研究経過

巨大なゲノムをもつ針葉樹4種のゲノム解読に成功 ~時間のかかる林木育種の効率化・加速化へ~

October 16, 2023 8:32 PM

Category:プレスリリース, メディア報道, 論文発表

main:白澤班

かずさDNA研究所と森林総合研究所 林木育種センターは共同で、カラマツ・スギ・ヒノキ・コウヨウザンのゲノムを解読しました。

日本の森林面積は国土の約67%で、世界でも有数の森林国です。スギなどの針葉樹は木材生産などのため、林業用の樹種として広く利用されています。また、気候変動の対策のひとつである二酸化炭素の吸収源としても期待されています。しかし、これらの樹種は世代時間が長いため、品種改良(育種)には膨大な時間を必要とします。そこで、育種に要する期間の短縮を目的として、カラマツ・スギ・ヒノキと、早生樹として注目されているコウヨウザンの4樹種のゲノムを調べました。

最新のDNA配列解析技術を利用して、ヒト(約30億塩基)の3〜4倍、モデル植物であるシロイヌナズナ(約1.3億塩基)の約100倍にあたる85億塩基(ヒノキ)から135億塩基(カラマツ)のDNA配列を高精度に明らかにしました。

これら4樹種のゲノム情報は、育種の効率化・加速化のための遺伝学的な情報の基盤となります。また、ゲノム情報を活用した森林管理やそれぞれの樹種のゲノム編集研究への活用、さらには針葉樹を含む裸子植物から被子植物がどのような進化の途を辿ったのかを知るための手がかりになることが期待されています。

研究成果はJournal of Forest Researchにおいて、10月16日(月)にオンラインで公開されました。

詳しくは、かずさDNA研究所のプレスリリース(プレプリント公開時)をご覧ください。

論文タイトル: Haplotype-resolved de novo genome assemblies of four coniferous tree species.
著者:Shirasawa K, Mishima K, Hirakawa H, Hirao T, Tsubomura M, Nagano S, Iki T, Isobe S, Takahashi M
掲載誌:Journal of Forest Research
DOI: 10.1080/13416979.2023.2267304

メディア報道
2022-12-07 農業協同組合新聞
2022-12-21 林政ニュース

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【プレスリリース】「生殖の壁」をつくるマスター因子の発見 ――種を超えた自在な作物育種へ――(藤井班・伊藤班)

October 10, 2023 10:05 AM

Category:プレスリリース, 論文発表

main:伊藤班, 藤井班

 東京大学大学院農学生命科学研究科の藤井壮太准教授(兼任サントリーSunRiSE研究者)と高山誠司教授らによる研究グループは、奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス領域の伊藤寿朗教授らによる研究グループと共同で、モデル植物のシロイヌナズナから種間の「生殖の壁」をつくるために必要なStigmatic Privacy 2(SPRI2)を同定しました。SPRI2は核内で転写制御因子として、細胞壁を形成するために必要な遺伝子を制御して「生殖の壁」を作り出す機能をもつことが明らかになりました。
 地球上には多様な植物が繁栄しています。植物種はお互いに影響を与えながら進化してきましたが、なかでも種と種の間で花粉がやり取りされることによって起こる間違った生殖、「繁殖干渉」が種の存続に大きなマイナスとなることが近年明らかになってきました。そのため、雌しべにおける種間の「生殖の壁」が防御上重要な意義を果たすと考えられますが、そのようなメカニズムはまったく解明されてきませんでした。SPRI2はそのようなメカニズムを制御するマスター因子として本研究で初めて見出されてきました(図1)。雌しべにおけるSPRI2を人為制御することで新しい作物を作り出す技術へと発展することが期待されます。

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図1:植物の「生殖の壁」とSPRI2について

◆詳細はこちらをご覧ください>東京大学のHPへ

<発表論文>

雑誌 Nature Plants

題名 SHI family transcription factors regulate an interspecific barrier

著者 Sota Fujii†*, Eri Yamamoto†, Seitaro Ito, Surachat Tangpranomkorn, Yuka Kimura, Hiroki Miura, Nobutoshi Yamaguchi, Yoshinobu Kato, Maki Niidome, Aya Yoshida, Hiroko Shimosato-Asano, Yuko Wada, Toshiro Ito, Seiji Takayama*
†同等貢献、*責任著者

DOI 10.1038/s41477-023-01535-5

URL https://www.nature.com/articles/s41477-023-01535-5

【プレスリリース】茎の節間は最後に生まれてくる-茎の発生学への挑戦-

October 2, 2023 12:39 PM

Category:プレスリリース, 論文発表

main:津田班

節と節間の繰り返し構造からなる茎は種子植物一般に見られる器官です。節間は光獲得や花粉や種子の飛散のため、葉や花を押し上げる役割を持ちます。一方、節は葉や根系を繋いで水・養分の交換をおこないます。茎は作物の背丈を決定する器官であることから、穀物の倒伏を防ぐために矮性変異が利用されてきました。このように、植物学・育種学の両面から重要な茎ですが、その形態形成メカニズムの研究はほとんど進んでいません。

公募研究班の津田勝利博士(国立遺伝学研究所)らの研究グループは、イネにおいて熱処理誘導型クローナル解析系を確立し、葉・茎・腋芽を一単位とするファイトマーの構成細胞が各器官へと運命が決定されるタイミングを解析しました。その結果、「発生に先立つファイトマーの確立」→「節になる細胞の出現とそれに伴う葉と茎の運命分岐」→「腋芽の運命確立」→「最後に節間への運命決定がごく少数の細胞で起こる」という、段階的なステップを経て進むことがわかりました。

本研究は、長らく不明であった茎発生において鍵となるイベントとその時系列を明らかにしました。今後分子レベルでの理解をすすめる基盤となり、将来的には理想的な草型設計に向けた茎形質の改良につながることが期待されます。

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【論文タイトル】

Heat-shock inducible clonal analysis reveals the stepwise establishment of cell fates in the rice stem.

【著者】

Katsutoshi Tsuda*, Akiteru Maeno, and Ken-Ichi Nonomura.

【掲載誌】

The Plant Cell

DOI: https://doi.org/10.1093/plcell/koad241

詳しくは遺伝研プレスリリース資料をご覧ください。

https://www.nig.ac.jp/nig/ja/2023/09/research-highlights_ja/pr20230928.html

【プレスリリース】生殖システムの研究を加速する 〜ヒメツリガネゴケの生殖器官・胞子体誘導改良法の確立〜(榊原班・越水班)

September 29, 2023 4:46 PM

Category:プレスリリース, 論文発表

main:榊原班, 越水班

榊原班の立教大学 養老瑛美子助教・榊原恵子准教授の研究グループは、越水班の遺伝学研究所 越水静助教、神奈川工科大学 村田隆教授らとの共同研究により、窒素条件がヒメツリガネゴケの成長と発生に与える影響について調べました。
原糸体から茎葉体形成までは窒素含有培地で培養し、生殖器官および胞子体誘導時に窒素欠乏培地で培養することで、無菌的かつ短期間に効率的に胞子体を発生させることが可能になりました。
多くの方に活用していただきたいと思います。
本研究成果は、英国の国際雑誌「Plant Methods」に2023年9月26日付で公開されました。

<発表論文>
Yoro E, Koshimizu S, Murata T, Sakakibara K.
Protocol: an improved method for inducing sporophyte generation in the model moss Physcomitrium patens under nitrogen starvation.
Plant Methods. 19, Article number: 100 2023 Sep 26.
https://link.springer.com/article/10.1186/s13007-023-01077-z

【プレスリリース】画像解析AIを利用して植物の環境応答解析システムを開発(清水班)

September 27, 2023 11:03 AM

Category:プレスリリース, メディア報道, 論文発表

main:清水班

横浜市立大学木原生物学研究所 清水健太郎 客員教授(チューリッヒ大学 教授兼任)らの研究グループは、エルピクセル株式会社、筑波大学、チューリッヒ大学、農業・食品産業技術総合研究機構、株式会社ヒューマノーム研究所、京都大学、東京大学、金沢大学との共同研究により、野外での植物の状態をモニタリングするAIを利用した画像解析システム(PlantServation)を開発し、色素量の変動を指標として植物の環境応答を解析できる手法を確立しました(図1)。

本研究ではNHKのドラマ、連続テレビ小説「らんまん」のモデルにもなった牧野富太郎博士が名付けたことでも知られるタチスズシロソウなどの植物の画像データを400万枚以上収集し、解析しました。その結果、種間交雑に由来する植物が様々な環境に適応する頑健性をどのように示すのかを解明しました。

地球環境の変動による食糧生産への影響が危惧される中、実験室内ではなく野外の変動環境における植物の環境応答の研究は近年重要視されています。本研究で開発したAIを活用した研究手法は様々な作物や野生植物へ適用が可能で、生態学、進化学、農学などへの貢献が期待されます。

本研究成果は、オンライン国際科学雑誌「Nature Communications」に掲載されました。(日本時間2023年9月22日(金)18時)

動画:野外で生育しているシロイヌナズナ
野外で生育しているシロイヌナズナの画像をPlantServationソフトウェアによって解析した結果

 

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図1 本研究で開発した植物画像解析システムPlantServationの概要

 

◆詳しくはこちら→横浜市立大学プレスリリース

 

◆論文情報

タイトル:Seasonal pigment fluctuation in diploid and polyploid Arabidopsis revealed by machine learning-based phenotyping method PlantServation
著者:Reiko Akiyama, Takao Goto, Toshiaki Tameshige, Jiro Sugisaka, Ken Kuroki, Jianqiang Sun, Junichi Akita, Masaomi Hatakeyama, Hiroshi Kudoh, Tanaka Kenta, Aya Tonouchi, Yuki Shimahara, Jun Sese, Natsumaro Kutsuna, Rie Shimizu-Inatsugi, Kentaro K. Shimizu.
掲載雑誌:Nature Communications
DOI: doi.org/10.1038/s41467-023-41260-3

 

◆メディア報道

2023-9-22 日本経済新聞
2023-9-25 農業共同組合新聞
2023-9-26 bp-Affairs

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