研究経過
【書籍】『植物の超階層生物学』が出版されました(清水班、藤井班)
August 10, 2023 9:32 AM
Category:アウトリーチ活動, 論文発表
main:清水班, 藤井班
計画研究・清水健太郎教授(チューリッヒ大学・横浜市立大学)の研究グループの佐藤安弘上級助手(チューリッヒ大学)らが名古屋大学の村中智明助教と共同で編集した『植物の超階層生物学:ゲノミクス×フェノミクス×生態学でひもとく多様性』が文一総合出版から出版されました。
本書は種生物学会の和文誌シリーズとして刊行され、成果に至る経緯を含めながら最新の研究を日本語で紹介することを狙いとしています。シリーズ最新作の『植物の超階層生物学』はゲノムから進化・生態まで、各階層の第一線の研究者による成果が目白押しの一冊となっています。植物の生殖に関する内容としては、計画研究・藤井壮太准教授(東京大学)らによるGWASからSPRI1同定に至る経緯がゲノミクス編の1つとして紹介されています。また、コラムには計画研究・清水班の畠山剛臣博士(チューリッヒ大学)による倍数体ゲノミクスの技術解説もあります。すでに植物の研究に携わっている方々はもちろんのこと、これから研究を始める学部生・大学院生のみなさんにも、ぜひお手にとって頂けると幸いです。
<書誌情報>
種生物学会編(責任編集:佐藤安弘・村中智明)
『植物の超階層生物学:ゲノミクス×フェノミクス×生態学でひもとく多様性』
文一総合出版, ISBN-13: 978-4829962107
文一総合出版リンク:https://www.bun-ichi.co.jp/tabid/57/pdid/978-4-8299-6210-7/Default.aspx
【 目次 】(著者敬称略)
第1部 ゲノミクス編:ゲノムを読んだら何がわかる?
第1章 ゲノム解読技術の発展と, 野生アズキの耐塩性研究(内藤健)
第2章 ゲノム情報から迫るハワイフトモモの種内多様化プロセス(伊津野彩子)
コラム1 反復配列・トランスポゾンとその検出(伊藤佑)
第3章 植物の雌しべが花粉を選び分けるしくみ(藤井壮太)
第4章 大量ゲノム情報時代の植物育種(矢部志央理)
第2部 フェノミクス編:植物を調べつくす方法
第5章 なぜ青いバラは咲かないのか -アントシアニンによる多彩な花色の発現機構-(吉田久美)
第6章 接木の科学によって, 技術をさらに使いこなす(野田口理孝)
第7章 赤外分光法によるヤセイカンランのクチクラの構造解析 -物理化学者による非破壊計測の試み-(羽馬哲也・関功介)
コラム2 クチクラワックスを介した花芽防御機構の標高分化 -春先のマイルドな凍結ストレスへの繁殖器官の適応-(湯本原樹・工藤洋)
第8章 作物生産科学におけるC3型個葉光合成とその変動光応答(田中佑)
第9章 ウキクサを光らせて概日時計を視る(村中智明)
第3部 ノウハウ編:こっそり教えるテクニック
第10章 植物におけるゲノムワイド関連解析の落とし穴(山本英司)
コラム3 倍数体ゲノムのバイオインフォマティクス(畠山剛臣)
第11章 植物3次元形態のデータ化, 定量化, モデル化(野下浩司)
コラム4 画像情報に基づく植物・植生の判別とその発展 -深層学習による技術発展を中心に-(渡部俊太郎・大西信徳・伊勢武史)
コラム5 ゲノム解析の前提となる分子生物学の基礎知識(村中智明)
【プレスリリース】「性染色体進化の定説」を覆す「その2」~六倍体である栽培柿の高精度全ゲノム解読と果実・性別の進化(赤木班、白澤班)
July 12, 2023 10:41 AM
Category:プレスリリース, 論文発表
main:白澤班, 赤木班
このたび岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域(農)の赤木剛士 教授、ならびにかずさDNA研究所植物ゲノム・遺伝学研究室 白澤健太 室長らの研究グループは、六倍体である栽培柿の主要品種「太秋」の高精度全ゲノム配列を解読しました。カキ属の二倍体種は明確なオス・メス個体が存在する「雌雄異株(dioecy)」ですが、六倍体の栽培柿はその倍数性進化の中で一本の木の中に「雄花・雌花」の両者を着生する「雌雄異花同株(monoecy)」を成立させています。本研究では、栽培柿の六倍体化と同期してY染色体の性決定遺伝子OGIが不活化し、種の成立に強いボトルネックが生じるとともに、この不活化したOGIを有する「壊れた性染色体」においても、過去の「機能的な性染色体のゲノム特性を引きずる」ことで、現在進行形の早い染色体進化が続いていることを明らかにしました。
動植物を問わず、Y染色体には対となるX染色体と全く異なる構造をした領域(MSYと呼ばれる)があり、このMSYの極めて早い進化は、根本的な性決定以外の「オスらしさ(性的二型性と呼ばれる)」を補完するためであるというのが従来の定説でした。しかし、今回の結果は、この定説とは方向性の違う新しい説を唱えるものであり、先日のキウイフルーツにおける報告(リンク)と同様に、植物の性染色体進化が性的二型性とは独立した「何らかのゲノム自体の動態」によって極めて速い進化を遂げていることを示唆したものになります。
本研究成果は、英国の科学雑誌「Molecular Biology and Evolution」に掲載されました。
論文タイトル:Ongoing rapid evolution of a post-Y region revealed by chromosome-scale genome assembly of a hexaploid monoecious persimmon (Diospyros kaki)
著者:Ayano Horiuchi, Kanae Masuda, Kenta Shirasawa, Noriyuki Onoue, Naoko Fujita, Koichiro Ushijima, Takashi Akagi*
掲載誌:Molecular Biology and Evolution
DOI:https://doi.org/10.1093/molbev/msad151
(岡山大のプレスリリースは果実の進化についても同時に載せています)
マツタケゲノムの完全解読~ 希少化するマツタケの保全に向けて ~
July 6, 2023 9:31 AM
Category:プレスリリース, メディア報道, 論文発表
main:白澤班
白澤班(かずさDNA研究所)と東京大学大学院農学生命科学研究科は、共同でマツタケのゲノムを解読しました。
秋の高級食材として知られるマツタケは、近年生息地の環境悪化などにより収穫量が減少しています。
マツタケは生きた樹木の根に共生するため、未だ人工栽培に至っておらず、生息域外保全も難しい状況にあります。
本研究では、最新のロングリード配列解析装置を使って、マツタケがもつ13本の染色体の塩基配列(合計1.6億塩基対)と、ミトコンドリアの環状DNA(7.6万塩基対)を端から端までひとつづきで決定することに初めて成功しました。
そして、マツタケが21,887個の遺伝子をもつこと、ゲノムの71.6%は転移因子などのリピート配列が占めることを明らかにしました。
解読されたゲノム情報により、マツタケの生態が解明され保全につながることが期待されます。さらなる遺伝子解析により、マツタケの大量生産や人工栽培への道が拓かれることが望まれます。
研究成果は国際学術雑誌 DNA Researchにおいて、4月25日(火)にオンライン公開されました。
論文タイトル: Telomere-to-telomere genome assembly of matsutake (Tricholoma matsutake)
著者:Hiroyuki Kurokochi, Naoyuki Tajima, Mitsuhiko P. Sato, Kazutoshi Yoshitake, Shuichi Asakawa, Sachiko Isobe, Kenta Shirasawa
掲載誌:DNA Research
DOI: 10.1093/dnares/dsad006
詳しくは、かずさDNA研究所プレスリリースをご覧ください。
メディア報道
2023-05-09 時事通信
2023-05-10 日経新聞
2023-05-10 農業協同組合新聞
2023-05-23 NHK
2023-05-24 テレビ朝日
2023-05-29 TBS
2023-05-30 読売新聞
2023-06-05 客観日本
2023-06-10 産経新聞
2023-06-12 Science Japan
2023-06-23 日経サイエンス
日本を代表するトウガラシ「鷹の爪」の全ゲノムを解読 ~多様なトウガラシを生み出すための基盤に~
July 6, 2023 9:12 AM
Category:プレスリリース, メディア報道, 論文発表
main:白澤班
白澤班(かずさDNA研究所)は、近畿大学、京都大学、国立遺伝学研究所と共同で日本を代表するトウガラシのひとつ「鷹の爪(タカノツメ)」のゲノムを解読しました。
南米原産のトウガラシは、室町時代後期に日本に伝わり、各地でさまざまな地域品種が誕生しています。「鷹の爪」は江戸時代から栽培されていた在来系統のひとつですが、数あるトウガラシの中でも「鷹の爪」が香辛料として人気を博した理由や、どのような経緯で日本全国に広まったのかはわかっていません。
今回、「鷹の爪」の全ゲノムを解読し、12本の染色体のDNA配列(合計30億塩基対)を高精度に決定しました。そして、「鷹の爪」以外の14系統のトウガラシのゲノム情報と比較して、染色体構造の違いや塩基配列の違いを多数明らかにしました。
これらの情報から、「鷹の爪」が日本で広がった経緯が明らかになるかもしれません。さらに、「鷹の爪」がもつ強い抗ウイルス活性の利用や、多様なトウガラシを生み出すための品種改良が進むと期待されます。
研究成果は国際学術雑誌 DNA Research において、12月25日(日)にオンライン公開されました。
詳しくは、かずさDNA研究所プレスリリースをご覧ください。
論文タイトル:Chromosome-scale genome assembly of a Japanese chili pepper landrace, Capsicum annuum 'Takanotsume'
著者:Kenta Shirasawa, Munetaka Hosokawa, Yasuo Yasui, Atsushi Toyoda, and Sachiko Isobe
掲載誌:DNA Research
DOI: 10.1093/dnares/dsac052
メディア報道
2023-01-11 NEWACAST
2023-01-12 農業協同組合新聞
2023-01-24 日刊工業新聞
2023-03-02 読売新聞
日本のモウソウチクは、種子ではなく、 株か地下茎(栄養体)で、海を越えて伝播してきた! (井澤班)
July 3, 2023 12:46 PM
Category:論文発表
main:井澤班
計画研究班の井澤教授(東京大学)らの研究グループは東京農業大学との共同研究により、中国15地域由来のモウソウチクと鹿児島に渡来したと伝わる日本のモウソウチクの全ゲノム配列解析により、解析した全サンプルはクローン(単一個体由来の栄養生殖個体)であることを明らかにしました。
さらにヘテロ接合座位に着目した新規ゲノム解析手法により、文献記録や従来解析手法では不明であった系統関係を明らかにし、中国・福建省の竹が日本に由来したと推定しました。
本発表はクロ―ナル植物のゲノム多様性に関する重要な新規な知見であり、この新規解析手法は他のクロ―ナル植物のゲノム多様性研究への応用が期待されます。
図1 中国、日本の全18サンプルのモウソウチクのヘテロ接合、変異型ホモ接合のサンプル組み合わせ
縦軸のJAPAN~RH27はサンプル名を表す。JAPANは日本に最初に導入されたと考えられているモウソウチクの系統。Kikkoは日本のキッコウチク、EAST、MIDDLE、WEST、SOUTH-A、SOUTH-Bは中国サンプルの地域分類。 「ヘテロ接合のサンプル組み合わせ」、「変異型ホモ接合のサンプル組み合わせ」ともに、上位20の組み合わせのみを図示。
◆詳細はこちらをご覧ください>東京大学のHPへ
<発表論文>
雑誌 BMC Genomics
題名 High genome heterozygosity revealed vegetative propagation over the sea in Moso bamboo
著者 Norihide Nishiyama, Akihisa Shinozawa, Takashi Matsumoto, Takeshi Izawa*(*責任著者)
URL https://bmcgenomics.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12864-023-09428-9