研究経過

日本のモウソウチクは、種子ではなく、 株か地下茎(栄養体)で、海を越えて伝播してきた! (井澤班)

July 3, 2023 12:46 PM

Category:論文発表

main:井澤班

 計画研究班の井澤教授(東京大学)らの研究グループは東京農業大学との共同研究により、中国15地域由来のモウソウチクと鹿児島に渡来したと伝わる日本のモウソウチクの全ゲノム配列解析により、解析した全サンプルはクローン(単一個体由来の栄養生殖個体)であることを明らかにしました。

 さらにヘテロ接合座位に着目した新規ゲノム解析手法により、文献記録や従来解析手法では不明であった系統関係を明らかにし、中国・福建省の竹が日本に由来したと推定しました。

 本発表はクロ―ナル植物のゲノム多様性に関する重要な新規な知見であり、この新規解析手法は他のクロ―ナル植物のゲノム多様性研究への応用が期待されます。

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 図1 中国、日本の全18サンプルのモウソウチクのヘテロ接合、変異型ホモ接合のサンプル組み合わせ
縦軸のJAPAN~RH27はサンプル名を表す。JAPANは日本に最初に導入されたと考えられているモウソウチクの系統。Kikkoは日本のキッコウチク、EAST、MIDDLE、WEST、SOUTH-A、SOUTH-Bは中国サンプルの地域分類。 「ヘテロ接合のサンプル組み合わせ」、「変異型ホモ接合のサンプル組み合わせ」ともに、上位20の組み合わせのみを図示。

 

◆詳細はこちらをご覧ください>東京大学のHPへ

 

<発表論文>

雑誌 BMC Genomics

題名 High genome heterozygosity revealed vegetative propagation over the sea in Moso bamboo

著者 Norihide Nishiyama, Akihisa Shinozawa, Takashi Matsumoto, Takeshi Izawa*(*責任著者)

URL https://bmcgenomics.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12864-023-09428-9

雄しべの発生に関与するイネのモバイルタンパク質を発見 (小宮班)

July 3, 2023 9:23 AM

Category:論文発表

main:小宮班

公募研究班の小宮怜奈博士の研究グループ (沖縄科学技術大学院大学 サイエンス・テクノロジー アソシエート) は、二種類のアルゴノートタンパク質 (AGO1bとAGO1d) による雄しべのサイレンシング機構を発見しました。

 

アルゴノートタンパク質 (AGO) は、小分子RNAと結合し、標的因子の発現を抑制するRNAサイレンシングの中心因子として機能します。イネには、19種類のAGO遺伝子があります。しかし、その半数に及ぶイネAGO遺伝子群の機能は明らかになっていません。私たちは、AGO1bとAGO1dの機能を明らかにするために、変異イネの解析、及び、雄しべの3Dイメージングを行いました。その結果、AGO1bとAGO1d が、雄しべの発生を介し、最終的に種子の稔り具合をコントロールすることを明らかにしました。さらに、後に花粉となる生殖細胞で機能するアルゴノートタンパク質 (生殖AGO) の細胞内の局在解析を併せ、三種類のアルゴノートタンパク質 (AGO1b, AGO1d, 生殖AGO) による空間的なRNAサイレンシング配置が、イネの雄しべの発生に必要であることを明らかにしました (図A)。

また、AGO1bとAGO1dのタンパク質は、雄しべの表皮を構成する体細胞層から雄しべ内部の生殖細胞に移動し、小分子RNAを運ぶモバイルキャリアとして働くことを世界ではじめて報告しました (図B)。

モバイルAGO1b/AGO1dの研究成果は、将来、種子を利用する作物の安定的な供給に貢献することが期待されます。

図1++.png

こちらの動画から、3Dイメージング技術の開発により明らかにした二種類のモバイルタンパク質の各細胞における局在をご覧いただけます。

https://static-content.springer.com/esm/art%3A10.1038%2Fs41467-023-38881-z/MediaObjects/41467_2023_38881_MOESM14_ESM.mp4

 

 

<発表論文>

雑誌:Nature Communications

題名: Spatial distribution of three ARGONAUTEs regulates the anther phasiRNA pathway

著者: Hinako TamotsuKoji KoizumiAlejandro Villar Briones, and Reina Komiya*

(*は責任者)

 

DOI: 10.1126/sciadv.adf4803

深刻な農業被害をもたらす線虫が植物のシグナル伝達をハイジャック!?(澤班)

June 13, 2023 9:29 AM

Category:プレスリリース, メディア報道, 論文発表

main:佐藤班, 澤班

sub:佐藤班

公募研究班の澤進一郎教授(熊本大学生物環境農学国際研究センター)は、公募研究班の佐藤 良勝特任准教授(名古屋大学)や東京大学、名古屋大学、宮崎大学、並びに新潟大学の研究グループとの共同研究により、世界で初めて、植物に感染する線虫の寄生メカニズムの一端が、植物のペプチドホルモンハイジャックであることを発見しました。

 線虫(ネコブセンチュウ)は、根に寄生し、コブを作って植物の栄養を奪い、農作物を枯らします(図)。今回、我々は、モデル植物のシロイヌナズナを用いて、線虫が根にコブを形成する際に、シロイヌナズナのペプチドホルモンを利用し、光合成によって作られた糖を葉から根に無理やり移動させていることを発見しました。通常は根への糖輸送シグナルは働いていません。根に線虫が感染すると、まず線虫はその輸送シグナルの担い手であるCLEペプチドホルモンを働かせることで、地上部の維管束で糖のトランスポーターを誘導します。すると糖は根に運ばれます。つまり、線虫はコブの形成に必要なエネルギー(糖)を得るために、植物のCLEペプチドホルモン伝達をハイジャックしているのです。今後、線虫がどのようにして、CLE遺伝子を活性化しているかなどメカニズムの詳細を解析する予定です。

図1.png     

図.サツマイモネコブセンチュウとシロイヌナズナを用いた根瘤形成の解析システム。

 

詳細はこちら>熊本大学ウェブサイト

https://www.kumamoto-u.ac.jp/daigakujouhou/kouhou/pressrelease/2023-file/release230605.pdf

 

また、本研究成果は2023年6月8日付の日本経済新聞、及び日本農業新聞に掲載されました!

線虫寄生の仕組み解明―栄養分の輸送"ハイジャック"日本農業新聞

熊本大、線虫による農作物被害の原因物質特定 日本経済新聞

 

<発表論文>

雑誌:Science Advances

題名: Root-knot nematode modulates plant CLE3-CLV1 signaling as a long-distance signal for successful infection

著者: Satoru Nakagami, Michitaka Notaguchi, Tatsuhiko Kondo, Satoru Okamoto, Takanori Ida, Yoshikatsu Sato, Tetsuya Higashiyama, Allen Yi-Lun Tsai, Takashi Ishida, and Shinichiro Sawa *(*は責任者)

DOI: 10.1126/sciadv.adf4803

低施肥でも穂数が減らず、収量を確保できるイネを開発(井澤班)

June 12, 2023 11:23 AM

Category:メディア報道, 論文発表

main:井澤班

 計画研究班の井澤毅教授(東京大学大学院農学生命科学研究科)は、京都大学ならびに農研機構との共同研究により、イネが施肥を受けた際に分げつ数(穂数)が増える分子メカニズムについて、植物ホルモンの一種であるストリゴラクトンの生合成に関わるOs1900遺伝子の転写(mRNA量)が施肥刺激によって減少することが主要な原因であることを明らかにしました。また、そのOs1900遺伝子の発現箇所・タイミングを変える変異を利用して、低施肥でも穂数が減らず、収量性を維持できる新規改良Os1900遺伝子を創出しました(図)。

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図:Os1900遺伝子とOs5100遺伝子の二重変異体は分げつ数が増加し、結果として穂数も増加した

(出典:東京大学ウェブサイト https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20230608-1.html

 

 これまで、品種間の遺伝解析から、分げつ数(穂数)を制御しているのはOs900遺伝子とOs1400遺伝子の二つの関連遺伝子であると報告されていましたが、本研究ではまず、遺伝的な役割はそれらの相同遺伝子のひとつであるOs1900遺伝子の方が大きいことを明らかにしました。その上で、Os1900遺伝子をゲノム編集技術によって改変することで、新しい有用遺伝子を創出できたことは非常に新奇性が高い成果です。この新しく開発した遺伝子資源は、通常よりも低施肥で、高品質・高収量のイネ品種の育成に資すると期待され、SDGs時代のイネ育種に貢献できると考えられます。また、今回の成果では、遺伝子の機能喪失変異やアミノ酸配列を変える変異ではなく、働く組織やタイミングを変える変異が農学上・育種上有用であることを明らかにした点で、汎用性の高いメッセージがあり、非常に意義深い成果となっています。

 

◆詳細はこちら>東京大学ウェブサイトへ

 

また、本研究成果は2023年6月8日付の日本経済新聞にも掲載されました!

ぜひご覧ください。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC084N30Y3A600C2000000/

 

<発表論文>

雑誌:Nature Communications

題名:Fertilization controls tiller numbers via transcriptional regulation of a MAX1-like gene in rice cultivation

著者:Jinying Cui、 Noriko Nishide、 Kiyoshi Mashiguchi、 Kana Kuroha、 Masayuki Miya、 Kazuhiko Sugimoto、 Jun-Ichi Itoh、 Shinjiro Yamaguchi、 and Takeshi Izawa*(*は責任者)

DOI:doi.org/10.1038/s41467-023-38670-8

日経サイエンス7月号「植物愛! 現代の牧野富太郎たち」に取材協力しました(清水班)

May 30, 2023 12:03 PM

Category:アウトリーチ活動

main:清水班

 清水班・清水健太郎客員教授(横浜市立大学/チューリッヒ大学兼任)が2023 525 日発売の日経サイエンス7月号牧野富太郎特集「新種誕生の現場」の記事に取材協力しました。清水研究室で20年来研究してきたシロイヌナズナ属の倍数体タチスズシロソウは、NHK朝ドラ「らんまん」のモデル牧野富太郎がArabis kawasakiana Makinoとして1913年に記載したものです。2005年には分子データによってシロイヌナズナ属に属する異質倍数体であることがわかり、Arabidopsis kamchatica subsp. kawasakiana (Makino) K. Shimizu & Kudohと分類学的な組み換えを行いました。記事では、スイス・ウルナーボーデン村(写真)で過去150年に誕生したタネツケバナ属新種や、パンコムギなども紹介されています。

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記事の一部は以下のサイトで公開されていますので、ぜひご覧ください。

https://www.nikkei-science.com/202307_048.html

 

特集の他の記事などは以下のサイトへ。

https://www.nikkei-science.com/page/magazine/202307.html

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