研究経過
【プレスリリース】アジア在来コムギの黄さび病抵抗性の遺伝的基盤を解明 〜木原博士以来収集された在来品種の育種活用へ〜(清水班)
June 9, 2025 9:21 AM
Category:プレスリリース, 論文発表
main:清水班
横浜市立大学木原生物学研究所 清水健太郎客員教授(チューリッヒ大学 進化生物・環境学研究所長・教授兼任)および京都大学農学研究科 那須田周平教授、国際農林水産業研究センター岸井正浩主任研究員らの研究グループは、高精度のゲノム情報と最新の解析手法を用いて在来品種を中心とするアジアのコムギ交配系統の黄さび病抵抗性(図1)を解析し、特にヒマラヤ山脈南側の地域の在来品種のゲノムに黄さび病抵抗性を司る領域があることを解明しました。この発見により、栽培品種にはない遺伝的多様性を持つアジアの在来品種の有用性が示されました。本研究で得られた知見を育種に応用することで、気候変動下においても病害に強いコムギの作出が可能となり、食料の安定供給に貢献できるものと期待されます。
本研究成果は、国際科学誌「Theoretical and Applied Genetics誌」に掲載されました(日本時間2025年6月5日14時)。
図1 コムギ黄さび病の症状。左の写真(Katharina Jung提供):感染程度の低い系統(左)と高い系統(右)の寄せ植え。右の写真(岸井正浩提供):感染程度の異なる葉の例。下方の葉ほど感染程度が高い。
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<論文情報>
タイトル: Unveiling yellow rust resistance in the near-Himalayan region: Insights from a nested association mapping study
著者: Katharina Jung, Reiko Akiyama, Jilu Nie, Miyuki Nitta, Naoto-Benjamin Hamaya, Naeela Qureshi, Sridhar Bhavani, Thomas Wicker, Beat Keller, Masahiro Kishii, Shuhei Nasuda, Kentaro K. Shimizu
【プレスリリース】卵子は精子を食べて受精を成立させる -食作用に類似する受精様式を発見-(齋藤班)
April 24, 2025 11:33 AM
Category:プレスリリース, 論文発表
main:齋藤班
公募研究班・静岡大学農学部の齋藤貴子 助教、福島県立医科大学の井上直和 主任教授、和田郁夫 名誉教授の研究グループは、共焦点顕微鏡や走査型電子顕微鏡を用いた様々なイメージング技術を駆使し、さらに多数の遺伝子改変マウスや培養細胞を活用して、精子と卵子の接着の瞬間から融合までの仕組みを解き明かしました。
本研究では、精子が卵子に接着すると卵子の微絨毛が精子頭部に集合してラメリポディア様の「Oocyte tentacle」を形成することを発見しました。
さらに、複数の融合因子が協調して卵子が精子を食べるかのような「SEAL」 を惹起し、受精が成立することを示しました。
また、SEAL形成後にはJUNOが消失し、多精子受精を防いでいることも示唆されました。
なお、本研究成果は、2025年4月22日に、Cell Pressの発行する国際雑誌「Cell Reports」に掲載されました。また、本論文は掲載号の表紙に採用されました。
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【論文情報】
掲載誌名:Cell Reports
論文タイトル:Noncanonical phagocytosis-like SEAL establishes mammalian fertilization
著者:Naokazu Inoue, Takako Saito, Ikuo Wada
本領域のメンバーが令和7年度科学技術分野の文部科学大臣表彰「若手科学者賞」を受賞しました(元村班)
April 21, 2025 1:33 PM
Category:受賞
main:元村班
公募研究班の元村一基准教授(立命館大学)が令和7年度科学技術分野の文部科学大臣表彰「若手科学者賞」を受賞し、令和7年4月15日に授賞式が執り行われました。
おめでとうございます!
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【プレスリリース】雌雄異株から雌雄同株への進化に伴う性染色体の運命とは―コケ植物の有性生殖システム転換における染色体再編成の解明―(安居班)
April 9, 2025 9:00 AM
Category:プレスリリース, 論文発表
main:安居班
公募研究班の安居佑季子 京都大学 准教授、下川瑛太 同博士課程学生、田中知葉 同修士課程学生(研究当時)、梅谷結佳 同修士課程学生、川村昇吾 同博士課程学生(研究当時)、河内孝之 同教授らの研究グループは、Péter Szövényi スイス・チューリッヒ大学(University of Zurich)博士、嶋村正樹 広島大学准教授、山口勝司 基礎生物学研究所主任技術員、重信秀治 同教授、大和勝幸 近畿大学教授らの研究グループとの共同研究により、半数体世代で性を決定するコケ植物の性染色体が、雌雄異株から雌雄同株へと進化する過程においてどのような運命を辿るのかについて、共通する進化の道筋を明らかにしました。
有性生殖は生物にとって普遍的な繁殖システムですが、その基盤となる性決定は非常に多様です。ヒトを含め、性染色体を持つ生物はメスとオスが別個体として存在する雌雄異体ですが、性染色体を持たず1つの個体中にメス機能とオス機能の両方を合わせ持つ雌雄同体の生物も存在しています。雌雄異株から雌雄同株への進化の過程で性染色体を含む染色体がどのような運命を辿るかは多くが未解明の状態でした。今回、コケ植物苔(タイ)類の雌雄同株アカゼニゴケのゲノムを解読し、比較ゲノム解析を行うことで、アカゼニゴケは祖先が持っていたオスの性染色体由来の染色体を保持する一方で、必須の遺伝子を他の染色体へ移した後にメスの性染色体を消失していることを明らかにしました。さらに、既に報告があった別の雌雄同株のタイ類のゲノムとの比較から、これらの進化は偶然に起きたことではなく、タイ類の性染色体として運命付けられていたことが示唆されました。
本研究成果は、2025年4月2日に、国際学術誌「Cell Reports」に掲載されました。
タイ類の雌雄異株から雌雄同株への進化の過程で起きた染色体再編成
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雌雄異株から雌雄同株への進化に伴う性染色体の運命とは―コケ植物の有性生殖システム転換における染色体再編成の解明―PDF
【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.celrep.2025.115503
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/293079
【書誌情報】
Giacomo Potente, Yukiko Yasui, Eita Shimokawa, Jerry Jenkins, Rachel N. Walstead, Jane Grimwood, Jeremy Schmutz, Jim Leebens-Mack, Tomas Bruna, Navneet Kaur, Raymond Lee, Sumaira Zama, Tomoha Tanaka, Yuka Umeya, Shogo Kawamura, Katsuyuki T. Yamato, Katsushi Yamaguchi, Shuji Shigenobu, Masaki Shimamura, Takayuki Kohchi, Péter Szövényi (2025). Insights into convergent evolution of cosexuality in liverworts from the Marchantia quadrata genome. Cell Reports, 44, 4, 115503.
【プレスリリース】植物の陸上進出は バクテリア由来の遺伝子によって可能になった
February 26, 2025 11:22 AM
Category:プレスリリース, 論文発表
main:榊原班
当領域の計画研究・榊原班の金沢大学理工研究域生命理工学系の小藤累美子助教らの研究グループは、植物が陸上へ進出する鍵となった、生殖細胞を保護する器官が、バクテリア由来の遺伝子によって作られていることを発見しました。植物は、動物と同じように精子と卵を作って生殖します。現在、陸上は植物で覆われていますが、約 5 億年前には、植物は海や湖などの水中でしか生きられませんでした。 植物の陸上進出を可能にしたのは、体の中に水を行き渡らせる器官(葉脈などの水通導 器官)と、卵や精子を乾燥から保護する器官の進化だったと考えられてきました。しか し、どのような遺伝子の変化によってこれらの器官が進化したのかは分かっていませんでした。本研究グループは、一昨年、GRAS転写因子と呼ばれるバクテリア由来の遺伝子が、水通導器官の形成を担っていることを発表しました(石川ら 2023 米国科学アカデミー紀要)。さらに研究を進めた結果、今回、卵や精子を保護する器官も同じ遺伝子によって作られることを発見しました。この結果、植物の陸上化に必要だった三つの主要な器官が、すべてバクテリア由来の遺伝子によって進化したことが明らかになりました。本研究の知見は、植物の陸上化のような、生物の大きな進化には、異なった生物からの遺伝子の移入が重要な役割を果たし得ることを示しています。このことは、遺伝子が少しずつ変化して進化が進むという、従来の進化メカニズムに新たな視点を加えるものです。
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<発表論文>
雑誌 New Phytologist
題名 Physcomitrium LATERAL SUPPRESSOR genes promote formative cell divisions to produce germ cell lineages in both male and female gametangia (ヒメツリガネゴケの LATERAL SUPPRESSOR 遺伝子は雄雌両方の配偶子嚢で形成分裂を促進し生殖細胞系列を生成する)
著者:Yuta Horiuchi, Naoyuki Umakawa, Rina Otani, Yousuke Tamada, Ken Kosetsu, Yuji Hiwatashi, Rena Wakisaka, Saiko Yoshida, Takashi Murata, Mitsuyasu Hasebe, Masaki Ishikawa, Rumiko Kofuji
DOI:10.1111/nph.20372
URL:http://doi.org/10.1111/nph.20372