文部科学省科学研究費補助金「新学術領域研究」
植物にはインセスト(近親相姦)を回避するために自家不和合性という雌雄間の細胞間情報伝達系が存在し、それを制御することで多様性を獲得し、自然界に適応している。これは、同一種の雄と雌の「ゲノム・遺伝子相関」を基礎とする生命現象である。アブラナ科植物のインセスト回避では、リガンド・受容体キナーゼ系を介した「遺伝子機能の多様化」が鍵となっており、対立遺伝子間において「エピジェネティックな制御」を受ける遺伝子発現も関わっている。また他方で、同じアブラナ科植物のモデル植物・シロイヌナズナでは、インセスト回避機構を捨てることで環境に適応してきており、種分化との関連で興味が持たれている。この様に、植物のインセスト回避は分子機構の理解が最も進んでいる「ゲノム・遺伝子相関」現象の1つである。
本研究組織では、自家不和合性を人為的に制御して作成した「インセスト回避シロイヌナズナ」を利用して、インセスト回避に関わる分子機構の全貌を明らかにする。また、我々は、自家不和合性に関連した雌雄間の相互作用が、同一種内で生殖隔離を生みだしている現象を新たに見いだした。本研究では、この新規の生殖隔離遺伝子の機能と進化を調べることにより、同一種内異種ゲノムが引き起こす生殖隔離の分子機構と「遺伝子機能の多様化」との関連を明らかにする。一方で、植物では生殖時に、DNAメチル化や低分子RNAを介した「エピジェネティックな制御」が普遍的に関わっていることが多く、我々は雄性生殖器官特異的低分子RNAを網羅的に解析することにより、「エピジェネティックな制御」による雌雄間での「ゲノム・遺伝子相関」に関わる分子の相互作用の理解を目指す。