研究経過

植物の遺伝子制御を「目で見える」形に:~新しい実験手法で植物研究の効率化に貢献~(元村班)

November 19, 2024 10:39 AM

Category:論文発表

main:元村班

公募研究班の立命館大学・元村一基研究グループは、植物の重要な遺伝子制御メカニズムである「RNAサイレンシング」を、簡単に評価できる実験手法を考案しました。この成果は2024519日、国際学術誌「Plant Molecular Biology」に掲載されました。

 

研究のポイント

・植物の遺伝子制御の活性を「赤紫色素」で可視化・評価する手法を考案

・高価な実験機器を必要とせず、短時間で結果を確認可能

・生殖研究など、幅広い分野での活用に期待

 

研究の概要

RNAサイレンシングは、小さなRNAsmall RNA)が特定の遺伝子の働きを抑制する仕組みで、植物生殖組織の発生や、両性花における生殖隔離現象など、様々な現象に関わっています。従来、この仕組みを調べるには、蛍光タンパク質(GFP)などを使用する必要があり、高価な顕微鏡や複雑な実験手順が必要でした。

元村らは、食品着色料としても使用される赤紫色の天然色素「ベタレイン」を作り出す遺伝子カセット"RUBY"を活用。これを使うことで、RNAサイレンシングの働きを「目で見える形」で簡単に評価できる手法の開発に成功しました。本手法は、肉眼で遺伝子抑制活性の程度が観察可能であり、蛍光顕微鏡などの機器が不要です。更に短時間での定量評価が低コストで実施可能であるという、多くのメリットを備えています。この新しい実験手法により、生殖メカニズムを含む植物の遺伝子制御研究がより効率的に進められることが期待されます。

本研究は国際的にも高く評価され、遺伝子研究ツールの提供プラットフォームAddgene20周年記念の一環として、科学誌「Nature」でも紹介されました。

https://www.nature.com/articles/d41586-024-03152-4

 

論文情報

タイトル:Straightforward and affordable agroinfiltration with RUBY accelerates RNA silencing research

著者:Tabara M, Matsumoto A, Kibayashi Y, Takeda A, Motomura K.

掲載誌:Plant Molecular Biology2024519日付)

DOI: 10.1007/s11103-024-01463-8

 

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. 本研究の概要

A) RUBYを用いた定量系の模式図。ベタレイン色素が溜まったエリアを破砕して吸光度を測ることでRUBY遺伝子カセットの発現量が定量できる。

B) RUBY遺伝子カセットと、invertet-repeat (IR)というRUBYの発現を抑制するDNAを同時に打ち込んだタバコ葉。

C) RUBY遺伝子を抑制しないIR-GFPに比べ、RUBY遺伝子を抑制するIR-GTIR-CYPを同時に打ち込んだときは、ベタレイン色素由来の吸光度が大きく減少した。この吸光度はRUBY遺伝子発現量と強く相関した。

図はCC BY-NC-ND 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/) に基づき引用した

【書籍】Rice: Methods and Protocolsが出版されました(川勝班、津田班)

November 18, 2024 1:03 PM

main:川勝班, 津田班

公募研究・川勝泰二上級研究員(農研機構)が編集した"Rice: Methods and Protocols"Methods in Molecular Biologyシリーズ)が出版されました。

 

本書はSpringer Nature社のMethods in Molecular Biologyシリーズとして刊行され、タイトルに関連した実験における各ステップの手順が詳細に記述されたプロトコール論文集として構成されています。各ステップのコツがまとめられていることも本書の特徴です。本領域からは、公募研究・川勝らが「磁気ビーズを用いたRNA抽出法」、「CUT&RUNに用いるpAG-MNaseの簡易調製法」、「試験管内で転写因子が結合する領域を同定するDAP-seqライブラリー調製法」について、公募研究・津田勝利助教(遺伝研)が「クロマチン免疫沈降法」について執筆しています。イネを材料としたプロトコールとして記述されていますが、ほとんどのプロトコールは様々な植物種に適用できるため、イネ研究者だけでなく、多くの植物研究者の方に利用していただけると幸いです。

 

<書誌情報>

Taiji Kawakatsu (Eds)

Rice: Methods and Protocols (Methods in Molecular Biology, volume 2869)

Humana Press

eBook ISBN: 978-1-0716-4204-7

DOI: https://doi.org/10.1007/978-1-0716-4204-7

 

<本領域参画者が執筆したプロトコール論文>

Yoshino K and Kawakatsu T (2025) Total RNA extraction from rice vegetative tissues using magnetic beads. Methods in Molecular Biology 2869:7-13

Kawakatsu T (2025) Expression and purification of pAG-MNase for CUT&RUN. Methods in Molecular Biology 2869:147-155

Tsuda K (2025) Chromatin immunoprecipitation from shoot apices and young panicles of rice. Molecular Biology 2869:157-168

Kawakatsu T (2025) In vitro genome-wide identification of transcription factor binding sites. Molecular Biology 2869:169-182

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【プレスリリース】生物多様性の力で虫害を防ぐ 〜混ぜて植えるべき植物の遺伝子型ペアをゲノム情報から予測〜(清水班)

October 16, 2024 1:19 PM

Category:プレスリリース, 論文発表

main:清水班

横浜市立大学木原生物学研究所 清水健太郎客員教授(チューリッヒ大学 研究所長・教授兼任)および北海道大学大学院地球環境科学研究院 佐藤安弘助教、龍谷大学農学部 永野惇教授(慶應義塾大学先端生命科学研究所 特任教授)らの研究グループは、磁石の相互作用の物理理論をDNA配列解析に適用する新手法Neighbor GWASを開発し、それを用いて異なる遺伝子型の植物を混ぜて植えることによって、昆虫による虫害を減らすことに成功しました(図1)。本研究を農業に応用することで、環境保全や生物多様性保全などのSDGsや、農林水産省「みどりの食糧システム戦略」の推進に貢献していくことが期待されます。
 本研究で扱った虫害に対する連合抵抗性は、おそらく植物間のコミュニケーションの氷山の一角です。生殖や資源をめぐる競争などの観点からも、植物個体間の相互作用の重要性が今後ますます明らかにされていくと期待されます。

本研究成果は、国際科学誌「Nature Communications」に掲載されました(日本時間2024年10月7日18時)。

 

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 図1:本研究で確立した方法。ランダムに配置された多くの遺伝子型から隣同士の相互作用をゲノム情報と機械学習で予測して(左)、混ぜて植えるペアを効率良く選ぶ(右)。

 

◆詳細はこちらをご覧ください>横浜市立大学HPへ

 

<論文情報>

タイトル: Reducing herbivory in mixed planting by genomic prediction of neighbor effects in the field
著者: Yasuhiro Sato, Rie Shimizu-Inatsugi, Kazuya Takeda, Bernhard Schmid, Atsushi J. Nagano, Kentaro K. Shimizu
掲載雑誌: Nature Communications
DOI: 10.1038/s41467-024-52374-7

本領域のメンバーが2024年度 日本植物学会<奨励賞><若手奨励賞>を受賞しました(元村班・須崎班)

October 3, 2024 2:32 PM

Category:受賞

main:元村班, 須崎班

本領域メンバーが2024年度 日本植物学会<奨励賞><若手奨励賞>を受賞し、2024年9月15日に授賞式が執り行われました。

おめでとうございます!

 

<奨励賞>

元村 一基(元村班・立命館大学 総合科学技術研究機構

「核に依存しない花粉管の持続的な伸長制御機構の発見」

 

<若手奨励賞>

杉 直也(須崎班・横浜市立大学 木原生物学研究所)

「精細胞を覆う生体膜の花粉管破裂と同調した選択的崩壊機構の解析」

 

■ 詳しくはこちらをご覧ください。

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南米アンデス起源のスーパーフード「キヌア」のゲノム配列を解読

August 22, 2024 5:18 PM

Category:論文発表

main:白澤班

かずさDNA研究所は、国際農林水産業研究センター、岡山大学、PROINPA、マヨール・デ・サン・アンドレス大学(UMSA)、京都大学、筑波大学と共同で、北部高地型と南部高地型のキヌアのゲノム配列を解読しました。

キヌアは南米アンデス高地を起源とする穀物で、近年スーパーフードとして注目を集めています。これまでの研究で、キヌアは遺伝子型の解析から北部高地型、南部高地型、低地型の3つに分類されることが分かっています。低地型のキヌアは小さく、アイボリー色の実をつけ、日本や世界中の温帯での栽培に適しています。一方、高地型のキヌアは白く大きな実をつけ、アンデス高地の干ばつなどの厳しい環境下で栽培されており、世界中に輸出されています。キヌアは、農業上重要な形質の多様性が高く、さまざまな環境で栽培できる可能性を秘めています。

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かずさDNA研究所は2016年に低地型キヌアのゲノム配列を報告していましたが、北部高地型および南部高地型のゲノム情報は明らかにされていませんでした。本研究では、北部および南部高地型のキヌア2系統のゲノムをロングリード技術を用いて染色体レベルで解読することに成功しました。

この研究により、赤色の色味の異なる高地型および低地型のキヌア系統の間で、赤色色素であるベタレインの生合成に関わる遺伝子が集積しているゲノム領域の配列に違いがあることが明らかになりました。これらの発見は、キヌアの遺伝子機能の解明やゲノム研究に役立つだけでなく、キヌアの栽培やさまざまな環境に適応するために必要な遺伝子の理解にも貢献することが期待されます。

研究成果は国際学術雑誌 Frontiers in Plant Scienceで、8月19日(月)にオンライン公開されました。

本研究は、(公財)かずさDNA研究所、JSPS科研費(JP22K05374、JP22H05172、JP22H05181、JP23KK0113、JP21H02158、JP23K18036)、ムーンショット型農林水産研究開発事業「サイバーフィジカルシステムを利用した作物強靭化による食料リスクゼロの実現」(JPJ009237)、科学技術振興機構(JST)と国際協力機構(JICA)の連携事業である地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)「高栄養価作物キヌアのレジリエンス強化生産技術の開発と普及」(JPMJSA1907)の研究助成を受けたものです。

タイトル:Chromosome-level genome assemblies for two quinoa inbred lines from northern and southern highlands of Altiplano where quinoa originated
著者:Yasufumi Kobayashi, Hideki Hirakawa, Kenta Shirasawa, Kazusa Nishimura, Kenichiro Fujii, Rolando Oros, Giovanna R. Almanza, Yukari Nagatoshi, Yasuo Yasui, Yasunari Fujita
掲載誌:Frontiers in Plant Science
DOI: 10.3389/fpls.2024.1434388

詳しくは、かずさDNA研究所のニュースをご覧ください。

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