研究経過
【プレスリリース】植物の染色体が維持されるための仕組みを解明 ~自在な半数体誘導を介した育種法開発の糸口~ (武内班)
May 1, 2024 9:00 AM
Category:プレスリリース, 論文発表
main:武内班
公募研究班の名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所の武内秀憲特任助教らの研究グループは、植物の受精時に雄と雌の染色体が維持されるための仕組みを発見しました。
本研究では、染色体維持の鍵分子であるセントロメア特異的ヒストン(CENH3)の認識・運搬の分子基盤を植物で明らかにしました。さらに、CENH3の運搬を担うヒストンシャペロンタンパク質(NASP)は、植物の受精卵・初期胚において特に重要な役割を有しており、機能が損なわれると染色体の脱落が起こることを見出しました。
受精卵では状態の異なる雄と雌の遺伝情報(染色体)が混ざり合います。このとき、雌雄両方の染色体セットが適切に保持されるために"種の認証"とも言える仕組みがはたらくと考えられますが、その仕組みの詳細はほとんど分かっていませんでした。本研究により、受精卵・初期胚における染色体維持の仕組みの理解が進んだことで、半数体や倍数体個体の自在な誘導といった育種を効率化させる技術への応用が期待されます。
本研究成果は、2024年4月26日付で日本植物生理学会の国際誌「Plant & Cell Physiology」に掲載されました。
詳しくは プレスリリース本文 または 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所の 研究ハイライトのページ をご覧ください。
論文タイトル: The chaperone NASP contributes to de novo deposition of the centromeric histone variant CENH3 in Arabidopsis early embryogenesis
著者: Hidenori Takeuchi*, Shiori Nagahara, Tetsuya Higashiyama and Frédéric Berger (*責任著者)
雑誌名: Plant & Cell Physiology
DOI: 10.1093/pcp/pcae030
【プレスリリース】組換え植物細胞を自発的に分化させる技術の開発 -細胞・組織培養の省力化に貢献- (井川班)
April 23, 2024 11:51 AM
Category:プレスリリース, 論文発表
main:井川班
千葉大学大学院園芸学研究院の井川智子准教授らの研究グループ、千葉大学国際高等研究基幹の南川舞准教授、名古屋大学大学院生命農学研究科の榊原均教授、理化学研究所環境資源科学研究センター(理研CSRS)の小嶋美紀子専門技術員らの共同研究により、植物の発生過程において細胞分裂や形態形成を制御する役割を持つ遺伝子を細胞に導入して発現させることで、培地にホルモンなどの植物成長調節物質(Plant Growth Regulator: PGR)を加えなくても組換え細胞が自発的に分裂・増殖し、器官分化する技術を開発しました。さらに、分化過程における細胞内ホルモン濃度の変化と発現パターンを変化させる遺伝子を明らかにしました。
植物で遺伝子組換えやゲノム編集を行うためには,一般に植物細胞の分化制御法が前提として求められます。本研究では分化条件を模索する作業を割愛し,組換え体を作製するバイオテクノロジーを開発しました。様々な植物種での遺伝子組換えやゲノム編集、培養による分化制御方法を大きく変革できる可能性を示しており,多くの方に活用していただければと思います。
本研究成果は、2024年4月3日に国際学術誌Frontiers in Plant Scienceにオンライン公開されました。
図 シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来のBBM(BABYBOOM)とWUS(WUSCHEL)遺伝子をタバコ(Nicotiana tabacum)の葉片細胞へ導入し,その後PGRフリー培地上で培養して誘導された分化反応 (出典:プレスリリース資料)
遺伝子を導入しなかった葉片、BBMまたはWUSのみを導入した葉片、改変しないBBMとWUSを導入した葉片は培養4週間後に枯死したのに対して、BBMの転写活性増強型(BBM-VP16)およびWUSを導入した葉片からは、培養4週間後に細胞が脱分化を起こしてカルスが形成された(図2上段;△)。さらにBBM-VP16とWUS転写抑制増強型の改変遺伝子(SRDX-WUSまたはSRDX-WUSm1)を導入した葉片からは培養2週間後にカルスが発生し、その4週間後には再分化が起こり不定芽も発生した(図2下段;⇧)。
■論文情報
タイトル:Autonomous differentiation of transgenic cells requiring no external hormone application: the endogenous gene expression and phytohormone behaviors.
著者:Sato Y., Minamikawa M.F., Pratama B.B., Koyama S., Kojima M., Takebayashi Y.,Sakakibara H., Igawa T.
雑誌名:Frontiers in Plant Science
DOI:https://doi.org/10.3389/fpls.2024.1308417
■詳細は以下をご参照ください
https://www.chiba-u.ac.jp/news/files/pdf/240417_bbm_wuf_4.pdf
本領域のメンバーが第20回(令和5年度)日本学術振興会賞並びに日本学士院学術奨励賞を受賞しました(藤井班)
March 14, 2024 9:09 AM
Category:受賞
main:藤井班
本領域のメンバーが令和5年度日本植物形態学会<奨励賞>を受賞しました(元村班)
March 8, 2024 9:21 AM
Category:受賞
main:元村班
【プレスリリース】花が散りゆく仕組みを遺伝子から解明 〜オートファジーにより、古い花びらの根本を狙い撃ちして除去していた〜 作物や花卉の落花時期の調節も可能に(伊藤班)
February 15, 2024 9:48 AM
Category:プレスリリース, 論文発表
main:伊藤班
当領域の計画研究班・伊藤寿朗教授(奈良先端科学技術大学院大学)および同所属の山口暢俊准教授、白川一助教、郷達明助教らは、中部大学、名古屋大学、理化学研究所との共同研究により、ノーベル生理学・医学賞でも注目された「オートファジー」という細胞内のタンパク質などを自ら分解する機能を使って、植物が古くなった花びらを除去していることを解明しました。この成果により、花が散る時期を人為的に調節できるようになれば、長持ちする花を作るなど、園芸や農業の分野での応用が期待できます。
動物では、オートファジーという自らの成分を分解する「自食作用」によって、日々細胞のメンテナンスをしています。細胞内にあるタンパク質や細胞小器官を新鮮に保つために、いつも一定の割合で古くなったものが識別されて、分解されます。これにより、動物細胞の健康は保たれているのです。このオートファジーが起こせなくなると、神経変性疾患やがんの発症リスクが高くなることがわかっています。
植物においても、このオートファジーは常に起こっており、細胞内の新陳代謝を行っています。特に、植物は一生を通して自身の体作りを行うので、古い器官を除去するなど細胞の健康を保つメンテナンスの役割は非常に大きくなるはずです。これまでにイネやトウモロコシなどの穀類、アサガオやペチュニアなどの花卉植物において、オートファジーを制御する遺伝子が非常に多く存在していることがわかっていましたが、その中でも花でオートファジーがどのような役割を果たしているのかということについてはわかっていませんでした。
山口准教授、伊藤教授らの共同研究グループは、モデル植物であるシロイヌナズナの花を使って実験を行い、老化を促進するジャスモン酸という植物ホルモンが古くなってきた花びらの根元に溜まってくることに気が付きました。このホルモンが花びらの根元に溜まると、オートファジーを制御する遺伝子が、花びらの根元で限定的に働き始めます。そうすると、花びらの根元の細胞にある物質を包み込むオートファゴソームという丸い袋ができ、自食作用の担い手となって不要なものを分解します。この作用により、古い花びらの根元の細胞の性質が変わり、その花びらが選択的に散っていくことがわかりました。花びらが散っていくという生命の神秘を支える普遍的な仕組みを知るだけでなく、その仕組みを有効に使って農業や園芸の分野で利用していくうえでも非常に重要なプレスリリース成果です。
本研究成果は 2024 年 2 月 6 日(火)付けで英国の科学雑誌「Nature Communications」に掲載されました。
◆詳細はこちらをご覧ください>奈良先端科学技術大学院大学のHPへ
【掲載論文】
タイトル: Petal abscission is promoted by jasmonic acid-induced autophagy at Arabidopsis petal bases.
著者: Yuki Furuta1, Haruka Yamamoto1, Takeshi Hirakawa1, Akira Uemura1, Margaret Anne Pelayo1,2, Hideaki Iimura1,3, Naoya Katagiri1, Noriko Takeda-Kamiya4, Kie Kumaishi5, Makoto Shirakawa1,6, Sumie Ishiguro7, Yasunori Ichihashi4, Takamasa Suzuki8, Tatsuaki Goh1, Kiminori Toyooka4, Toshiro Ito*1, and Nobutoshi Yamaguchi*1(*共責任著者)
所属: 1. 奈良先端科学技術大学院大学 2. トリニティ・カレッジ・ダブリン 3. かずさ DNA 研究所 4. 理化学研究所 環境資源科学研究センター 5. 理化学研究所 バイオリソース研究センター 6. さきがけ 7. 名古屋大学 8. 中部大学
掲載誌: Nature Communications