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哺乳類や鳥類の種間雑種の多くは不妊や発育不全をともない、その障害は通常ヘテロ型の性染色体構成をもつ個体(哺乳類ではXY雄、鳥類ではZW雌)で顕著に表れることが知られています(ホールデンの法則)(Haldane 1922)。私たちは、ニワトリとウズラの属間雑種を用いて、異種ゲノムの不適合性によって引き起こされる雑種の不妊と胚性致死・発育不全現象について研究しています。本研究では、ニワトリ雄とウズラ雌の間で人工授精によって得られるF1雑種胚について、放卵直後から孵化に至るまでの全ステージで胚発生を詳細に観察し、親種であるニワトリ・ウズラのそれらと比較することによって、F1雑種における致死・発育不全の実態を詳細に調べました。その結果、2種間の交雑の受精率は約25%と低く、胚性致死は胚盤葉期から原条期にかけて顕著に起こり、雌選択的な胚性致死は孵卵10日以降に有意に観察されることを明らかにしました。また、10日以降は重篤な胚の形態形成異常が高頻度に観察されました。さらに、受精卵の約4%が孵化しましたが孵化個体はすべて雄であり、雌は孵化しないことが改めて確認されました。発生段階の経時観察を行なったところ、雑種胚では顕著な発生遅延が生じ、孵化に要する時間は、対照群のウズラの17日に対し、雑種胚では約19日であることがわかりました。そして、致死胚の発生停止はステージ3 (孵卵開始後18~21時間)で顕著に見られたことから、この時期に雑種致死の要因となる遺伝子発現異常が生じる可能性が示唆されました。そこで、私たちは現在、高速シーケンサーを用いて初期胚における発現遺伝子の網羅的解析を行なっており、F1雑種の胚性致死を引き起こす遺伝的要因を分子レベルで解明することに取り組んでいます。 
 
 
本研究論文は、2016年5月20日付でScientific Reports誌にオンライン掲載されました。
Ishishita S, Kinoshita K, Nakano M, Matsuda Y. Embryonic development and inviability phenotype of chicken-Japanese quail F1 hybrids. Scientific Reports 6: 26369, 2016. 

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スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の体験研修を担当しました

8月3-7日に名古屋大学で実施された、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の体験研修を担当しました。当研究室では、愛知県岡崎高校と豊田北高校の2年生4名を受け入れ、当研究室の研究員とティーチングアシスタントの大学院生と一緒に、実験の指導を行い、高校生たちに先端的な実験研究を体験してもらいました。今回の研修では、2つの実験実習:1) 蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法を用いた遺伝子の染色体マッピング;2) ウズラES細胞を用いたキメラ胚の作製と全胚培養、を実施しました。実習1)では、核型が大きく異なる鳥類と魚類の染色体標本を用いて、遺伝子の比較染色体マッピングを行い、染色体の相同性を調べる実験を行いました。実習2)では、GFP遺伝子を導入したウズラES細胞を胚盤葉期胚に注入してキメラ胚を作製し、全胚培養によってその発生過程を観察しました。そして、得られた実験結果をまとめ、実習レポートの作成に取り組みました。 
       
 研修に参加した高校生たちは、初めての実験の体験であったにもかかわらず、熱心に実験に取り組み、研究者顔負けの見事な実験結果を得ることができました。彼らにとっては、初めて先端的なサイエンスに触れ、とても新鮮で充実した体験研修となったようです。今後もこのような体験実習を企画し、一人でも多くの高校生にサイエンスの面白さを体験してもらうことによって、将来の日本のサイエンスをリードする研究者の卵が育ってくれればと願っています。
      
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鳥類と爬虫類では、ほとんどの種が微小なマイクロ染色体をもっています。しかし、分岐年代が古く、トカゲ類・ヘビ類を含む有鱗目(Squamata)の系統樹の基底部に位置付けられるヤモリ科(Gekkonidae)の種には、マイクロ染色体が見られません。この事実は、有鱗目の祖先種はマイクロ染色体をもたず、マクロ染色体の分断によってマイクロ染色体が生じたと考えるfission説を支持しているように思われます。しかし、分岐年代の新しいカナヘビ科(Lacertidae)では、マイクロ染色体の消失が見られることから、爬虫類におけるマクロ染色体とマイクロ染色体の出現と消失の過程については、これまで大きな謎とされていました。そこで、私たちは、ZW型の性染色体構成をもちマイクロ染色体をもたないミナミヤモリ(Gekko hokouensis)とマイクロ染色体をもつシマヘビ(Elaphe quadrivirgata)、ミズオオトカゲ(Varanus salvator macromaculatus)、バタフライトカゲ(Leiolepis reevesii rubritaeniata)、そしてマイクロ染色体を1対しかもたないニワカナヘビ(Lacerta agilis)との間で機能遺伝子の染色体地図を作成しました。さらに、これらの染色体地図にアノールトカゲ(Anolis carolinensis)とニワトリのゲノム地図の情報を加えて染色体上の遺伝子の連鎖群の比較を行い、各種間の染色体相同性を明らかにすることによって、有鱗目における祖先核型と染色体の構造変化の過程を推定しました。

  その結果、ニワトリおよび他の有鱗目がもつマイクロ染色体の連鎖群が高度に保存されていることから、有鱗目の祖先が多くのマイクロ染色体をもっていた可能性が高く、その後、ヤモリ科動物では、マイクロ染色体の融合が高頻度に起こった可能性が強く示唆されました。また、同様にマイクロ染色体をほとんどもたないニワカナヘビとミナミヤモリとの間の染色体相同性は低いことから、カナヘビ科では、ヤモリ科とは独立して独自にマイクロ染色体の融合が生じたことが示唆されました。染色体サイズ依存的なゲノム構造の区画化が明確な爬虫類において、ヤモリ科やカナヘビ科でマイクロ染色体の融合が高頻度に生じた原因はまだ不明ですが、本研究の結果は、爬虫類におけるマクロ-マイクロ染色体間のゲノム相関の進化過程を探るうえで、有用な情報を提供するものです。 
   
本研究論文は、8月4日付でPLOS ONE誌にオンライン掲載されました。
Srikulnath K, Uno Y, Nishida C, Ota H, Matsuda Y (2015) Karyotypic reorganization in the Hokou gecko (Gekko hokouensis, Gekkonidae): Gekkota retains a highly conserved linkage homology with other squamate reptiles that have many microchromosomes. PLOS ON (online published: 24, July, 2015 ).

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竜弓類(Sauropsida)に属する鳥類と爬虫類の核型の特徴は、微小なマイクロ染色体を持つことです。この特徴は、同じ羊膜類に属する哺乳類には見られません。鳥類のマイクロ染色体は、遺伝子密度、GC含量、そして組換え頻度が高いことが知られています。私たちはこれまでに、爬虫類(ヘビ類、カメ類)でもマイクロ染色体上の遺伝子のGC含量が高いことを、機能遺伝子の比較染色体マッピングと塩基配列の比較から明らかにしてきました。また、多くの鳥類には、マイクロ染色体特異的動原体反復配列が存在し、マクロ-マイクロ染色体間での動原体反復配列の均質化が起こっていないことを明らかにしました。これらの結果は、鳥類と爬虫類のゲノムには染色体サイズ依存的なゲノム構造の区画化が存在し、マクロ染色体とマイクロ染色体間での交流がないことを示しています。
  
私たちは、マクロ染色体とマイクロ染色体間のサイズの違いが明確なヘビ類の2種、ハブ(Protobothrops flavoviridis, Viperidae)とビルマニシキヘビ(Python bivittatus, Pythonidae)から動原体特異的反復配列を単離し、それらの構造、染色体上の分布、塩基配列の保存性などについて調べました。その結果、ハブから単離された動原体特異的な反復配列PFL-MspI、ビルマニシキヘビから単離されたPBI-MspIとPBI-DdeIは、すべてマクロ染色体とマイクロ染色体に存在し、染色体サイズ特異的な区画化は見られませんでした。また、これらの3つのファミリー配列は、すべて縦列重複型のサテライトDNA配列であり、ゲノム中で強いメチル化を受けていることがわかりました。また、塩基配列の進化速度は速く、異なる属、または科の間で保存性は見られませんでした。これらの結果は、ヘビ類では、GC含量においてはマクロ-マイクロ染色体間で区画化が存在するにもかかわらず、動原体反復配列ではマクロ-マイクロ染色体間で塩基配列の均質化が生じていることを示しています。私たちのこれまでの研究で、カメ類ではこのような動原体反復配列の均質化は検出されていないことから、ヘビ類では染色体のサイズ依存的なゲノム構造の区画化が生じている可能性が示唆されました。これらの結果は、脊椎動物におけるゲノム・染色体の構造と機能の進化過程、特にマクロ-マイクロ染色体間の相互作用を知るうえで、重要な情報を提供しています。 
  
本研究論文は、7月24日付でChromosoma誌にオンライン掲載されました。 
Matsubara K, Uno Y, Srikulnath K, Seki R, Nishida C, Matsuda Y. Molecular cloning and characterization of satellite DNA sequences from constitutive heterochromatin of the habu snakes (Protobothrops flavoviridis, Viperidae) and the Burmese python (Python bivittatus, Pythonidae). Chromosoma (published online: 24, July, 2015).

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  哺乳類と鳥類の性染色体は目全体を通して相同であるのに対し、爬虫類がもつ性染色体(ZW型とXY型)の起源は多様であることを、私たちはこれまでの研究で明らかにしてきました。両生類に属する無尾類(Anura)の性染色体も多様性に富む可能性は以前から示唆されていましたが、機能遺伝子の染色体マッピングによって性染色体の相同性が比較されたことはほとんどありませんでした。そこで私たちは、ZZ/ZW型の性染色体構成をもつアフリカツメガエル(Xenopus laevis)、ネッタイツメガエル(Silurana/Xenopus tropicalis)、ツチガエル(Rana rugosa)、カジカガエル(Buergeria buergeri)4種について機能遺伝子の比較染色体マッピングを行い、性染色体の遺伝連鎖群の比較を行いました。X. tropicalisについては、ゲノム解析によって雌雄間で組換えが抑制されている雌特異的ゲノム領域を染色体上にマッピングし、性染色体を特定しました。
   
  その結果、X. laevisX. tropicalisR. rugosaの性染色体には相同性はなく、それぞれ性染色体の起源が異なることがわかりました。X. laevisでは、同祖染色体(2L, 2S)の内、一方の染色体対(2L)にのみ卵巣決定遺伝子(DM-W)が存在することから、異質四倍体化後に新たに性決定遺伝子が獲得された可能性が示唆されました。一方、X. tropicalisのZ染色体は、B. buergeriの7番染色体(Z染色体)と12番染色体と相同であることが判明しました。しかし、X. tropicalisのZ染色体で動原体分離が生じてB. buergeriのZ染色体が形成されたのか、B. buergeriの7番染色体と12番染色体が融合してX. tropicalisのZ染色体が形成されたのかは不明です。B. buergeriのW染色体には大きな逆位が存在し、その後、長腕の遠位部で欠失、引き続き反復配列の増幅が生じたことを明らかにしました。この研究成果は、無尾類における性染色体の起源や進化過程について新たな情報を提供するものであり、Cytogenetic and Genome Research誌の特集号"Evolution, Genetics, and Genomics of Xenopus"のinvited articleとして、2015年6月17日付でオンライン掲載されました。
   
  
Uno Y, Nishida C, Takagi C, Igawa T, Ueno N, Sumida M, Matsuda Y (2015) Extraordinary diversity in the origins of sex chromosomes in anurans inferred from comparative gene mapping. Cytogenetic and Genome Research  (published online on June 17, 2015) (invited article in the special issue "Evolution, Genetics, and Genomics of Xenopus")

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