研究経過
【プレスリリース】雌雄異株から雌雄同株への進化に伴う性染色体の運命とは―コケ植物の有性生殖システム転換における染色体再編成の解明―(安居班)
April 9, 2025 9:00 AM
Category:プレスリリース, 論文発表
main:安居班
公募研究班の安居佑季子 京都大学 准教授、下川瑛太 同博士課程学生、田中知葉 同修士課程学生(研究当時)、梅谷結佳 同修士課程学生、川村昇吾 同博士課程学生(研究当時)、河内孝之 同教授らの研究グループは、Péter Szövényi スイス・チューリッヒ大学(University of Zurich)博士、嶋村正樹 広島大学准教授、山口勝司 基礎生物学研究所主任技術員、重信秀治 同教授、大和勝幸 近畿大学教授らの研究グループとの共同研究により、半数体世代で性を決定するコケ植物の性染色体が、雌雄異株から雌雄同株へと進化する過程においてどのような運命を辿るのかについて、共通する進化の道筋を明らかにしました。
有性生殖は生物にとって普遍的な繁殖システムですが、その基盤となる性決定は非常に多様です。ヒトを含め、性染色体を持つ生物はメスとオスが別個体として存在する雌雄異体ですが、性染色体を持たず1つの個体中にメス機能とオス機能の両方を合わせ持つ雌雄同体の生物も存在しています。雌雄異株から雌雄同株への進化の過程で性染色体を含む染色体がどのような運命を辿るかは多くが未解明の状態でした。今回、コケ植物苔(タイ)類の雌雄同株アカゼニゴケのゲノムを解読し、比較ゲノム解析を行うことで、アカゼニゴケは祖先が持っていたオスの性染色体由来の染色体を保持する一方で、必須の遺伝子を他の染色体へ移した後にメスの性染色体を消失していることを明らかにしました。さらに、既に報告があった別の雌雄同株のタイ類のゲノムとの比較から、これらの進化は偶然に起きたことではなく、タイ類の性染色体として運命付けられていたことが示唆されました。
本研究成果は、2025年4月2日に、国際学術誌「Cell Reports」に掲載されました。
タイ類の雌雄異株から雌雄同株への進化の過程で起きた染色体再編成
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雌雄異株から雌雄同株への進化に伴う性染色体の運命とは―コケ植物の有性生殖システム転換における染色体再編成の解明―PDF
【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.celrep.2025.115503
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/293079
【書誌情報】
Giacomo Potente, Yukiko Yasui, Eita Shimokawa, Jerry Jenkins, Rachel N. Walstead, Jane Grimwood, Jeremy Schmutz, Jim Leebens-Mack, Tomas Bruna, Navneet Kaur, Raymond Lee, Sumaira Zama, Tomoha Tanaka, Yuka Umeya, Shogo Kawamura, Katsuyuki T. Yamato, Katsushi Yamaguchi, Shuji Shigenobu, Masaki Shimamura, Takayuki Kohchi, Péter Szövényi (2025). Insights into convergent evolution of cosexuality in liverworts from the Marchantia quadrata genome. Cell Reports, 44, 4, 115503.
【プレスリリース】植物の陸上進出は バクテリア由来の遺伝子によって可能になった
February 26, 2025 11:22 AM
Category:プレスリリース, 論文発表
main:榊原班
当領域の計画研究・榊原班の金沢大学理工研究域生命理工学系の小藤累美子助教らの研究グループは、植物が陸上へ進出する鍵となった、生殖細胞を保護する器官が、バクテリア由来の遺伝子によって作られていることを発見しました。植物は、動物と同じように精子と卵を作って生殖します。現在、陸上は植物で覆われていますが、約 5 億年前には、植物は海や湖などの水中でしか生きられませんでした。 植物の陸上進出を可能にしたのは、体の中に水を行き渡らせる器官(葉脈などの水通導 器官)と、卵や精子を乾燥から保護する器官の進化だったと考えられてきました。しか し、どのような遺伝子の変化によってこれらの器官が進化したのかは分かっていませんでした。本研究グループは、一昨年、GRAS転写因子と呼ばれるバクテリア由来の遺伝子が、水通導器官の形成を担っていることを発表しました(石川ら 2023 米国科学アカデミー紀要)。さらに研究を進めた結果、今回、卵や精子を保護する器官も同じ遺伝子によって作られることを発見しました。この結果、植物の陸上化に必要だった三つの主要な器官が、すべてバクテリア由来の遺伝子によって進化したことが明らかになりました。本研究の知見は、植物の陸上化のような、生物の大きな進化には、異なった生物からの遺伝子の移入が重要な役割を果たし得ることを示しています。このことは、遺伝子が少しずつ変化して進化が進むという、従来の進化メカニズムに新たな視点を加えるものです。
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<発表論文>
雑誌 New Phytologist
題名 Physcomitrium LATERAL SUPPRESSOR genes promote formative cell divisions to produce germ cell lineages in both male and female gametangia (ヒメツリガネゴケの LATERAL SUPPRESSOR 遺伝子は雄雌両方の配偶子嚢で形成分裂を促進し生殖細胞系列を生成する)
著者:Yuta Horiuchi, Naoyuki Umakawa, Rina Otani, Yousuke Tamada, Ken Kosetsu, Yuji Hiwatashi, Rena Wakisaka, Saiko Yoshida, Takashi Murata, Mitsuyasu Hasebe, Masaki Ishikawa, Rumiko Kofuji
DOI:10.1111/nph.20372
URL:http://doi.org/10.1111/nph.20372
【プレスリリース】アブラナ目の生体防御を担う細胞の形成に 気孔形成因子が転用されていた ~植物の特殊な機能を持つ細胞への進化の謎解明へ~ 野菜の味の改変や二酸化炭素吸収能を高めた作物の開発に期待(伊藤班)
February 25, 2025 11:56 AM
Category:プレスリリース, 論文発表
main:伊藤班
当領域の計画研究班・奈良先端科学技術大学院大学の伊藤寿朗教授、白川一助教らの論文"Co-option and neofunctionalization of stomatal executors for defence against herbivores in Brassicales"がNature Plants 誌に掲載されました。詳しくは下記よりご覧ください。
Nature Plants
https://www.nature.com/articles/s41477-025-01921-1
オープンアクセス
https://rdcu.be/ea16E
News and Views (解説記事)
Finding factors that enforce the multifaceted functions of FAMA
https://www.nature.com/articles/s41477-024-01890-x
プレスリリース
アブラナ目の生体防御を担う細胞の形成に気孔形成因子が転用されていた
~植物の特殊な機能を持つ細胞への進化の謎解明へ~
野菜の味の改変や二酸化炭素吸収能を高めた作物の開発に期待
http://www.naist.jp/pressrelease/250221.pdf
【プレスリリース】花を咲かせる時期を遅延させる新規低分子化合物を発見 春化に関わる遺伝子の脱抑制の機構を解明 ~植物の成長タイミングを自在に操作し、環境の変化に耐える作物を得る技術開発へ~(伊藤班)
February 20, 2025 10:38 AM
Category:プレスリリース, 論文発表
main:伊藤班
当領域の計画研究班・奈良先端科学技術大学院大学(学長:塩﨑一裕)先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域の伊藤寿朗教授と白川一助教らは、植物が冬の低温にさらされることにより、開花の準備を始める春化(注1)という現象について、この春化の抑制に関わる遺伝子の働きを促進することにより、花を咲かせる準備時期を遅延させる脱春化誘導化合物(Devernalizer、DVRs)を世界で初めて同定しました。さらに、モデル植物のシロイヌナズナを使った実験により、DVRsが遺伝子に作用する機構を分子レベルで解明しました。
植物が花を咲かせる時期を促進させる研究は多く行われてきましたが、花を咲かせるためのプログラムを一旦停止して開花時期を遅らせる仕組みはほとんどわかっていませんでした。研究グループは、花を咲かせる時期を遅延させる新規低分子化合物を探索し、特定の分子構造の化合物が春化の抑制に関わる遺伝子の働きを促進することをつきとめ、DVRsを同定しました。
これらの化合物は、植物が花を咲かせる時期を遅延させる仕組みの理解のみならず、人為的に植物が花を咲かせる時期を遅延させる技術の開発にも繋がります。
本研究成果は、Communications Biology誌8巻1号に 2025年1月22日に公開されました(DOI:10.1038/s42003-025-07553-7)。
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【掲載論文】
タイトル:Small molecules and heat treatments reverse vernalization via epigenetic modification in Arabidopsis
著者:Nana Otsuka1, Ryoya Yamaguchi1, Hikaru Sawa1, Naoya Kadofusa2, Nanako Kato2, Yasuyuki Nomura3, Nobutoshi Yamaguchi1, Atsushi J. Nagano3,4, Ayato Sato2, Makoto Shirakawa1*, Toshiro Ito1*
1:奈良先端科学技術大学院大学
2:名古屋大学
3:龍谷大学
4:慶應義塾大学
掲載誌:Communications Biology
DOI:10.1038/s42003-025-07553-7
植物受精卵の核合一過程における転写動態を解明 〜顕微授精法と1細胞トランスクリプトーム解析によるアプローチ〜(井澤班・越水班)
February 13, 2025 2:39 PM
Category:論文発表
main:井澤班, 越水班
東京大学農学生命科学研究科の戸田絵梨香特任研究員と井澤毅教授、東京都立大学理学研究科の木下温子助教と岡本龍史教授、東京大学理学系研究科の東山哲也教授、国立遺伝学研究所の越水静助教およびウェルグリーン・アイ株式会社の矢野健太郎博士らの研究グループは、植物受精卵の核合一過程における経時的な遺伝子発現プロファイルとその父母アリル依存性について明らかにしました。
本研究では、イネ受精卵の時系列トランスクリプトーム解析から、卵細胞と比較して受精後に発現上昇・低下する遺伝子群の核合一過程における発現パターンを明示しました(図A)。さらに父母アリル間の解析から、雌雄核の融合時期に父性アリルの転写が開始することや、受精卵の核合一過程において、母方の転写産物に偏った状態から両親アリルに由来する発現へと移行するようすを捉えることに成功しました(図B)。これら研究成果により、植物受精卵の初期発生機構を司る遺伝子の機能解明に向けた研究の進展が期待されます。
本研究成果は、「Development」誌に2025年1月27日付で掲載されました。
図.植物受精卵の核合一過程における遺伝子発現変動 (A)と父母アリルの寄与 (B)
図の一部は、CC BY 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/) に基づき、部分的に改変して使用した。
<発表論文>
雑誌:Development
題名:Transcriptional dynamics during karyogamy in rice zygotes
著者:Erika Toda*, Shizuka Koshimizu, Atsuko Kinoshita, Tetsuya Higashiyama, Takeshi Izawa, Kentaro Yano, Takashi Okamoto
DOI:10.1242/dev.204497