研究経過

【プレスリリース】牧野富太郎博士が命名した植物を使って ダーウィンの研究した自家受精進化の謎を解明 ~新たな植物種の交配など栽培植物の育種の応用へ〜(清水班)

December 11, 2023 9:18 AM

Category:プレスリリース, 論文発表

main:清水班

横浜市立大学 清水健太郎客員教授(チューリッヒ大学教授兼任)および東北大学 渡辺正夫教授らの研究グループは、自家受精する植物が持つ遺伝子の変異を実験的に修復して、自家受精を防ぐ祖先植物のメカニズムを回復することに成功しました。

異なる2種間の雑種由来の倍数体植物では他家受精から自家受精への進化が頻繁に見られることが知られていましたが、そのメカニズムは謎に包まれていました(図1左)。そこで、日本を中心に分布する倍数体植物ミヤマハタザオと、牧野富太郎博士が命名したことでも知られる亜種タチスズシロソウをモデル植物*1として、ゲノム解析と遺伝子導入実験をおこないました。その結果、他家受精植物では低分子RNAを介して片親ゲノム上にある自家受精拒絶システムが抑制されており、遺伝子が1つ変異しただけで自家受精が可能になることを明らかにしました(図1右)。この研究により、自家受精と他家受精のバランスを人為的に調節できる可能性が示され、これまで困難であった植物種の組み合わせでの交配が可能になるなど栽培植物の育種への貢献が期待されます。

本研究成果は、国際科学雑誌「Nature Communications」に掲載されました。(日本時間2023年11月29日19時)

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図1 左:倍数体の自家受精の進化の謎。種間交雑に由来する倍数体種では、自家受精を防ぐ鍵と鍵穴のシステムも倍加するので、自家受精に進化する確率はより低くなると考えられていた。右:今回、低分子RNAが片親ゲノム上のSCR-D遺伝子の発現を抑えていることがわかり、SCR-B遺伝子にだけ変異が生じれば自家受精が可能になることを明らかにした。

◆詳細はこちらをご覧ください>横浜市立大学のHPへ

<論文情報>

タイトル: Dominance in self-compatibility between subgenomes of allopolyploid Arabidopsis kamchatica shown by transgenic restoration of self-incompatibility
著者: Chow-Lih Yew, Takashi Tsuchimatsu, Rie Shimizu-Inatsugi, Shinsuke Yasuda, Masaomi Hatakeyama, Hiroyuki Kakui, Takuma Ohta, Keita Suwabe, Masao Watanabe, Seiji Takayama & Kentaro K. Shimizu
掲載雑誌: Nature Communications
DOI: 10.1038/s41467-023-43275-2

【プレスリリース】タイヌビエのゲノムを高精度解読 ~ 除草剤に抵抗性を持つ水田の雑草タイヌビエの 高精度ゲノム解読に成功~

November 8, 2023 10:30 PM

Category:プレスリリース, 論文発表

main:白澤班

かずさDNA研究所は、京都大学・秋田県立大学と共同で、複数の除草剤への抵抗性を持つ水田の雑草「タイヌビエ」の全ゲノムを高精度に解読しました。

タイヌビエは水田に生える雑草で、防除には除草剤が有効であることが知られています。しかし、近年複数の除草剤に抵抗性を示すものが報告されています。また、水田以外の農耕地でも形が違うタイヌビエが見つかっていることから、今後農業被害が拡大する恐れがあります。

タイヌビエの性質を理解し防除法の開発に役立てるため、かずさDNA研究所は、京都大学、秋田県立大学と共同で、複数の除草剤への抵抗性を持つタイヌビエの全ゲノムの高精度解読を行いました。その結果、タイヌビエのゲノムは、32,337遺伝子を含むゲノムと30,889遺伝子を含むゲノムを合わせ持つ複雑な構造であることが明らかになりました。

今回得られた遺伝子の情報をもとに、今後タイヌビエが除草剤抵抗性を示すようになった原因や新たな除草剤の開発、適切な管理方法の開発が進展することが期待されます。

研究成果は国際学術雑誌 DNA Researchにおいて、11月7日(火)に公開されました。

詳しくはかずさDNA研究所のプレスリリースをご覧ください。

写真:水田に生えるタイヌビエ(秋田県立大学)

論文タイトル:Telomere-to-telomere genome assembly of an allotetraploid pernicious weed, Echinochloa phyllopogon
著者: Mitsuhiko P. Sato,  Satoshi Iwakami, Kanade Fukunishi, Kai Sugiura,  Kentaro Yasuda,  Sachiko Isobe,  Kenta Shirasawa
掲載誌:DNA Research
DOI: 10.1093/dnares/dsad023

メディア報道

2023-11-07 農業協同組合新聞

都市の熱さで植物は赤く進化する ―ヒートアイランドへの急速な適応進化を初めて実証―

October 27, 2023 6:03 PM

Category:プレスリリース, メディア報道, 論文発表

main:白澤班

かずさDNA研究所、千葉大学、東京大学、東京都立大学は、都市の高温ストレス(ヒートアイランド)によって、カタバミの葉の色が赤く変化し高温耐性を獲得していることを発見しました。

都市の雑草は、時として地温が50℃を超える暑い日でも高温に耐えて生きています。
このような「都市の高温」が植物をどう進化させるのかを調べるため、私たちは、世界中の都市や農地に生えている「カタバミ」という植物に注目しました。

東京都市圏の26地点で野外調査をしたところ、都市部では、芝生や農地など緑地に比べ赤い葉のカタバミが多いことがわかりました。緑葉と赤葉の分布の変化は急激で、公園の芝生と住宅街を比べると、数十メートルしか離れていないのに葉の色が大きく異なりました。
次に、都市では赤葉、緑地では緑葉というパターンが高温ストレスへの適応と関連があるかを調べた結果、高温下では赤葉の方が緑葉よりも高い光合成活性を示し成長が良いことがわかりました。
さらに、赤葉は東京の色々な場所で緑葉から変化したことや、世界中の9,561のカタバミの写真を分析することで都市部のカタバミは赤葉の割合が高いことが分かりました。
これらのことから、都市の高温ストレスによってカタバミの葉の色が赤く進化し高温耐性を獲得している可能性が示されました。

今後、高温への適応にかかわる遺伝子が解明されることで、将来温暖化が進んだ環境に適した農産物の開発につながるかもしれません。

詳しくは、プレスリリースおよびみんなでカタバミプロジェクトをご覧ください。

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論文タイトル: From green to red: Urban heat stress drives leaf color evolution.
著者:Y. Fukano, W. Yamori, H. Misu, M. P. Sato, K. Shirasawa, Y. Tachiki, K. Uchida
掲載誌:Science Advances
DOI: 10.1126/sciadv.abq3542

メディア報道

2023-10-21 時事通信社
2023-10-21 日本経済新聞
2023-10-21 朝日新聞
2023-10-24 マイナビニュース
2023-10-26 大学ジャーナルオンライン
2023-10-26 環境ビジネス

巨大なゲノムをもつ針葉樹4種のゲノム解読に成功 ~時間のかかる林木育種の効率化・加速化へ~

October 16, 2023 8:32 PM

Category:プレスリリース, メディア報道, 論文発表

main:白澤班

かずさDNA研究所と森林総合研究所 林木育種センターは共同で、カラマツ・スギ・ヒノキ・コウヨウザンのゲノムを解読しました。

日本の森林面積は国土の約67%で、世界でも有数の森林国です。スギなどの針葉樹は木材生産などのため、林業用の樹種として広く利用されています。また、気候変動の対策のひとつである二酸化炭素の吸収源としても期待されています。しかし、これらの樹種は世代時間が長いため、品種改良(育種)には膨大な時間を必要とします。そこで、育種に要する期間の短縮を目的として、カラマツ・スギ・ヒノキと、早生樹として注目されているコウヨウザンの4樹種のゲノムを調べました。

最新のDNA配列解析技術を利用して、ヒト(約30億塩基)の3〜4倍、モデル植物であるシロイヌナズナ(約1.3億塩基)の約100倍にあたる85億塩基(ヒノキ)から135億塩基(カラマツ)のDNA配列を高精度に明らかにしました。

これら4樹種のゲノム情報は、育種の効率化・加速化のための遺伝学的な情報の基盤となります。また、ゲノム情報を活用した森林管理やそれぞれの樹種のゲノム編集研究への活用、さらには針葉樹を含む裸子植物から被子植物がどのような進化の途を辿ったのかを知るための手がかりになることが期待されています。

研究成果はJournal of Forest Researchにおいて、10月16日(月)にオンラインで公開されました。

詳しくは、かずさDNA研究所のプレスリリース(プレプリント公開時)をご覧ください。

論文タイトル: Haplotype-resolved de novo genome assemblies of four coniferous tree species.
著者:Shirasawa K, Mishima K, Hirakawa H, Hirao T, Tsubomura M, Nagano S, Iki T, Isobe S, Takahashi M
掲載誌:Journal of Forest Research
DOI: 10.1080/13416979.2023.2267304

メディア報道
2022-12-07 農業協同組合新聞
2022-12-21 林政ニュース

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【プレスリリース】「生殖の壁」をつくるマスター因子の発見 ――種を超えた自在な作物育種へ――(藤井班・伊藤班)

October 10, 2023 10:05 AM

Category:プレスリリース, 論文発表

main:伊藤班, 藤井班

 東京大学大学院農学生命科学研究科の藤井壮太准教授(兼任サントリーSunRiSE研究者)と高山誠司教授らによる研究グループは、奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス領域の伊藤寿朗教授らによる研究グループと共同で、モデル植物のシロイヌナズナから種間の「生殖の壁」をつくるために必要なStigmatic Privacy 2(SPRI2)を同定しました。SPRI2は核内で転写制御因子として、細胞壁を形成するために必要な遺伝子を制御して「生殖の壁」を作り出す機能をもつことが明らかになりました。
 地球上には多様な植物が繁栄しています。植物種はお互いに影響を与えながら進化してきましたが、なかでも種と種の間で花粉がやり取りされることによって起こる間違った生殖、「繁殖干渉」が種の存続に大きなマイナスとなることが近年明らかになってきました。そのため、雌しべにおける種間の「生殖の壁」が防御上重要な意義を果たすと考えられますが、そのようなメカニズムはまったく解明されてきませんでした。SPRI2はそのようなメカニズムを制御するマスター因子として本研究で初めて見出されてきました(図1)。雌しべにおけるSPRI2を人為制御することで新しい作物を作り出す技術へと発展することが期待されます。

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図1:植物の「生殖の壁」とSPRI2について

◆詳細はこちらをご覧ください>東京大学のHPへ

<発表論文>

雑誌 Nature Plants

題名 SHI family transcription factors regulate an interspecific barrier

著者 Sota Fujii†*, Eri Yamamoto†, Seitaro Ito, Surachat Tangpranomkorn, Yuka Kimura, Hiroki Miura, Nobutoshi Yamaguchi, Yoshinobu Kato, Maki Niidome, Aya Yoshida, Hiroko Shimosato-Asano, Yuko Wada, Toshiro Ito, Seiji Takayama*
†同等貢献、*責任著者

DOI 10.1038/s41477-023-01535-5

URL https://www.nature.com/articles/s41477-023-01535-5

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