研究経過

植物の異常成長を引き起こすウイロイド病の発症リスクを予測するアルゴリズムを開発(清水班)

July 4, 2024 10:48 AM

Category:論文発表

main:清水班

農業・食品産業技術総合研究機構の孫建強主任研究員らが、植物の異常成長を引き起こすウイロイド病の発症リスクを予測するアルゴリズムを開発しました。従来、ウイロイドの発病リスクを評価するには、数ヶ月にわたる栽培実験を必要でした。これに対し、本研究で開発した手法を利用すると、コンピュータ計算だけでウイロイドの発病リスクを評価できるようになります。

ウイロイドに感染した植物は、無症状から致死症状まで、幅広い症状を示します。また、ウイロイドに感染した植物に対し有効な薬剤はなく、一度感染すると、感染植物を全て廃棄処分しなければならず、莫大な経済的損失に繋がります。

効果的なウイロイドの防除は、ウイロイドの発病リスクや無症状感染による潜伏リスクを事前に把握できるかどうかにかかっています。従来、このようなリスク評価を行うには、隔離施設においてウイロイドを宿主植物に接種し、数ヶ月間の栽培を経て、発病の有無などの外観を観察して評価する必要がありました。また、ウイロイドが宿主植物によって現れる症状が異なるため、リスク評価を行うには多くのウイロイドと宿所植物の組み合わせで接種実験を行わなければなりません。要する時間および場所について膨大なコストを要します。

これに対して、本研究では、核酸データベースで公開されているウイロイドと宿主植物のゲノム情報を利用し、コンピュータ計算のみで、ウイロイドの病原性を予測するできるようになります。この予測結果を利用すれば、接種実験なしで、あるいは少数回の接種実験だけで、多くのウイロイドの病原性を一度に評価できるようになります。今後のウイロイドの発病リスクの予測や感染時の被害予測などウイロイドの被害低減に貢献することが期待されます。

本研究成果は、国際科学雑誌 Molecular Plant Pathology に掲載されました(2024年7月2日)。

◾️ 論文情報
タイトル:Predicting symptom severity in PSTVd-infected tomato plants using the PSTVd genome sequence
著者:Jianqiang Sun, Yosuke Matsushita
掲載雑誌: Molecular Plant Pathology
DOI: https://doi.org/10.1111/mpp.13469

茎の節と節間が生じるしくみを解明 ~植物科学の未踏の地「茎の発生学」に挑む~

June 14, 2024 2:13 AM

Category:プレスリリース, メディア報道, 論文発表

main:津田班

「節」と「節間」の繰り返しからなる茎は植物の主要器官の一つです。節は葉や根系を繋いで養水分の交換をおこないます。一方、節間は光獲得や花粉や種子の散布のため、葉や花を押し上げます。また節間は作物の背丈を決定し収穫効率を左右します。このように、植物学・育種学の両面から重要な茎ですが、茎の発生メカニズムは主要器官の中で唯一研究が進んできませんでした。これは、多くの種で節と節間の区別が不明瞭で、形態的特徴に乏しいことが理由として挙げられます。

公募研究班の津田勝利助教らの研究グループは、節と節間の区別が明瞭なイネの茎に着目し、茎の基本パターンが損なわれた矮性変異体を解析することで、茎の発生メカニズムの解明に挑みました。その結果、

  1. 節は、葉の発生プログラムが茎に介入することで生まれること、
  2. この葉の発生プログラムの介入を茎頂の発生プログラムが適度に制限することで節間が生まれること、
  3. これらのメカニズムは、3次元的な軸構造しか持っていなかった種子植物の祖先が葉を獲得する過程で生じた可能性が高いこと、

を見出しました(図)。

本研究は、植物発生学における最後の砦とも言える茎の基本発生プログラムとその進化過程を明らかにしました。本成果によって、茎の発生学がさらに展開し、農作物の茎形質の改良につながることが期待されます。本研究成果は、国際科学雑誌「Science」に 2024 年 6 月 14 日(日本時間)に掲載されました。

図.png

詳しくは、国立遺伝学研究所のプレスリリースをご覧ください。

https://www.nig.ac.jp/nig/ja/2024/06/research-highlights_ja/pr20240614.html

【論文タイトル】

YABBY and diverged KNOX1 genes shape nodes and internodes in the stem.

【著者】

Katsutoshi Tsuda*, Akiteru Maeno, Ayako Otake, Kae Kato, Wakana Tanaka, Ken-Ichiro Hibara, and Ken-Ichi Nonomura

【掲載誌】

Science

DOI:10.1126/science.adn6748

【新聞掲載】キタミソウ(絶滅危惧Ⅱ類)の染色体構造を解明した研究成果が新聞記事に取り上げられました!(澤班)

May 29, 2024 5:00 PM

Category:プレスリリース, メディア報道, 論文発表

main:澤班

熊本大学生物環境農学国際研究センターの澤進一郎センター長、吉田祐樹特任助教らの研究グループは、東海大学大学との共同研究により、北海道・関東・熊本という限定的な場所でしか発見されていないキタミソウの染色体構造を突き止めました。

【ポイント】

  • 北海道・関東・熊本という限定的な場所でしか発見されていないキタミソウの染色体構造を解析し、雑種起源の異質四倍体である可能性が示されました。
  • これまで、このような特殊な分布パターンを示すキタミソウが、どのように日本にやってきたのか、世界のキタミソウとどのように違っており、どの程度似ているのか、全くわかっていませんでした。
  • 熊本県でも希少植物として知られているキタミソウについて、今後、より詳細な性質や生態が明らかになると期待されます.

 

この研究成果が朝日新聞で取り上げられました。ぜひご覧ください!

◆2024.4.18  ー北海道、関東、熊本だけに生える草 分布の謎解く足がかりは染色体ー 朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASS4J0PBVS4JUEFT006M.html

◆2024.5.22 ー北海道・関東・熊本だけに生息 キタミソウ キミは何者?ー 朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/DA3S15940491.html

◆2024.5.23  ーキタミソウ 分布の謎 「800キロ離れた3地域のみ生息」ー 朝日新聞

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図:熊本市のキタミソウ(出典:熊本大学プレスリリース)

 

〇研究成果詳細はこちら>熊本大学プレスリリース

 

【論文情報】

論文名:"Genome Size Determination and Chromosome Characterization of Limosella aquatica L. (Scrophulariaceae) in Japan"
"日本におけるキタミソウの染色体構造とゲノムサイズの決定"
著者・所属:加藤木高広1、吉田祐樹2、中山魁仁3、 星良和4、澤進一郎2
1東海大学総合農学研究所
2 熊本大学大学院先端科学研究部附属生物環境農学国際研究センター
3東海大学農学部農学科
4東海大学大学院生物科学研究科
掲載誌:Cytologia
DOI:https://doi.org/10.1508/cytologia.88.339
URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/cytologia/88/4/88_D-23-00058/_html/-char/ja

本領域のメンバーが令和6年度 日本育種学会【奨励賞】を受賞しました(木下班)

May 15, 2024 11:01 AM

Category:受賞

main:木下班

計画研究班(木下班)の 殿崎薫助教(横浜市立大学 木原生物学研究所)が令和6年度 日本育種学会「奨励賞」を受賞しました。

おめでとうございます!

 

【受賞題目】

「イネの胚乳における生殖的隔離機構の遺伝育種的研究」

 

■ 詳しくはこちらをご覧ください。

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【プレスリリース】植物の染色体が維持されるための仕組みを解明 ~自在な半数体誘導を介した育種法開発の糸口~ (武内班)

May 1, 2024 9:00 AM

Category:プレスリリース, 論文発表

main:武内班

公募研究班の名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所の武内秀憲特任助教らの研究グループは、植物の受精時に雄と雌の染色体が維持されるための仕組みを発見しました。

本研究では、染色体維持の鍵分子であるセントロメア特異的ヒストン(CENH3)の認識・運搬の分子基盤を植物で明らかにしました。さらに、CENH3の運搬を担うヒストンシャペロンタンパク質(NASP)は、植物の受精卵・初期胚において特に重要な役割を有しており、機能が損なわれると染色体の脱落が起こることを見出しました。

受精卵では状態の異なる雄と雌の遺伝情報(染色体)が混ざり合います。このとき、雌雄両方の染色体セットが適切に保持されるために"種の認証"とも言える仕組みがはたらくと考えられますが、その仕組みの詳細はほとんど分かっていませんでした。本研究により、受精卵・初期胚における染色体維持の仕組みの理解が進んだことで、半数体や倍数体個体の自在な誘導といった育種を効率化させる技術への応用が期待されます。

本研究成果は、2024426日付で日本植物生理学会の国際誌「Plant & Cell Physiology」に掲載されました。

詳しくは プレスリリース本文 または 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所の 研究ハイライトのページ をご覧ください。

論文タイトル: The chaperone NASP contributes to de novo deposition of the centromeric histone variant CENH3 in Arabidopsis early embryogenesis

著者: Hidenori Takeuchi*, Shiori Nagahara, Tetsuya Higashiyama and Frédéric Berger (*責任著者)

雑誌名: Plant & Cell Physiology

DOI: 10.1093/pcp/pcae030

GA_PCP_v3-thumb-1200xauto-11392.png(名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所・髙橋 一誠 特任講師によりデザイン)

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