差を検出する方法を確立しました。RDP1遺伝子の系統間でのわずかな機能の違いを、この方法により定量的に示すことに成功しました。さらに、ゲノム配列中の変異の頻度を系統間で比較することにより、自家生殖する植物では、精細胞の数つまり花粉の数を減らすことが有利になりうるという進化生物学の理論を裏付けました。
花粉の数を制御することは、効率的な交配のために花粉数を増やしたり、花粉症への対策のために花粉数を減らしたりといった実用化が期待され、農学的な視点からも医学的な視点からも注目を集めています。今後、本研究によって同定されたRDP1遺伝子を利用して植物の花粉数を制御する育種技術の開発が期待されます。
※本研究は『Nature Communications』に掲載されました。(日本時間6月8日18時付オンライン)
図 シロイヌナズナの花の構造 (左)と雄しべのアレキサンダー染色画像(右)。
生きた花粉が紫色に染色されている。野生型と比較するとrdp1変異体の雄しべ内の花粉が顕著に減少していることが観察された。
<発表論文>
Adaptive reduction of male gamete number in the selfing plant Arabidopsis thaliana
Takashi Tsuchimatsu*, Hiroyuki Kakui*, Misako Yamazaki, Cindy Marona, Hiroki Tsutsui, Afif Hedhly, Dazhe Meng, Yutaka Sato, Thomas Städler, Ueli Grossniklaus, Masahiro M. Kanaoka, Michael Lenhard, Magnus Nordborg and Kentaro K. Shimizu (* は共に筆頭著者)
掲載誌: Nature Communications DOI: 10.1038/s41467-020-16679-7
〇詳細はこちらをご覧ください> 横浜市立大学プレスリリース
本研究の成果がメディアにも取り上げられました。
ぜひご覧ください。
〇にいがた経済新聞(2020/7/5日付)
https://www.niikei.jp/38278/
〇日経産業新聞(2020/7/17日付)
にいがた経済新聞との取材の様子
本領域のメンバーが令和2年度文部科学大臣表彰<若手科学者賞>を受賞しました!
June 2, 2020 4:58 PM
Category:受賞関連
main:土松班, 高山班
この度、令和2年度文部科学大臣表彰にて、計画研究(高山班)の藤井壮太 助教(東京大学大学院農学生命科学研究科)ならびに公募研究班の土松隆志 准教授(東京大学大学院理学系研究科)の2名が<若手科学者賞>を受賞されました。
残念ながら今年度はコロナウイルス感染症の影響で授賞式が中止になってしまいましたので、代わりに緊急事態宣言明けの6/2にお2人で記念撮影を行っていただきました。
ダブル受賞、おめでとうございます!
◆藤井 壮太 (東京大学大学院農学生命科学研究科 助教)
受賞業績「植物の多様性進化を決定する生殖分子の研究」
◆土松 隆志 (東京大学大学院理学系研究科 准教授)
受賞業績「植物における適応形質の進化の遺伝的基盤に関する研究」
◆詳細はこちらをご覧ください。
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令和2年度文部科学大臣表彰
【プレスリリース】モノーが提唱したアロステリック制御メカニズムの一端を解明 (上口班)
May 2, 2020 3:09 PM
Category:研究成果
main:上口班
名古屋大学生物機能開発利用研究センターの上口(田中)美弥子教授と竹原清日研究員らの研究グループは、量子科学技術研究開発機構の桜庭俊研究員、名古屋大学シンクロトロン光研究センターの永江峰幸助教らとの共同研究で、いくつかの成長に関わる植物ホルモンの代謝酵素が、植物ホルモンの濃度に応じてタンパク質レベルで巧みに恒常性を制御・維持することで、植物の成長を調整していることを初めて明らかにしました。 今回、構造解析と分子動力学的シミュレーションを組み合わせることにより、植物ホルモンの一つであるジベレリン及びオーキシンの代謝酵素が可逆的に植物ホルモン濃度依存的な多量体構造を形成し、それに伴って活性を上昇させることを見出しました。このような調節は、古くは、モノーのアロステリック酵素として提唱されていた概念ですが、そのシステムが植物ホルモンの可逆的な調整システムとして進化の中で何回か独立して誕生し、共通に進化させてきたことも示唆されました。 この結果により、このような多量体形成を利用して、様々な植物ホルモン応答を人為的に制御できることが期待されます。 図:本研究で明らかにした 代謝メカニズム ジベレリン代謝酵素(GA2ox)及びオーキシン代謝酵素(DAO)は、植物内のジベレリン(GA)やオーキン(IAA)量が多くなると次の反応に必要なGA4やIAAを分子間に結合させ不活化を促進することが示された。その際、gateと名付けた活性中心を覆う蓋のような構造が開閉することで、基質(生成物)が出入りすることも示唆された。 本研究成果は、2020年5月1日付け英国科学誌「Nature Communications」オンライン版に掲載されました。 詳細はこちらをご覧下さい> 【論文情報】 論文タイトル:A common allosteric mechanism regulates homeostatic inactivation of auxin and gibberellin 著者: Sayaka Takehara, Shun Sakuraba, Bunzo Mikami, Hideki Yoshida, Hisako Yoshimura, Aya Itoh, Masaki Endo, Nobuhisa Watanabe, Takayuki Nagae, Makoto Matsuoka, Miyako Ueguchi-Tanaka DOI: 10.1038/s41467-020-16068-0 |