東北大学・飛翔型「科学者の卵養成講座」(グローバルサイエンスキャンパス協定事業)

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平成22年度活動ブログ

平成22年度活動ブログ養成講座の活動を記録しています。

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2010.07.16

6月12日の講義「がんは遺伝子の病気である」への質問に回答します

医学系研究科の堀井です。

 

 「科学者の卵養成講座」のブログができていて、既に高校生諸君からの書き込みがあるとの連絡を貰いました。その中に、私の講義に関連する質問があるとのことも聞き、ブログを覗いてみました。以下に、簡単ではありますが、回答させていただきます。

 

 

仙台向山高校の須藤さんへ

 おばあさんが「焦げを食べるとがんになりやすくなる」と口癖のように言っているが、いまいち信用できない、とのことですね。

 講義でも紹介しましたが、国立がんセンターのHPでも取り上げられています。(http://ganjoho.jp/public/pre_scr/prevention/prevention_12.html#prg9_1

講義でもお話しましたが、タンパク質はアミノ酸が長くつながったものです。そして、魚を焼きすぎるなどでタンパク質を焦がしてしまうと、成分のアミノ酸が変化して、ニトロソアミンという物質ができてしまうことがあります。この物質は遺伝子変異をおこす性質を持っているために、発がん性があると考えられています。遺伝子変異が生じる過程は単純ではなく、焦げの成分から発がんに至る過程は一筋縄ではいかないと思いますが、ニトロソアミンは重要な原因物質の一つと考えられています。

 科学者たるもの、人の言うことを鵜呑みにせず、まずは疑ってかかることが大切です。須藤さんには、科学者に育つ素質が十分あります。これからも日常生活や学習する中で、様々な疑問を持ち、あなたの素晴らしい素質を伸ばし、秘められた才能を磨いてください。この「科学者の卵養成講座」がその道のりでお手伝いできると思いますので、大いに活用してください。

 

 

群馬県立高崎女子の丸岡さんへ

 体内時計と絡めてのがん治療への興味、よいところに目をつけましたね。素晴らしい!

 もし、がん細胞が体内時計に応答して増殖するのであれば、がん細胞の増殖周期に合わせて抗がん剤を投与することは極めて理にかなっています。しかしながら、現時点では、この質問に対する解答はありません。

体の成長などでも、ホルモンと体内時計との関係もあります。昔から「寝る子は育つ」と言いますが、成長ホルモンの分泌と睡眠とは関連があります。ですので、もしも体内時計に支配されるような物質によってがん細胞が増殖する場合には、あなたが上田先生(たぶん上田泰己先生のことですよね)のお話の中で聞かれた「がん細胞が活発に動く時間に薬を投与するとか、...」という可能性が考えられます。しかし、そのような物質があるかどうかは明らかではありません。また、実験的に調べるとしても、生体内で、体内時計が回っている状況下で調べなければならず、実証も簡単ではありません。

 以下、私の経験した範囲内ですので、統計学的な処理ができない話で申し訳ありませんが、患者さんの検体を採取した時間によって、がん細胞の増殖速度に違いがあるといった事態を全く経験したことがありません。私が「体内時計に支配される物質」によって増殖が制御されているタイプのがんを経験しなかった可能性を完全に否定することはできませんが、一般にがんの増殖と体内時計とは有意な関連性が無いと思います。また、がん細胞自身が時計を持っているならば、細胞分裂も足並みをそろえると思われますが、そのような事実も全く観察されていません。

 「体内時計に支配される物質」によって増殖が制御されるタイプのがんがあるならば、抗がん剤の投与のタイミングを考えることに加え、その物質を上手に制御することで、有効ながん治療が可能になるでしょう。しかし、私は、その可能性にはあまり期待しておらず、実用化を考えると、こないだの講義でもお話したような「分子標的治療」の方が近いと考えています。

 遠くから通ってきているようで、時間もかかると思いますが、それ以上に得るものも多いと思います。これからも「科学者の卵養成講座」で多くのことを吸収して自分の才能を伸ばしてください。

 

 

 612日の講義では、多くの生徒諸君から沢山の良い視点での質問をいただきありがとうございました。更に、ブログでも質問をいただき、嬉しい限りです。これからも何か質問があれば、どなたでもお気軽にどうぞ。

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